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06 写身の水晶、光れ!

本日最後の三話目です。明日からは二話投稿するか、一話にするか迷っています。どちらにせよ更新は25時になると思います。

「これの説明はするまでもありませんね?」


 手に持って軽く揺するその器具の正体は『写身の水晶(ウーバー・クォーツ)』――使用した人の加護の色、数などの詳細を確かめられる魔法具だ。教頭先生の言う通り、これを知らない人は恐らくいないと言っていい。誰だってこの国で生きていれば三歳、五歳、七歳の時に行われる『加護授かり儀』には使う事になるからな。俺も使った。もっともこんなに小型化されていない、もっと大きなものではあったけど。


 魔法具、という事から分かる通り、一般にはその仕組みは解明出来ていない……らしい。だけど、これが発明されてからは教育面はかなり発展したらしい。

 何しろ加護の数や色なんてものは魔法を扱う上で直接的に影響してくる。それをちゃんと把握出来ておけば個々人の得手不得手によって効率的に知識を吸収する事が出来るからだ。


「さて、まあ必要もないとは思いますが念のため使い方を教えておきましょう。――その前に、出ていらっしゃい『クオラストラエラ』」


「――む、メレノイア。何用か」


 教頭先生の呼びかけによって背後にすぅっと人影が現れる。その語り口調とは裏腹に目の周りを分厚い布のようなもので覆った少年だ。だが、見た目がそうだからといってただの存在であるわけではない。


(わたくし)の『伴神』の『理念と博愛の神クオラストラエラ』よ」


「なるほど、未来ある若木への助勢か。それならば(おれ)も無碍には出来まい。『クオラストラエラ』だ」


 そう言ってクオラストラエラは何もない虚空へと顔を向けた。パスの繋がっている俺には分かるが、そこには透明化したノエリアがいる。神様同士何か感じるものでもあるんだろうか。


 それにしても『理念』と『博愛』か。教育者にぴったりかもな。なるべくしてなったんだな。


「さて、それでは使うところをお見せしましょう。――『写身の水晶(ウーバー・クォーツ)』」


 手のひらの上に乗せたそれを起動させる。同時に幾何学模様が中空を走り、一度収縮を見せてから爆発的に展開した。


 枝葉のように広がったその先端には実のように八つの魔方陣が淡く光っている。


「私の加護の数は六つ。色も見ての通りですわね。と言っても小型なので加護の種類はおおまかにしか分からないのですけれど」


 加護の色は大別すると八つだ。それぞれ、写身の水晶の先端の魔方陣に灯った明かりの数によって判別することが出来る。


 『光と秩序の神』の司色である白色。『水と平穏の神』の司色の青色、『火と競争』の赤色、『木と繁栄』の緑色、『風と自由』の黄緑色、『雷と畏敬』の黄色、『土と隠遁』の橙色、『闇と混沌』の黒色。

 加護授かりの儀の時より小型だと思っていたけどそういう事か。性能を落として利便さをあげたんだろう。


 それにしても加護の数が六つか。さすが教頭をしてるだけあるな。色も黒、黄を抜いた六色だ。特にここ『アリアストラレーナ』では国の象徴神である『光と秩序の神アリアストラレーナ』の白色はよく見るものの、他はどうかと言われればここまで多いというのも一部の人のみだろうな。


「では、貴方にもやってもらいましょうかね。貴方の神様は一体どのような加護を授けているのかしら?」


 俺に手渡しながら教頭先生はそんな風に心なしか楽しそうに言った。視線は彼女の『伴神』の見つめる先、ノエリアがいる場所だ。


 ノエリアも見られているという事に気付いているのか、観念したように姿を現し、そのままつまらなさそうにそっぽを向いた。


「使い方は分かるわね?」


「やってみます。失敗しても笑わないで欲しいっす」


「あらあら……、そんな事で笑ったりなんてしませんよ。さぁ……」


 うへえ、本当にやらないといけないみたいだな。編入当日にやる簡単な試験てもしかしてこれの事だったのか。


 確かにまだペーパー試験しかやってなかったもんな。学院側からしてみればこれを調べないと話にならないだろう。


 促されるままに魔法具を受け取る。これを使うのは久しぶり――というわけでもない。師匠の口利きで数年前ほどに使ったばっかりだ。その時はこっそり聖堂神殿の大型の魔法具を使わせてもらったわけだけども。どうせそこから変わってる事もないだろうな。


「じゃあ、いきます。――『写身の水晶』」


 教頭先生が使った時と同じように魔法陣が広がっていく。ここまでは誰が使っても同じだ。その先、九つの小魔法陣の光る数とその色に個性が出てくる。年甲斐もなく、なんて言ったら失礼だろうけど、顔に好奇心をいっぱいに貼り付けて教頭先生は水晶を覗き込んでいた。


 結果が分かっていても、それでももしかしたら……、なんて思ってしまうのはどうしてなんだろうな。水晶を使いながら期待感みたいなものに心を少し躍らせてる自分がいる事にびっくりだ。


 少し経ち、ゆらゆらと陽炎のように揺らめいていた魔法陣が鮮明に輪郭を持つ。色は……やっぱりか。


「――これ、は」


 瞠目と共に教頭先生はそれだけを零した。いや、それ以上に言葉が出てこなかったのだろう。


 なぜなら、水晶は一つたりとも光を放つ事がなかったからだ。


 気のせい、なんて事もない。師匠の言いつけでこっそり使った時も俺の加護は写らなかった。


「ないんだよ。デューの――デューイの加護は」


「ない……、しかし、それは……」


「別にデューが加護はく奪の刑を受けているわけではないよ。お前もズィオレに聞いているだろう? それが事実であることはデューの『伴神』であるわたしが保証しよう」


 加護がない、というのはそれだけで嘲笑の対象になる。ノエリアの言った通り、罪人に対する刑の一つとして加護はく奪の刑、というものがあるからだ。それを受けると文字通り加護がなくなる。加護、というのは『神々の叡智』を授かるための(しるべ)のようなもの。これがないと魔法を一切使う事が出来ない。


「わたしにも何がどうなっているか分からないんだ。そもそもの話、デューの『伴神』としてわたしが顕現出来た事すらもおかしい」


「『降神式』を行う前に神を顕現させることが出来るのは、各々の手段を伝承している名家か学院くらいのものです。何か偶然にも神秘に触れたものだと思っていましたが、違うのですか? いや、そもそも加護がないのだとすれば、それも……」


「俺がノエリアと会ったのは、『ロスト・ドノラ』の後くらいっす。その時俺は長い事寝てたみたいで、気が付いたらもうノエリアはいました」


「『ロスト・ドノラ』……一夜にして一つの街が『無』に飲み込まれた天災ね。そう、デューイ君はあれの生き残りの……」


 それから考え込むように教頭先生は顎に手を当てて、虚空を睨むように目を細めた。


 うーん、そんなに真剣に考えるような事でもないと思うんだけどな。加護がない事で不便になった事もないしな。


 そもそも学院に来たのだって加護がないという事を知っての上だ。今更どうこう言う問題でもないだろう。


「……クオラストラエラ。何か分かる?」


「――いや、何も。主神ならまだしも、己では、な」


 主神……アリアストラレーナの事だろうか。やっぱアリアストラレーナなら何か分かるのかもしれないな。俺の加護の事も、ノエリアの事も。


 ――そして『無』と、そしてそれに呑まれたあの街の事も。


「仕方、ありませんね。デューイ君、いいですか、こうして試験をしてしまった以上、貴方の入学を受け入れる義務が我が校にはあります。入学してしまえば、加護がないという事実は隠す間もなく広がってしまうでしょう」


 それはそうだ。俺自身、別にいうほどの事でもないな、くらいにしか思ってないほどだ。そもそもここは魔法学院、魔法を学ぶ場だ。どうしたって加護の有無などが問題になってくる。


「事前の試験の成績は申し分もなく、同学年では上位に入れるほどでした。……しかし、彼らと同じクラスに貴方を入らせるわけにもいきません。それは、分かりますね?」


 え、まじか。確かに割かし解けたなっていう手ごたえみたいなものは感じてたけども。


 師匠の問題集を死ぬ気で消化した甲斐があったというものだ。


 別にクラスもどこだっていい気がする。三年次編入だから誰も知らないだろうし。どこに行っても変わらない。


 俺が頷いたのを見て少しばかり気遣わし気にまつげを震わせた後、諭すようにゆっくりを口を開く。


「デューイ君には特例クラスに入ってもらいます」

色々と用語が出てきました。それらの簡単な説明と主人公の境遇のようなものがちらりと垣間見える。

教頭先生は師匠ズィオレから本当に最低限の話しか聞かされていなかった模様。


最後まで読んでくださり、ありがとうございます。

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