05 弁護士を要求する!
本日二話目です。ちょくちょくと目を通していただいているようで私は嬉しい。
「さて、何か申し開きはあるかね?」
「いいえ、弁護のしようもございません。全ては私の不徳の致すところでありまして、つきましてはこれからのふるまいにきっちりと活かしていきたい所存でして……」
「もういい、君には別の方法で罰を与えた方がよさそうだ」
なんでやねん。解せぬ。俺が何をしたって言うんだ。
……新入生の女の子をたぶらかし、身分証明証にもなる学生証を不正に入手、使用しようとした。いやそう考えるとやばいなこれ。よく考えたら犯罪者級だったわ。
現行犯で連行された俺と、哀れ俺に捕まってしまった女の子はそれぞれ別室に入れられ、そこで事情聴取を取られる事になった。
相手は向かい側に座るぴちっと不潔ではない程度の長髪を整えた男の教師と思われる人物だ。分かれる直前にちらっと見た感じでは女の子の方は美人な女の先生だった。
正直俺もそっちがよかった。今からでもこのお堅い人と交代してほしい。それならある事ない事なんでも話しますとも。なんなら今日の下着の色だって答えていい。対価としてお姉さんの下着の色もお聞きしますけど。
それはともかく、面倒な状況になっている事は間違いない。警報が鳴ったその瞬間にはノエリアは完全に透明化していたため正直使い物にならない。どれだけ俺がここに編入する予定の生徒ですと声高に叫んだところで入学許可証がないため取り合って貰えないばかりか不法侵入でしょっ引かれてもおかしくはない。
いやー、やべえっすわ。こんなので人生が終わりとかやべえっすわ。
「それで、君は何の用で我が校に近寄り、そしてよりにもよって女生徒を恫喝して学生証を強奪し、不法侵入をしようとしたのかね?」
「ちょっ、語弊。語弊がありますよそれは。やだなー、先生さん、そんなひどい事出来るわけないじゃないですか。それより見てくださいよこれ、ほらこれ、どう見てもここの学校の制服っすよ。俺ここの編入性なんですよ。ちょっと入学許可証忘れてきちゃって、ちょうど通りかかった生徒さんに学生証貸して貰って中に入ろうとしただけなんですって!」
これで説明何回目だよ! 頑なに信じようとしないじゃん!
確かに怪しいけど、これが真実なんだって! 本当に俺もうこれ以上話す事ないよ?
ああ、見えてないけど隣でノエリアが肩を震わせて笑っている姿が想像できる……。しれっと一人だけで逃げやがって……。あいつがいればもう少しくらいましな説明できるようになってたんじゃないかって思う。それも今更だけど。
「埒が明かないな」
「こちらの台詞なんですけどねそれ」
「君、保護者は? 今から来てもらう事は出来るかね?」
「あっ、えっとぅ……」
どこにいるか知らないんだよね。保護者兼師匠のズィオレという男は捕まえようと思って捕まえられる男じゃない。俺も最初の頃、なんだこの鬼畜メニューはって問いただすために一日中探し回ったけど結局見つからなくて、その衝動を一心にメニューを消化してきた。あいつの事だから賭場にでも行ってるんじゃないの。知らんけど。
そんな事を馬鹿正直に言うわけにもいかない。さすがの俺にも羞恥心はある。これ以上心象を下げる事なんてあってはならないのだ。
「教授、少しよろしいですか?」
「……っ! 鍵は、開いております」
そんな時だった。ノックと共に部屋の扉から柔和な女性の声が聞こえてきた。
途端に緊張を始めるかっちり眼鏡先生。そのまま声の主に入室を促した。
扉を開け、優雅としか言いようがない足取りで入ってきたのは、髪の全てが既に白く染まってしまっているお年を召した女性だった。イメージにぴったりだ、さっきの声もこの人なのだろう。
そのまま俺とかっちり眼鏡先生のいる机まで楚々と歩み寄り、一度俺へと微笑みかけた後、かっちり眼鏡先生に目を向けた。
「これはこれは教頭先生、どうされましたので? 貴女が足を運んでくるような出来事など起こってはいないはずですが」
「いいえ、コヴァード。我が校の生徒――それが例えまだ入学の手続きを済ませていなかった子だとしても、困っているのなら見逃せるはずがありませんよ」
「困っている……、はて、困らされているのは我々なのですがね。ここにいる彼は何しろ、それこそ我が校の女生徒を恫喝して――」
「あらいやだ、私の聞いた話と違うのね。やっぱりもう歳なのかしら」
「……は?」
「入っていらっしゃい」
教頭先生の声と共におずおずと入ってきたのは、正門前で会ったあの女の子だった。
入ってすぐにかっちり眼鏡先生にびくっと身体を震わせ、そして視線を俺に向けてからすぐさま下を向き、そして最後に教頭先生に向ける。それを受けた教頭先生の微笑みを湛えた頷きによって背中を押されたのか、先ほどよりも少しばかり背筋を伸ばして俺たちの方へと近付いてきた。
「本当にコヴァードの言ったような事実があったのなら、この子がそう証言してくれますよ。さぁ、大丈夫ですよ。あるがままに起こった事だけを話しなさい」
「あ、えっと……」
ちらりと俺を見る女の子。それに俺は頷きをもって返す。
頑張れ! 情けない事だけど俺の無実は君の言葉にかかっている! どうか俺の無念を晴らしてこの眼鏡をぎゃふんと言わせてやってくれ!
「そこの……、彼が困っていたようでした、ので、どうにか助ける事が出来ないか、と思って……、その、学生証を……、渡してしまいました……。すみません……」
しゃぁっ、俺の勝ちぃ! よく言ってくれた! 本当にありがとう!
やっぱ女神なんだよな、この子。俺の横にいるやつにはぜひとも見習って貰いたい。
「どこに謝る必要があるのですか。ほら、彼を見なさい。貴女のした事が彼をどれだけ助ける事になったのか、分かるでしょう?」
その言葉とともに俺は身を乗り出す勢いで頷き掛ける。精一杯の感謝の気持ちだ。本当に助かった。
しかし現人神であり女神でもある彼女はちょっと引いていた。死ねるわ。
「それでは誤解も無事解けたようですので、お二人は私について来てくださいな」
「――っ! 待っていただきたい、まだ話はっ……!」
「これ以上話す事などありますか? もしあるとしても私の方から伝えておきますが?」
「ぐっ……、それならば、安心ですな。では、私はこれで失礼します」
最後に忌々し気に俺を睨んで眼鏡先生は部屋を出ていった。なんかいらん恨みを買った気分だ。いや、悪いのは俺なんだけどさ。
そのまま少しして後に続くように教頭先生も出ていくので、女の子と二人大人しく後ろに付く。途中で女の子は教室へと返された。やっぱり新入生だったようで、本来なら今頃これからの授業案内などを聞いていなくちゃいけなかったようだ。本当に申し訳ない。今度会った時には全力で謝ろう。
そのまま俺は別の部屋へと通された。色々な器具の置いてある、実験室のような部屋だ。
「さて、貴方がデューイ君よね? ズィオレから話は聞いているわ」
入って早々、教頭先生はそうやって俺に話しかけてきた。どうやら俺の師匠と繋がりのある人物のようだ。それだけでちょっとした警戒心が湧いてくるのだから不思議なもんだ。
「編入早々から災難でしたね。ですけど、貴方も気を付けなくてはだめですよ? 貴方のところに届けさせた書類にはそのあたりの説明も書いてあったのですけれど。……目を通していないようですわね」
ふうっと呆れたように言う教頭先生。本当に面目次第もございません……。
「まあいいでしょう。それより、貴方にはしてもらわなければならない事があるのですよ」
そう言って教頭先生が壁に備え付けられている棚から取り出したのは俺も見覚えがある器具だった。
教頭先生と女の子に助けられる主人公。なんとか命がつながりましたね。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。