13. 天狗の力
首をひねるぼくに、伊藤さんは続けた。
「たとえばね、人の未来を見る力がある人は占い師になったりとか、力持ちの人はレスラーや警察官になったりとか」
「ああ、そういうことか」
ぼくはやっとうなずいた。
「ほら、さっき会った、ぼくの担当者だった山木さんね、高校に行くのをやめてもう働いているんだよ。山木さんの家はお父さんが小さい頃に病気で亡くなって、お母さん一人で山木さんと妹と弟の3人を育てているんだ。
生活が苦しいから、山木さんは高校に行くのをやめて、運送会社で働き始めたんだよ。山木さんはすっごい力持ちでね、この練成所でも、大人の人が負けるくらい強いんだよ。あの体格だしね。
それでその力を生かして運送会社に就職したの。一人で何箱もいっぺんに運ぶんだって。怪力王とか言われて、有名なんだよ。踏み外して荷物と一緒に階段から落ちそうになった社員を下でしっかと受け止めて、まるごと抱えて運んだって話だよ」
「へえ! すごいんだね」
あの人ならそんなことも可能だろう。
「天狗の力は、すごいんだよ。人と同じことをしても、2倍、3倍の力は当たり前のように出る。もちろん、それは本気になったら、ってことだけど。さっき先生が言ったみたいに、ちゃんとした理由がある本気だよ。人を傷つけたり悲しませたりする本気じゃだめなんだって」
「ふうん……」
友達にいじめられている伊藤さんが、頭に浮かんだ。いじめっこをこらしめるのは、理由がある本気じゃないんだろうか? 天狗らしいし、伊藤さんならその気になったらあっという間にやっつけられるだろう。ぼくだって――。
「伊藤さん、本気になったことある?」
「まだない。本気になってるつもりでも、まだまだだって。まずは体を鍛えなくちゃ」
伊藤さんは本気になったことがない。ぼくは、ぼくだったら――本気になれる。人の2倍、3倍の力が出るなんて、すごいな。でも、そうなるまでには、今見てきたような、たくさんの修行をしなくちゃいけないんだ。




