03 学院へ急げ!
本日三話目です!恐らく明日も三話程度投稿します!
「おい、ちょっ、お前せめて自分で走れって」
「嫌だ。お前こそそんなことを言っている暇があるならもっと足を動かしたらどうなんだ」
そんな風にいつもの言い合いをしながら、俺は大通りの脇を駆け抜けていた。昼時とは言え、少なからずいる通行人には迷惑そうな顔を向けられるも、正直それに反応していられる余裕なんかない。
そう、時刻は昼時。おてんとさんがにこにこと陽気を振り撒く時間帯だ。
もちろん、入学式という晴れの舞台がそんなよくわからん時間から始まる訳がない。確か朝の九時からとかだ。
それにも関わらず俺がちょうど今学院に向けて走っているということはどういうことか。
すなわち、入学初日の遅刻である。ふざけんな!!
「おい、もっと速く走れないのか。この調子だと間に合わないぞ」
「うるせぇっ!? もともと間に合ってないっつの! 大体こうなったのは誰のせいだと――!?」
「最初から最後までお前の自業自得だけれどな。わたしは止めたし起こしもした」
呆れたようにふう、と息を吐きながらノエリアはそう言った。その通りだからこそ腹も立つ。
行き場のない怒りに歯を鳴らしながら、俺はどうしてこうなったと昨日に思いを馳せた。
……いや、なんのことはない。昨日、あいつに言い付けられた課題をさっさと終わらせた後の話だ。
嫌がらせで置いた俺の渾身の作品を、ノエリアは事もあろうに鼻で笑った。
そりゃあもう戦争ですとも。持てる限りの力を使って、我が作品の素晴らしさを披露した。
面倒なことに負けず嫌いのノエリアも乗ってきてそこからはお互いに作っては煽るのスパイラルだ。気付けば太陽が昇っていた。
慌てて帰った俺たちは軽くシャワーを浴びた後、さすがに寝ると起きれないと思い、座禅を組みながら瞑想していたわけだが。
「……まあ、そんな発想に至るあたり相当眠かったんだろうな」
正直その時の記憶すらない。もう半分寝ていたのだろう。自分でも驚くことに起きたのはベッドの上だった。
そこからいつものようにノエリアに起こされ、細かく朝食に注文をつけられては文句を返し、そしてふと、
『あれ、入学式って今日だっけ?』
と思い至ってからは急いで準備して借宿を飛び出し、今に至るというわけだ。
俺は学院へと向かう大通りを駆けながら、視線を前方の幾つかの尖塔からなる建物へと向けた。
この国、『アリアストラレーナ』の中でも学問都市として有名な『ドミニエル領』の一都市であるここ、『ニリヘル』にはその名を轟かせる元となった学術施設『ドミニエル魔法学院』がある。
魔法を学ぶのは基本的に神様からだが、それを使うにしても技術と理論が未熟だと意味もない。ノエリアがいい例だが、こいつなんかは教えるとき擬音まみれになるタイプだ。最高に向いていない。
正直、有名なだけあってここの入学要項は難関も難関。俺は半分裏口入学のため、正規の試験は受けていないからあんまりどれくらいだとかは分からないが、それはもうひどい時には半分近く落としたこともあったという。
「怒られるかな?」
「そりゃそうだろう。ズィオレの顔にも泥を塗ることになるぞ?」
「それは全然いいけどな。むしろ塗り付けてやりたい」
裏口入学というのも俺の師匠――ズィオレの口利きによるものだ。こんなところにまで幅を利かせられる辺り、やはりやつは中々の権力を持ってるんだろうな。
まあそうだとしても、あの胡散臭い人のいい笑みには誰だって何かしらを投げつけたくなるはずだ。少なくとも俺はなる。
と、そろそろ正門が見えてくるか、というほどに近付いた時だった。
「――おっ、デューイじゃねぇか」
「うん?」
周囲の目を惹き付けている俺たちが目についたのだろう、大通りを走っている最中そんな声が飛んできた。
止まるかどうかを少しだけ悩んだ後、その場で足踏みをするという中途半端な行動に落ち着いた。
「よっ、そんなに急いでどうしたんだ?」
『よろずや』と書かれたのれんを肩に担いだまま近付いてくる筋骨隆々のその男の名前はアラン。見ての通り『よろずや』の店主だ。
『ニリヘル』に越してきて数ヶ月と経ったけど、その間に話をする仲にまで親しくなった人だ。時折お菓子なんかを融通してくれたりと何かと世話になっていた。
「おっちゃんに言ってなかったっけ? 晴れて今日で『ドミニエル魔法学院』に入学するんだよ、俺」
「おっ、やっとか! これでお前の小憎たらしい顔を毎朝見なくて済む――」
そう、師匠のズィオレに言い付けられた、身体作りのための毎朝のランニングがちょうどおっちゃんの生活習慣と被るらしく、何度か見かけているうちにおっちゃんの方から話しかけてきて、そこからぽつぽつと話すようになった。
今ではこうして軽口を叩き合うこともあるくらいだ。
ちなみにノエリアは朝はぐーすか寝てるためおっちゃんとは初対面だ。
「って、お前今何時か分かってんのか!? 入学式なんてとっくに終わってんぞ!?」
「ああ、なんか新入生じゃなくて、編入生として入学するらしくてな。式には出なくていいんだよ、俺。その代わり簡単な実技試験があるとかって話だけど」
「おい、ならなんでそんな悠長にしてんだ……。いや、俺が呼び止めたからか。すまんかったな……いや、俺は悪くないよな……?」
「ああ、全面的にこいつが悪いとも」
「っとと、こいつぁ悪な、お嬢ちゃん……、いや、お前さんが例の……?」
「例の何かは分からないが、デューの伴神のノエリアだ」
「ほぅ、話には聞いていたが、『降神式』前に伴神が顕現しているなんてな。そんなことを出来るのは一部の『貴族人』くらいなもんかと思っていたが……」
ううむと喉を唸らせるおっちゃんだが、正直これ以上道草を食うだけの余裕はない。
「おっちゃん、後からちゃんと紹介するから、今はちょっと勘弁してくれ」
「ん? ああ、そうか、いや、引き留めて悪かったな。試験頑張れよ」
「あんがとな。終わったらお菓子でも買いに寄るわ」
簡単に挨拶だけして、俺はその場を後にした。
それから数分も走れば、目の前に大きな門が見えてきた。
しょっぱなからこのドタバタ具合はやばいですね……。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。