表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/19

10. 天狗の道具

「この部屋が最後だよ」と、伊藤さんは次の戸を開けた。

そこには、壺だの、たんすだの、着物、扇子、団扇、下駄――。古いものが畳の上から棚の上から、隙間なく、びっしりと並んでいた。まるで骨董屋(こっとうや)だ。


「ここはね、技や術を身につけるところだよ。身につけたいものを持って「おたのもうすー」って言うと、その先生のところに行けるの。やってみる?」


 ぼくはお店の中を見渡し、(みの)を見つけた。

「あれ、もしかして、天狗のかくれ蓑?」

 伊藤さんはうなずいた。日本昔話に出てくるかくれ蓑、本当にあるんだ!


「これにするよ」。「じゃあ、「おたのもうすー」だよ」。「すー」が微妙に伸びて方言みたいになるのもまねしなくちゃいけないのかな。ぼくは伊藤さんのイントネーションをまねて、「おたのもうすー」と言った。ヒュン!と景色が変わった。


 先生らしき大きな天狗が仁王立ちになり、ぼくくらいの男の子に向かってしゃべっていた。あの子も今日が目覚めの日なんだろうか。


「隠れたい理由を述べよ」と言われ、男の子は答えられずに下を向いた。

「先客がいたね。あ、山木さんだ…」


男の子の後ろに立っていた天狗がこちらを向いた。お面はつけてない。日に焼け、ひときわ大きい体は締まっていて相撲取りみたいだった。伊藤さんが会釈をすると、白い歯をむき出しにしながらドスドスと歩いてきた。


「おー、伊藤も来てたのか。えっと…、担当者?」

「はい。初めて担当者に指名されたんです…緊張しちゃって」

 と、頭をかく伊藤さん。緊張してたなんて、そんなそぶり、全然なかったけどな。


「巧、この人がぼくの目覚めの日の担当だった、山木さんだよ」と、伊藤さんが紹介してくれた。ぼくの倍くらい背が高くて横幅もある山木さんの迫力に、ぼくはたじろいでしまう。


「こ、こんにちは…」

 おじぎをしたぼくの洋服の襟元(えりもと)を突然つかみ、山木さんは片手でぼくを猫みたいに持ち上げた。ヒッ。

「山木さん!」。伊藤さんがあわてて制する。山木さんがぱっと手を放したので、ぼくはべちゃんと下に落ちた。

「ずいぶんと軽いな。でもすばしこそうだ。よろしくな」

 山木さんはでっかい手を出して握ってきた。骨が折れそうなくらい強い力で、痛くて、ぼくはすぐに手をひっこめた。


「蓑に隠してもらうわけだから、隠れる正当な理由がなきゃあ、ならん。よこしまな考えだと、隠してはもらえん」

 先生の説明はまだ続いていた。「相変わらずの生真面目さだろ」と、山木さんが伊藤さんに耳打ちする。「そうですね。でもぼくは好きですよ」。伊藤さんが笑った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ