08 学院生活初日!
本日二話目です。次話も明日の25時に上げたいと思います。よろしくお願いします。
さて、何はともあれ、そんなこんなで俺の華々しい学院生活が始まった。
『ドミニエル魔法学院』は大まかに分けて三つの棟がある。一つ目は学院本棟。通常クラスの一年生から九年生の教室、職員室、その他もろもろの充充実した設備が整っている。
二つ目は俺たちの特例クラスがある別棟。一応こちらにも申し訳程度の設備はついている。本当に小振りなものだけど、ないよりはましだ。
教室は特例クラスのものの他に、多目的教室が数個と物置みたいなところもあった。それでも街の図書館程度には広く、お金のかかり具合を考えると恐ろしい。
三つ目は学宿舎、学寮、呼び方はなんでもいいけど、とにかく生徒が寝泊まりをする場所だ。『アリアストラレーナ』最大の学術施設という事で、『ドミニエル領』の中でもこの街、『ニリヘル』以外からも人が来るし、『アリアストラレーナ』の央光地域――中央の直轄領に位置するにも関わらず他の領地からの生徒も多いらしい。
それも本棟と別棟で分けられてるから隔離されてんな、とは思う。まあ気にせんけど。
ともあれ、ちょっと話をした感じ、ニルちゃんもおそらくここじゃない別の領土の出なのだろう、ちょっと話し方なんかに違いが感じられた。まあ俺もそうだから人の事を言えないし、俺みたいなのになれば方言を共通語に脳内変換する事も余裕だけど。
「おい、どうした虚空なんか見つめて。いつものえあ友ってやつか?」
「そんなのいた事ないんですが」
今日も朝から熱い風評被害を受けたところでノエリアと部屋を出る。そうそう、なんと俺はこれまた特例でノエリアと同室になっている。まあ『伴神』と同室にならない方がおかしいっちゃおかしいけども。
ちなみに、ノエリアの事については皆に話していない。教頭先生の行った通り、今同年代で『伴神』を顕現させている人なんて一握りだ。
それこそ『貴族人』くらいなもの。そんな中ぽっと出の編入生が堂々と『伴神』を連れてみ? ノエリアの事だから「なんだ、そんなことか」、なんて言って聞き入れないに決まってる。
それはともかく、食堂でもいくか。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「お、ニルじゃん」
ちょうど食堂に着いた頃、同じように食堂に入ろうとするニルを見かけた。今年度特例クラスに入ってきたのは俺とニルの二人、俺は三年次からの編入なので実際はニルの同年代は一人もいないという事になる。それもあってか、ニルは自室から一人で来たようだった。
「あ、デューイさん、ノエリアさんもおはようございます」
ふわふわな緑の髪を揺らしながらお辞儀をする。あまりの礼儀の正しさに俺も釣られて腰を九十度折ってしまいそうになるくらいだ。
挨拶だけして席を別にするなんて悲しい事をするわけもないので、そのままニルと一緒に食堂に入る。ニルも特に何かを言ってくるという事もなかったので拒否はされていないのだろう。もしされても付いていくけどな。ノエリアと一緒に食べるんじゃ家にいるのと変わらんし。
「――そういえば、ニルはかりきゅらむは決めたのか?」
腹もくちくなった頃、ふとノエリアがニルにそう問いかけた。
そこが特例クラスの特例たる所以で、我がクラスには年次別の教育課程というものが存在しない。いや、通常クラスにないのかと言われればそんな事はないのだけど、通常クラスが四年次から選択を取り始めるのに対し、年次の入り混じった特例クラスは一年生の内から好きなようにカリキュラムを組むことが出来るという、怠け者に優しい設定なのだ。そりゃ朝礼に来ない人もいるわな。昨日のは朝礼どころか昼だったけど。
「正直まだ迷っていて……。必修のものは今年の内に取れるだけ取っておきたいとは思っているのですが……」
必修を取れるだけって、え、いくつあると思ってるんだ。基礎と専門合わせると二十を超えるぞ? いや、まあ確かに全部取るとは言ってはないけど、この意気込みの感じ、ほんとに一つか二つを残すほどに取りそうだ。
「それなら一緒の取らない? 俺、編入だけど前別に学校に通ってたわけじゃないから必修何個か取らないといけないんだよね」
それなら一年生として入ればよかったじゃんと思わないでもないが、何分師匠が勝手に編入までこぎつけていたので俺の意見の入る隙間なんて初めからなかった。
まあある程度詰め込まれてる手前、そんな基礎の基礎からやれって言われても途中で行かなくなりそうでもあるけど。
「いいんですか!? あ、いえ、その……」
え、ちょ、嘘だよね? そんなに身体を前にのめりこませるくらいに嬉しいのに、その方向がノエリアなんだけど。提案したの俺なんだけど。
ああ、いや、つい同性の方に向いちゃうって事、あるよね。分かる分かる。ちょっと恥ずかしくなっちゃうんだよなー。
「ニルは……、あっ、私は――」
「別に無理に呼び方変えなくてもいいと思うけどな。分かりやすくていいじゃん」
「これの意味不明な気遣いは無視しろよ。……それを抜きにしても、わたしもデューに同意だな。素の自分を偽っても、良い事なんて一つもないぞ」
それに可愛いしな、自分呼び。ぶりっ子って同性に嫌われるかもしれんけど。
まあ嫌う同性なんてノエリアくらいだし、同性って言えるかどうかも怪しいやつにどう思われても痛くも痒くもないだろう。
「……ありがとう、ございます。嬉しいです」
そう言ってはにかんで笑うニルの笑顔は今までで一番いいものだった。最高だねやっぱ。
結局そこから少し話し、俺たちはニルと一緒のカリキュラムにすることにした。別に俺が取る必要がない科目もあったけど、まあそれもいいものを見せてもらった分のお礼という事で一つ。何しろ暇になると困るのは俺だ。行くところがない。
「この後は取る予定の講義を覗いてみるのか?」
ニルが取る、という事は一年次の講義が主体、という事だ。二年や三年の講義も取れるけど、さっき聞いた限りはニルは一年の分を優先的に取るようだった。
「そうですね……、とりあえずやってる分は全て覗いてみようかなと思っています」
「ニルは勤勉だな。それに引き換え……」
言葉を区切ってこっちを見るな駄女神。神は人に似るっていうことわざもあるんだぞ。それは回りまわって自虐に繋がるんだよ。
今一つ俺に対して心と、ついでに身体の距離を取っているニルへの何とも言えなさを、前で並んで歩くノエリアにぶつけておいた。
けけけ、あいつは明日腹を壊すだろう。神様ってトイレとか行くのかな。今まで聞いた事もないけども。
担任はいるものの、基本的にこの学院では生徒が自主的にカリキュラムを組むため、担任と何かをする、という事はほとんどありませんね。その先生の受け持つ授業を取れば別ですが。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。