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9. 真っ暗闇

「ここから個室だよ」

伊藤さんがカタッと戸を引く音が聞こえた。手を伸ばして、板の感触を確かめた。

「30センチくらいの段になってる。足をあげて」

言われるまま、足をぐっと持ちあげ、さぐると、固い板の間のへりに触った。もう片方の足もあげ、板の間にあがる。ガツッ。頭を壁にぶつけた。「いてっ!」。


「気をつけて。ここはうんと狭い個室だから。さ、ここに座って」

 伊藤さんはぼくの腕をつかんで、座るよううながした。

「後ろに一応、座布団あるから、どうぞ」

まさぐってつかんだ座布団はぺったんこで、板の上に座っているのと変わらなかった。


「ここは瞑想の部屋だよ。気持ちをできるだけ長い間、静かに整えるんだ。さっきのところは体をきたえるところで、ここは精神をきたえるところなんだよ」


「い、伊藤さん、て、て、手をつないで…もらえる?」

 声はすぐそばから聞こえるのに、闇の中で何も見えないのに我慢できず、小さい子どもみたいなことを言ってしまった。伊藤さんの温かい手がぼくの手に触れる。それだけでとても安らかな気持ちになった。


「ずいぶん時間がたったのに、どうしてぼく、何も見えないんだろう…」

 そうつぶやくと、伊藤さんがやさしく答える。「怖いと思っていると、心が開かないんだよ」。


「……。伊藤さんは……最初、怖かった?」

「もちろんだよ。みんなそうだよ」

 ぼくはちょっと安心した。


 この部屋から出るのは簡単だった。「完了、去れ!」と伊藤さんが言うと、外の廊下に立っていたんだ。


 廊下はもっともっと、ずうっと奥まで続いていたけど、さっきの天井と同じで、奥は暗くてうんと遠くて、見えなかった。


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