07 特例クラス、おそるべし!
本日は二話投稿です。こちら一話目となっております。
「えー、新しく編入してきたデューイと言います。えー……、ヨロシク!」
何事も最初が肝心。この時のために色々と取っておきを用意していたはずだったんだが、そんなものはもう吹っ飛んだ。
俺は頬をぎこちなく吊り上げながら黒板の前に立ち、教室を見渡す。
特例クラス。教頭先生に勧められ、早速俺はそのクラスへと向かった。ちょうど授業案内をしているところだそうで、そのままそこに合流してもいいとのこと。
本来なら俺はもっとはやくここに着いているはずであり、こんな強引な形での編入になることはなかったはすまだった。何も言ってこないなと安心していたら最後の方で、『それはそれとして、刻限は確りと守らなければなりませんよ』、と釘を刺されてしまった。
柔和な笑顔が怖いと思ったのは初めてだよちくしょう。
「先生はもう少し遅れるってことで、もうちょっと自由時間を楽しもうぜ!」
何でこんなにテンションが高いのか、それは教室の雰囲気を見れば分かってもらえるだろう。
広さは恐らく一般的。この教室は校舎本棟を通り抜けた先の別棟にあり、来る道中に見かけたクラスも大きさはこれくらいだった。
じゃあ何が問題か。俺は今一度教室をゆっくり見渡す。
右から一、二、三……、あ、さっきの女の子だ。教室に入った時から驚いて何度もちらちらとこっちを見てきたけど、あえて視線を合わせないようにしていた。何でかって、そりゃ恥ずかしいからだよ。
ようやっと視線が合って恥ずかしがりながらも小さく会釈をしてくれたので、こっちも分かるように目礼する。伝わったかな?
ああ、まあそれも大事だけど今は置いておいて。五、六、七。
何の数だか分かりますか? そうです、俺たちを除いてこのクラスに今いる人数です。こんなの空元気でもぶちまけなきゃやってらんねえよ!
「ノエリアだ。よろしく」
……そしてもう一つ重要な事。なんと、編入生が増えました。
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席は自由との事だから、適当に座らせてもらう。本当は一番後ろの席がよかったけど、あそこはダメだ。見るからに見た目がやばいやつがいた。無理。
編入生という事でちょっとだけみんなが集まってきて質問攻めにされるな、とか考えて予め受け答えを脳内で練習してたけど完全に無駄になった。何せこっちに興味ありそうな人なんて一人くらいしかいない。それも隣。
「えっと……よろしくお願いします?」
はいよろしくお願いします。選んだのはもちろんさっきの女の子の横だ。反対側に漏れなく邪魔者が付いてきたがこの際仕方がない。
「さっきも言ったけど、俺、デューイ。こちらこそよろしく。あとさっきはごめん」
「ああ、いえそんなっ! ニルの方こそすみませんっ……! まさか、あんなことになるなんて……。あっ、ニルはニルです!」
ばっか、こっちは人生が終わるかどうかの瀬戸際を助けてもらったんだ、もう一生尽くす所存だよ?
「あっ……! ごめんなさい、変です、よね……? ニルじゃなくて、わたし、です」
おいおいおい、なんだその、ふわっふわな髪の毛を両手で持って口元を隠す仕草は。わざとらしさがないどころか、違和感すらない。ほんまもんの天然もんやでこれは。なんだこの口調。
仄かに赤く染まった顔とそこに被さる薄い緑髪のなんと映える事か。これはもう、あれだな。それだよ。
「ふうん。ニルというのか。わたしはノエリアだ。よろしく頼むよ」
「おい、今俺が話してんだろ」
「なんだ? 今はわたしががーるずとーくというやつをしているんだ。邪魔をするなよ」
「あ? 邪魔をしてんのはそっちだろ。俺は新入生として交流を深めてんだよ」
「それを言うならわたしもそうだけどな。それにお前みたいな女に飢えてそうな見た目のやつより、わたしみたいなのの方がニルも話しやすいだろうしな」
「ばっ、ちょっ、なんて事言うんだよ! 誤解が生まれるだろ!」
この性悪女め……! まじで許さんぞ。ああ、ニルがおろおろしちゃってる。安心してくれ! 俺はちょっとばかり女の子に対して興味があるだけなんだよ無害だよ?
そんな風にしてノエリアとニルちゃんを取り合っていると、扉をノックする音が聞こえてきた。ぶっちゃけさっき聞いた感じの音だ。
「みなさん、ごきげんよう。遅れてしまって申し訳がないわ」
「教頭先生……?」
え、教頭先生が担任なの……? さっきは担任の先生に伝えておく、みたいな感じで別れたのに?
俺が戸惑っているのをおかしそうに笑って教頭先生は教鞭なのか、細いタクトを軽く振った。その動きに沿う様にして扉が開き、そしてそこを宙に浮かんだ紙の束が走り抜けてくる。
神具を使った詠唱破棄だろうか。それにしても見惚れるような魔法捌きだ。風を中心としていくつかの系統の魔法を組み合わせて使っているのだろう。本職の魔法使いならもっと分かるだろうけど、俺にはそれくらいが限界だ。
「何人かいない方もいるようですけれど、その方とは後々話を付けるとして、今はここにいるあなた達に明日からの学院での過ごし方を教えるとしましょう。――その前に、自己紹介でもしましょうか」
そう言うや否や、教頭先生は空中で流れるようにタクトを躍らせる。するとその軌跡をなぞるようにして文字が浮かび上がった。
「メレノイア・ハルラン。この学院の教頭を務めています。そして、今日からあなた達の担任となりますわね。よろしくお願いいたします」
いい先生なんだろうが、嫌な予感しかしないな……。目でも付けられたか……。ちょっとうへえっと思ったのは内緒にしておこう。
半分以上が来てないクラスなんて絶対行きたくないですね。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。