3.置いてけぼり
いま登ってきた初心者用とは違うルートへ降り、山田は林へ入っていく。頂上にいるみんなの姿が小さく、そして見えなくなっていく。木陰はぞっとする涼しさだった。
「それじゃあ…」と山田が言ったのを合図に、とりまきがぼくを押さえ込み、タオルでぎゅうぎゅう目隠しをされた。
「大きい声を出すな!」。山田がきつい口調で命令した。
「おとなしくしてないとまたけがするぞ」
歩けとばかりにぼくは背中を押された。腕をひっぱっられ、ふらつきながらそれに従っていくしかなかった。
誰も、何も言わない。土を踏みしめる音、植物を踏んだり、ほほにぶつかってくる小さな音さえ、やけに大きく耳に響く。
どこに連れて行かれるんだ?
足もとがおぼつかず、何度も転びそうになった。
「ここらでいいだろう」と山田がやっと口を開く。
ぼくは、どんと突き飛ばされた。
「じゃあな!」と言ったのは中本だ。
走り去る音が遠のいていき、やがて聞こえなくなった。
あたりは静かになった。
……置いていかれた? ぼくはきつく結ばれたタオルを必死にほどきにかかった。
やっとタオルがほどけ、ぼんやりしていた景色がようやくはっきりしてきた。
誰もいない。どこかもわからない深い森の中に、ぼくは本当に置いてきぼりにされていた。
唇を思い切りかむ。ここから、どうやって戻ればいいんだよ?!
携帯を取り出す。通話圏外。
1時20分。集合時間はとっくに過ぎている。
先生が心配して、ぼくを探しているだろう。早く戻らないと。
ぼくは山田たちの靴跡をたどっていくことしか浮かばなかった。
ありがたいことに、足跡は残っていた。草をかきわけながら必死に追う。
汗がぼたっ、ぼたっと地面に落ちる。
暑いし、地面ばかり見ていたので、目まいがし、木の根につまずいて転んだ。
と思ったら、すべって――落ちた――。
今度こそ死ぬ。本気でそう思った。
ひりひりするこすった腕と頬、したたか打ちつけた尻の痛み。
ぐったり横たわっているぼくの体は動くことができず、わきあがってくるのは痛みばかり。
こんなにしびれて痛いって感じるのは、死んでないって証拠だな。
まぶたをあげると、崩れ落ちた崖が頭上にある。
どのくらい時間がたったのかわからない。
なんとかいけそうだと感じ、そろり、そろりと身体を起こしていった。
「いたっ!!!!」
あちこちがズキズキと痛い。のろのろと上体を起こし、一息ついて見たら、崖はそれほどの高さではなかった。
トランポリンがあったら一気にとびあがれるだろう。