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04 学院到着!

本日も三話連続投稿をしたいと思います。一話目です。

「何回見てもすごいよなこれ」


 ようやっとたどり着いた『ドミニエル魔法学院』の正門を眺めながら俺はそう独り言ちた。


 さっきまで焦りに焦っていた俺が今こうして悠長にしている理由はただ一つ。いざこうして正門に着いてしまうと、もうこれだけ遅刻してるんだからこれ以上焦ったところで所詮誤差だなっていう結論に至ったというだけだ。


 正直門の前に先生――いや、せめて警備でもいればそこから『遅刻したんすよ~ははは』って感じで笑いながら誤魔化せるんじゃないかなんて思っていたけど、実際は無人も無人。どうやって入ればいいんだよこれ。


「閉まっているな」


「どうやって入ればいいんだこれ。ノエリア、なんか案ある?」


「普通に乗り越えたらどうだ? わたしは透明になる」


「おいそうやって一人だけで逃げようとするなよ。俺たち一蓮托生だろ」


 ここで嫌そうな顔するなよ。普段は疲れるとか言って半透明化してるくせに。そんな神様なんてノエリア以外に見た事もない。大概具象化――完全に姿を現しているか、希薄化――完全に姿を消しているかの二択だ。もちろん希薄化してれば現実に干渉は出来ないからそうしているのはごく少数ではあると思うが。


 さて、どうやって入ったものか。きょろきょろと回りを見渡してみても、やはり人っ子一人見当たら――、


「……おや?」


 人はっけーん! ありがたい事に一人で歩いてやがる。それに見た感じ大人しそうなところもグッドなポイントだ。


 俺は何とはなしにちらりとノエリアを見る。それに勘づいてノエリアも俺へと視線を向け、そして一つ頷いた。どういう事だ。


「え、何、俺に行かせるの?」


「なぜわたしが行かないといけない」


「え、だってそれは……、あの子女の子だし」


「神に性別なんてない事は知っているだろ? それにお前がよだれを垂らすほど望んでいた女じゃないか」


「言い方がおかしい!」


 べ、別にそんなんちゃうし。ただ男として生まれたからには女の子と会話をしてみたいななんて思っただけだし。


 いや、そもそも別に女の子と会話した事ないわけでもないし。何ならノエリアだって見た目だけいうなら思わず手のひらを目の前に翳してしまうほどの容姿だ。本人に告げる事は絶対ないけど。


「――あっ、ほら、そんな事言ってたら行っちゃうじゃねーか! くそっ……、おーい! そこのっ、そう君っ――!」


なんできょろきょろ見渡してるんだよ、今そこにいるのは君だけだろうが。おっと、紳士に紳士に。


 俺が正門の外側にいるのに気付いたのか、はっ、という感じで目を見開いたかと思うと、もう一度周囲に目を巡らせてから、ちょこちょこと小走りに正門の方へと駆けてきた。


 ウェーブの掛かった薄い緑色の髪を揺らしながら、その子は正門の縦格子に顔を近づけ、その隙間から俺を覗き込む。


「あの……? 私に何か御用でも……?」


「ああ、そんなに警戒をしないでくれると助かる。見ての通り、俺は『ドミニエル魔法学院(ここ)』に編入する予定だったんだけど、諸事情によって遅れてしまってね。いざ辿り着いてみたら正門が閉まり切ってしまっていて、途方に暮れていたところなんだ」


 自分で言うのもなんだが気持ち悪い喋り方だな。横で肩を震わせているやつは後からお説教だ。これなら馬鹿正直に敬語にすればよかったと思わないでもない。


 まあ、やってしまったもんはしょうがない。しばらくこのキャラで突き通すか。


「えっと……、それ、初めは入学許可証で、手続きを終えてからは学生証で入れるようになりますよ」


「えっ、入学許可証?」


 聞き覚えのあるような、ないような。入学が決まった時点で色々書類のようなものが送られてきたような気がしないでもないけど、もしかしたらその中にあったのか?


「……ちょっと待ってね。――おい、ノエリア何のことか分かる?」


「さあな。おおかたお前が気付かないうちに捨てたんじゃないか?」


「え、やっぱりそう? やばいかな?」


「別になんとでもなるんじゃないか? そこの娘ならどっちか持ってるだろうしな」


「あっ、その手があったか」


 作戦会議を終え、未だに手持ちぶさたなように律儀に待ってくれていた女の子に向き直る。一瞬びくっとなったけど、特に逃げることもなく耳を傾けてくれた。


「どうやら家に忘れてきたみたいだ」


「あっ、そうなんですか……。えっと……」


「そこで提案なんだけど、君の持ってる入学許可証貸してやもらえないかね?」


 幼さの残る見た目とあまり慣れてなさそうな態度から俺のような途中編入生とは違う、今年度からの新入生と思われる。


 ちなみに『ドミニエル魔法学院』は11歳から入学する9年制の学術施設だ。まあ研究生制度だとかで9年以上通うことになったり、反対に特待生制度とかでそれより早く卒業する人だっているらしいけども。


 なんにせよ、この子が例え新入生じゃなかったとしても学生証なるものを持っているはずだろうし、なんとかなるだろ。まあそれも見ず知らずのかっこいい男(自画自賛)にそこまでしてくれるかどうかにかかってるが。


「え、えぇっ……! そんなっ、だって」


 だよね! 立場が逆だと絶対渡さないわ俺も。なんなら入れないのを良いことに見せびらかしたりするかもしれない。


 そんなことをしないだけでもこの子がいい子だとは分かるが、さてどうしたものか。


「諦めて今日はもう帰る、とかどうだ?」


「うるさいやい。初日というものがどれだけ大事なのか分かってんのか!? 入学しかり、編入しかり、それからの一年間を平穏無事に過ごすには最初が肝心なんだぞ!?」


 かつて俺はそれで苦しんだ身。同じ愚など犯したくない。ということで帰るのは却下だ。


 まあ面倒臭げな口調からしてノエリアも適当に言ったのだろう、門の柱に背を預けて空を見ていた。もっと緊張感をだな。


「あの……」


「うん?」


 断ったからさっさと立ち去るかと思っていたけど、どうやらまだいたらしい。


 おずおずと、といった表現そのままにその子は手を差し出した。


「これ……」


「これって……。もしかして学生証か!?」


「は、はい、今手続きしてきたばかりなので、出来るかは分からないですけど……」


 いや、最高にありがてぇよこれ! 


 女神さまはここにいらしたか! なんてこった、世界はこんなにも美しい!


 恐る恐る手を出し、さりげなく女の子の手に触れないように注意しながら学生証を受け取った。そのまま正門の隙間から手を抜き取った瞬間。


 ――大音量で警報のようなものが鳴り響いた。


「ひぅっ――!?」


「あー、まあ、そんな感じなのね」


「素直に乗り越えた方がよかったかもしれないな」


「うるさい! そんなのよりまだ健全な方法だろうが! ……あー、えっと、なんかごめんね?」


 俺たちはそれからしばらくして現れた警備員と思われる人たちに連行されたのだった。

しょっぱなからやらかすデューイくん。適当さが分かるというものですね。


最後まで読んでくださり、ありがとうございます。

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