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02 入学式前夜!

本日二話目です。もう一話だけあげます。

「よし、こんなもんか」


 夜、頭の上でまんまるさんが輝くころ、俺はそう呟いて一息をついた。陽が落ちたときから始めて気が付けばもうこんな時間だ。一仕事終えたなんてものじゃないくらいの達成感を覚えていた。


「――ん? やっと終わったのか?」


 そうしていると後ろから聞き慣れた声が飛んでくる。振り向いた先にいるのは半透明な身体に夜空の星々を透かしながら宙に浮く堕落の権化だ。


 眠そうにあくびを一つかましたかと思うと、涙の膜が張った翡翠の瞳をぐしぐしと乱雑に拭う。


 紹介しよう! 今まさに俺の頭の高さをふよふよと浮かびながらだらりと身体を寝かせているのが俺の生涯のバディであるノエリアだ。

 バディということな恋人か何かだって? ははっ、俺がこんなやつと?


 ちらりとノエリアを見る。何を思ったか俺を見て鼻で笑った。あり得ないだろこんなやつ! 俺は清楚なお姉さんと健全なお付き合いをする予定なんだよ!


 そんな俺の内心もなんのその、ノエリアはそのまま空中で足を組み替えたかと思うと、メッシュの入った黒髪を払った。


 はしたないから浮きながら足を組み替えるなっていつも言ってるでしょ! 内心でだけど!

 まあ、親の顔より見ていると言っても過言じゃない。今更俺が何か思うなんて事もない。親の顔知らんけど。


 視線を上に上げれば呆れたような顔のノエリアと目が合った。何か文句でもあるんかい。


「……それにしてもよくやったもんだな、デュー」


「ん……、そうだろ? そりゃあもうここまでのいろんな鬱憤ぶつけたからな。()()()の嫌がる顔が目に浮かぶぜ」


 俺の目の前には何体もの彫像が敷き詰められていた。創作物のキャラから、かなり写実的なものまである。それも多くがちょっとえっちなものだ。


 ちなみにこれは俺の趣味なんかじゃなく、俺の師匠でもあるあの男の趣味に則したものだ。表面上は隠していようと俺には分かる。


 後はここに奥さんを呼んであげれば社会的に終わること間違いなし!


「それにしてもやっと嫌がらせも終わったことだし、さっさと帰るか。明日入学式だしな」


 気が付けばもう深夜だ。さすがに入学式初日に遅刻は洒落にならない。


「――だが、こんなものか」


「……あ?」


 後ろにふよふよと浮かんでいたノエリアが身体を実体化し、所々岩の露出した地面にとたりと降り立った。


 そのまま肩に掛かる髪をさらりと払い除けると腕を組み、流し目を向ける。


「しこしこと何をやっているかと思えば、こんなくだらないことをやっているとはな」


「はっ、よく言うぜ。さっきはよくやったもんだ、なんて言ってた癖にな」


「こんな程度の低いものによくあれだけの時間を掛けれたな、ってことだよ。それでよくわたしのパートナーなんて名乗れたものだな」


 言わせておけばずけずけと。こいつはいつもそうだ。どこからこんな自信が出てくるのやら。


「じゃあ、お前ならこれよりいいもんを産み出せるって言うのか?」


 俺は手頃にあった一体を指差す。たわわに実った肢体が実に壮観だ。


 ぶっちゃけ今日までの修行自体は午前中には終わっていた。大半の時間はこの彫刻群の製作に当てたものだ。


 その中でもこれには手を焼かされた。まさか彫像がこれほどまでに奥が深い芸術だなんて思っても見なかった。これからはそのへんにある柱にすら感動出来そうなくらいだ。


 ともあれ、さすがにノエリアの言葉だろうと許容出来ないわこれ。いつもは出来るかと聞かれてもいつでもこんな調子だから変わんないけどな!


「このわたしだぞ? 不可能などない。第一、お前の使う()()もわたしが授けたものだろう」


 それはそうだ。魔法なんて叡智が人族に使えるはずもなく、例外なく人族の使う技術は神から授かるものだ。


 そうそう、ここまで言えば気付くとは思うが、ノエリアは俺とは違って人族ではない。

 いわゆる神様っていう、人より上位の存在だ。


 人と神、それらが交わり、生涯を共にするのは神代からの契約だ。それが何千年も経った今でも成されているんだから素直にすごい。


 それのせいで今こうしてこの女と一緒にいることになっているんだからそれはそれだが。


「そこまで言うならやってみろよ。そんな風に言って上手くいった試しなんて知らんけど」


「それはお前の感性が貧弱なだけだ。わたしたち視点ではあれらは成功だからな」


「どんな言い訳だよ」


 そんな風に(うそぶ)きながらノエリアが近場の一体に近付いていく。

 

 ノエリアから授けられたのは確かだが、それは技術の継承というよりは知識の継承。

 だからこそノエリアの魔法の腕前はあまり披露されることはない、ないのだが。


「無茶はすんなよ」


 パートナーのよしみとして俺はそれだけは伝えておく。せっかく作った彫像を壊されちゃあかなわないからな。


 少し経った後そこにあったのは『芸術』だった。


「おま、そんな才能あったの……?」


「ふふん、お前に褒められたところでな。まあ、わたしにかかればこんなものだ」


 どや顔うぜえ……だけどそれが許されるくらいの出来だ。正直負けたと言わざるを得ない。


 だが、俺だってこれで終わりじゃない。


「……よし、俺とそろそろ肩も温まって来たし、本気でも出すか」


「ふん、こんな出来じゃたかが知れているけどな」


「言ってろよ」


 これだけ彫ってコツは掴んでるんだ、今あるものより良く出来る自信はある。


 ――そして俺は芸術の道へと足を踏み入れた。


 入学式は遅刻した。

01、02は主人公のデューイとノエリアはこんな感じの関係性なんだな、という事が伝われなんて思いながら書きました!こんな感じです!

もしかしたらくどく感じた人もいるかもしれませんがご容赦を!


最後まで読んでくださり、ありがとうございます。

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