7. 9歳で大人になる
「ぼくたちは……天狗族は、9歳から大人扱いされる。9歳になった時に天狗だってことを告げられる。自分が天狗だということに目覚めるわけ。で、天狗になるかどうか、自分で考えて決めなくちゃならないんだ」
伊藤さんはそこまで話して、一息ついた。9歳…。ぼくは一週間前に9歳になった。お父さんとお母さんが「9歳」をことさら強調して、今までの誕生日以上に喜んでいたのはそういうことだったのか。でも…。
(お父さんとお母さんが話してあげることはできないの。掟だから。)
さっき読んだ手紙には、そうあった。
「伊藤さんは……ここに……掟で来たの……?」
おそるおそる聞いた。間近かに見ると、伊藤さんはすごく大人っぽかった。
「そう。まったく知らない人から聞いたほうが、冷静に受け入れられるだろうってことで。一番みじかにいる年の近い天狗が「担当者」に任命される。目覚めの日が決まると、うまくいかせるために天狗たちが動くんだ」
はっとした。「もしかして、山田も天狗なの?」。声がうわずった。
「山田? だれ?」
「3組の…同級生…」
「知らない。三神峯小では、巧とぼくだけだよ、天狗族は」
「ふうん……」
山田は天狗じゃない。じゃあ…。「お父さんとお母さんが……目覚めの日にかかわるってことは……?」と聞くと、伊藤さんは首をふった。
「それはない。親族は関わってはいけないことになっているんだ。担当者も、日時と場所を知らされるだけで、それ以外に関わってはいけないんだよ」
ぼくが口を開ける前に、伊藤さんは、
「あ、そうか、ごめんごめん、先に言っておくべきだった。学校と家のほうは大丈夫、他の天狗が君になり替わって帰ったから」
と、ぼくの肩をぽんとたたいた。
「え?」
「変わり身の術だよ」
天狗はそんな術も使えるのか。それなら誰もぼくを探しに来ないのは当たり前だ。
伊藤さんは立ち上がってぼくの腕を取った。「さ、じゃ、行こうか」。
「どこへ?」
「練成所。目覚めの日に必ず行くことになってるんだ」
「ま、待って。ぼく、左の足首が痛くて…歩けそうにないんだ」
「どれ、見せて」
伊藤さんは袴から小さな手拭いをさっと出し、ぼくの左足首をさわって確かめると、手拭いを足首に当てて、ぶつぶつと呪文のような言葉を言った。なんて言っているのかはわからなかった。
「さ、もういいよ」。おそるおそる左足をあげてみると、痛くない! す、すごいや。これも天狗の術?
伊藤さんはさっと天狗の面をかぶり、懐から大きな団扇を取り出した。本で見たことがある、天狗の羽団扇だ。「つかまって」。ぼくは伊藤さんにしがみついた。たった一振りしただけで、ものすごい轟音と風がまきあがり、ぼくは思わず目をつぶった。




