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蝉へ会いに行く

 まずは我が友。ニャーロック・ニャームズの2020年の奇行からお話しないといけません。

 この夏のニャームズは良い言い方をすればとても元気で、悪い言い方をすれば『狂って』いた。


『ねぇ。君。僕達はあまりに自然について無知なのではなかろうか?』


 などと夏の始まり頃に言い出したかと思うと、外に出て目につく草花を家に持ち帰り、時に得体の知れぬ木の実を加熱したり冷やしたり『実験』と評し口に入れた。

 当然毒のある物もあり


『やや! 腹痛か! ニャトソン! この実には毒性があるみたいだぜ!』


だの


『おい! ニャトソン! どこにいる!? そこか!? あはは! どうした君! 変な顔だねぇ! アッハッハ!』


 などと体調を悪くしたり脳にキタのか、上記の様な変なことを言ったりした。

 とても傷ついたのを覚えている。


 まぁこの『植物学』まだ許せたが、『昆虫学』の方は友としてひどく恥ずかしい思いをした。

 地を這う昆虫、空を飛ぶ昆虫に見境なく声を掛けるのである。

 猫後を理解できない昆虫は当然ニャームズを無視してどこかに行ってしまうのだが、ニャームズは声をかけ続け、時に叫んで意思の疎通を図ろうとした。 

 これは隣を歩く私の頬を大いに紅くさせ、ヒゲを立たせた。

 『青みがかった黒色の毛並みを持つハンサム猫ニャームズ』が実は『恐ろしい威力の猫パンチを持った世界一頭のいい猫』というのはこの町、鰹が丘の動物達にとっては共通認識だったのだが、昆虫に見境なく話しかけるその姿には流石の彼らも『先生は暑さで頭がやられてしまったのでは?』と心配し、私の元にやって来た。

 私はその度に『彼には彼の考えがあるのです。ご心配なさらず』と彼らの撫で肩※(時に怒り肩)に肉球を置いて落ち着かせたのである。

(直接彼に言えば良いのに)と思う事もあったが、やはりニャームズは彼らにとって『畏れ多い』猫なのだ。

 私からすれば彼は友であり、尊敬できるオスであり『どうしようもない子供』でもあるのだが……。


「今日はハカマイリとしよう。ちょうど彼のイッシュウキだしね」


 我々動物に『マイソウ』や『ハカマイリ』の文化などないのだが、ニャームズは人間のこの『死者を敬う』文化を気に入っていた。


「イッシュウキというのはなんだい?」

「亡くなって一年と言うことさ。一年経ったらハカマイリをし、亡くなった動物の事を思い出す……なんとも粋じゃあないか」

「へえ」


 それは確かにいいかも知れない,

『彼』というのはキャベツが大好きだった老猫『キャベ老』の事であろう。

 キャベ老はとても良い猫だった。

 優しかったのを覚えている。

 どんな色の猫だったかな?

 ……猫の脳みそはあまり大きくないので亡くなって一年も経てばこんなものである。

 それでは寂しいので彼のハカマイリをして彼との思い出を思い出す……ふふっ、『思い出を思い出す』。

良いシャレだな。


「そしてその後はウッドランドに行こうじゃないか」

「……」


一気に憂鬱になった。

『ウッドランド』、彼が名付けた植物の楽園である。

 キャベ老が寝床にしていた廃屋の奥の森に見つけた人間が管理する場所だ。

 そこでは『人間がお金にするための花や木』を育てているとニャームズは言った。

 クリスマスの為のもみの木、愛を告白するためのバラ、紙を作る為の『おナス』? だかなんだかかんだか……。

 自然を売ってお金という紙にする。

 なのに紙を作る草も売る……人間とはなんとややこしい事をするのだろう。


「ニャームズ。君はそちらが目的なのではないかね? ウッドランドには君のお気に入りの蝉

もいるしねぇ」


 蝉と言っても幼虫の蝉である。

 ニャームズは地中にいる蝉の幼虫……『ミス・セミィ』との意思の疎通を試みていた。

 流石にそれは彼と言えど無理だろうと思いながらも彼は健気に話しかけ、蝉語を理解しようとしていた。


「では行こう。おしっこはしたかい? 猫紳士は家の壁や木の陰でおしっこなんてしないからね。出かける前に我らが愛しい飼い主。フジンに挨拶しておいで!」

「……」


 無視するとはなぁ。まぁいい。多少は動揺させてやったという事であろう。

 彼には絶対に口では勝てないのでこういう時は少し気分が良い。


 私は彼に言われた通りフジンに挨拶しようとするとフジンはゲーミングPCなる物と向き合っている。

 彼女はこの春辺りから外出が減り、このゲーミングPCと向かい合っている時間が増えた。

 PCは『ソニッブー! ソニッブー! ハドーケン! ハドーケン!』と訳の分からない鳴き声(?)をあげている。

 『ヨー・ウィン!』とPCが鳴くとフジンはこちらに気がついたのか『タイアリでした!』と言った後、私を撫でてくれた。

 その撫で方が大変気持ちよく、私は思わず『グロ・ゴロロ・グララ』と喉を盛大に鳴らしてしまった。

 彼女は猫を気持ちよくする優れた指とテクニックを持った素晴らしく猫に良い人間だ。

 私とニャームズは彼女を大変気に入っている。


「おんもに行くのかい? 気を付けてね。咳をしている人には近付いたらダメよ?」


 私は了解の意味を込めて「ニャー」と返事をしたのだった。



  

  







 


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