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6. 天狗の血

伊藤さんはひょろっと背が高いのに存在感がないというか、目立たない。口数も少ない。同級生にいじめられているのを何度か見かけたことがある。4、5人分のランドセルを持たされていたり、靴を隠されて探し回っていたり、お尻をけられながら歩いていたり。ぼくには他人事に思えなかった。


「なん……で……?」

 伊藤さんはぼくの隣りに腰をおろし、静かに話し始めた。


「ぼくも2年前、巧と同じように突然目覚めの日だって告げられたんだ。もちろん、信じられなかったよ。今の時代に天狗だなんて、冗談にもほどがあるよね? 

ぼくの担当者は、男子中学生だった。体がでかくてごつくてね、天狗っていうより相撲取りだった」

女の子みたいな少し甲高い声で伊藤さんが笑った。天狗らしさはもうなくなっていた。


「天狗はね、伝説じゃなくて本当にいるんだ。ぼくたちみたいに同じ人間の形をしているから、見た目にはわからないけれどね。違うのは天狗族の血が流れているってこと。それを途絶えさせないように、守っている。先祖伝来の術や法を次に伝えるために」


「……」

 天狗の血が、ぼくに流れているだって? うそみたいな話だ…。


「でもね、今の生活を捨てて天狗になれ、って言っているんじゃないんだ。昔は強制的にそうさせられていたんだけど、反乱が起きてね、何人もの天狗族が死んだんだって。だから日本中の天狗族が協力し合って(おきて)を作ったんだ。本当の天狗になるかどうかは、本人が決めることにする、って」


「……」


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