09 厄介な事になった!
今日は一話だけの更新です。明日も25時に更新します。
さて、何はともあれ、話の流れから俺たちはニルと共に一年次対象に開講される講義を覗きに来たわけだが。
「おい、なんでこんなところに特例のやつがいるんだよ」
いの一番に絡まれました。それも俺が。
俺に難癖をつけたやつと、そしてその取り巻きとが俺を取り囲み、逃げ場を無くす。これがいじめってやつか。俺が何をしたって言うんだ。
『自業自得だな。わざわざちょっかいなんてかけに行くお前が悪い』
うるさい! ちょっとあれな雰囲気になっていたクラスを少しでも盛り上げてやろうっていう気遣いじゃんか! それがこうなるなんて誰が思ったんだよ! それにこいつらちょっとうるさかったし……。
だいたい俺は、今俺を親でも殺されたかのように睨んでいるこいつ――テンパくんと呼ぼう――がぺちゃくちゃと喋りながら座ろうとしたところで椅子を引いただけなんだよ。これでどっと笑いが起きていい感じに輪に入ろうとしたんだけど、ちょっと価値観が合わなかったみたいだな。目の色を変えて俺のところに来やがった。まあ嘘だけど。普通にうるさかったしこいつら。
それにノエリアもやってやれ、お前がやらなきゃわたしがやる、みたいなノリだったじゃんよ。なんで自分だけ何のかかわりもありませんみたいな顔してニルの隣にいるんだよ同罪だよお前も。
「聞いてんの? それとも特例に突っ込まれるようなやつは言葉も分からないのか?」
ん? どういう事だそれは。特例クラスって言うのは俺みたいに前は学校に通ってなかったけど途中から編入するみたいな意味の分からん経歴のやつが面倒になって入れられるクラス的に思っていたんだが。
いや、そう考えると普通に一年生として入学してきたニルはどうなるんだ? 別に何か理由でもあるんだろうけど。
少なくとも教頭先生の口調からはそんな風な蔑みみたいなのは感じられなかったけどな。
「本当にすまん。もうちょっと面白い感じになると思ってたけど、全然そんなことなかったわ」
こういうのは心持ちというものが大事だ。俺の適当な思い付きから始まったことだ。それなら今のこの微妙に笑うに笑えない雰囲気も俺のせい。
なら謝る一択だ。こいつにじゃなくて周りのやつにだけど。
「……お前、舐めてんの?」
あれぇ? 確かにどんだけ勢いよく座ろうとしてたのか、すごい音がしたけど、そんなに怒る? ちょっとした冗談ってやつじゃん。
椅子を引きたくなるような感じで立ってる方も悪いって。それにこいつの取り巻きの一人明らかに俺が後ろから近付いてるの気付いてたのに見ないふりしたんだぞ。
あ、ほらお前だよお前。そこの俺に劣らずのイケメンくんよ。
目が合ったのに気付いたのか小さくニヤリとし、誰にもバレないように口許に指を立てた。
くそがっ! これだから様になるイケメンってやつはよぉ!!
「……お前自分が誰に喧嘩を売ったのか分かっていないようだな? おい、僕は誰だ?」
後半は俺ではなく、後ろに立っていたイケメンくんを顎でしゃくっての台詞だ。
そんな扱いをされたイケメンくんは嫌な顔一つすることなく一歩進み出た。
「『アリアストラレーナ』に存在する44の領土の内の一つ、『ソライド』を治める領主――モナク・ソライドの子息のヤシュアータ・ソライド様であらせられる」
驚いたな。本当にそんな大物が入学するような学校なんだな。
そりゃあ、こうまでふんぞり返るのも分かる。俺でもそうするかもしれない。
「格の違いが分かったな? 大方、どこぞの庶民がまかり間違って入学してしまったんだろうが、この僕に喧嘩を売ったのが運の尽きだったな。……お前、もう終わったぞ」
「終わった?」
「ああそうさ! この学院を卒業する奴らがどうなるか知ってるか? モナクや都市長――ロードが直接運営する魔法騎士団に配属されるんだよ!」
ほうほう。まあそのまま魔法の研究をする人だっているだろうし、もしかしたら農家の実家の手伝いに戻る人もいるかもしれない。
だけど、おおむねこいつの言った通りではあるだろうな。
「次期モナクの僕の一声でお前の配属先――いや、そもそも魔法騎士になれるかどうかすら決まる。そんな僕に、お前は恥をかかせたんだよ」
集団で寄ってたかって一人をリンチしている今の現状を恥と思えないならあれくらい大丈夫だって。
いや、権力を自覚しているからこそのこれか。羨ましい。何がって女の子がいる。権力に弱い人にしなだれ掛かられるのも悪くなさそう。
「今さら謝ったところでもう遅いからな! お前の事は覚えたぞ! 身の程を知れよ、貧民」
「あー、勘違いをしないで貰いたい」
「……何?」
魔法騎士も確かに魅力的な職だろう。各国への牽制と『無形』への対応が主な仕事だが、『ドミニエル魔法学院』があることから分かる通り、この国の魔法使いは優秀だ。危険も少ない。
近頃は『無形』の出現数が増加している傾向があるなんてまことしやかにささやかれてはいるが、所詮噂の範囲を出ない。この国での将来の事を考えるなら、どこぞの魔法騎士団に入隊するのが一番だろう。
だから、ヤシュアータが言った直後から、俺へと向ける視線が憐みのものへと変わった。そして自分が巻き込まれてはかなわないとばかりに露骨に目を逸らす。視界の端っこで何故だか身を乗り出そうとしているニルを抑え込んでいるノエリアが目に入った。何をしているのかと思えばそんな事になっていたのかそっちは。
グッジョブだノエリア。君には後からフレンチトーストを振舞ってやろう。
俺が絶望に打ちひしがれる姿を想像していたのだろうヤシュアータは、最初こそ愉悦の滲んだ表情を浮かべていたが、なかなか俺が思うような顔を見せないので、次第に訝しむような表情へと変わっていた。そんな顔されても困るんだがね。まあ、宣言する事も大事だし、言っちゃうか。
「俺は魔法騎士にはならないよ。……俺が目指してるのはメレフ、だからな」
やらかしましたね。相手を見てちょっかいをかけるべき。
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