2.なぜいじめられる?
末尾の生徒が頂上に着くと、クラスごとの記念撮影をした。そしてお弁当。
そのあと下山の時刻1時まで、しばらく自由行動だ。
ムノウ山の標高は1532メートル。山頂は平らで、思った以上に広く、ちょっと下ればさまざまなルートの登山道が通っているので、多くの人で賑わっていた。
ぼくは先生に呼ばれて、さっき転んだ傷を消毒し、ばんそうこうを貼ってもらった。
「巧くんは体操をやっているんでしょう? 体が柔らかいと同じように転んでも大きなケガにならないのよね? 巧くん、上手に転がり落ちたんだわ、こんな傷ですんだんだもの」
先生は「私は体が硬いから、うらやましいな」と言って、屈伸してみせ、ほらね、と笑った。指先は膝くらいまでしかいかず、ぼくは苦笑いした。
山田にいじめられても大事に至らなかったことは何回もある。
病院の先生からは、転び方が悪かったら骨折でしたよ、つき指ですんでよかったですね、って言われた。それが体操をやってたおかげだなんて、思いたくない。
ピアノがやりたかったぼくに、無理やり体操を習わせたお母さんに最初は腹を立てていたけれど、今では体操が大好きだし、ぼくの数少ない(悲しいかな)取り柄のひとつなんだ。
山田にいじめられ始めたのはここ半年くらいだろうか。理由はさっぱりわからない。
クラスも一緒になったことがないし、話したこともない。ぼくは頭がよくもないし、顔がいいわけでもない。
背は低いし、どちらかというとおとなしいほう。
でも内面は違う。熱い思いがうずまいていて、正直に表に出したら最後、止められずにまずい事態になると思う。
喧嘩はきらいだから、そうならないように、みんなとうまくやっている。けっこうそれもつらいんだけどね。
そんな気つかいのぼくなのに、なんでいじめられる?
山田は学校内の、人の目がつくところでは絶対にいじめてこない。誰もぼくがいじめられているのを見ていないんだ。
お父さんとお母さんに話したら、相手にしなければそのうち飽きるだろう、と言った。
我慢してみるのも勉強だって。
親って、普通はそんなこと言わないんじゃないの。守ってくれるものじゃないの。
いじめって、されてみないとどんなにつらいかわからないと思う。いくら呑気なぼくだって、我慢の限界ってあるよ。
リュックを置いた場所に戻ると、なくなっていた。「おれのリュック知らない?」と聞いて回ったけど、見つからない。
まさか……やられたか。
山田を目で探すと、いた。ぼくのリュックを肩にかけて、中本と佐藤と一緒ににやにや笑っている。あごをしゃくって、こいよとうながす。ぼくはしぶしぶ近づいた。
「ちっちゃい体のわりに、重い荷物だねえ」
山田はリュックを開けようとした。
「やめろ!」。ぼくはリュックを取り返そうとしたが、あっさりとかわされた。
「それじゃあ、ついてこいよ」
「いいところに連れていってやる」
「黙ってついてきな」
つっかえされたリュックを急いで背負う。
そのまま逃げればよかったのに、逃げたあとのほうがもっと怖い気がして、着いていってしまった。ぼくは、いつまでこうしていいなりになっていなければいけないんだろう。




