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第7話「北区-3-」

踏切線から、北区を見ていた。そこにあるのは、どこにでもあるような町の景色だ。家があって、店があり、看板に電柱がある。どこにでもあるような町がだ。


「北区は、それ自体が怪物なんです」


帰り道で僕は話した。エスティアさんが興味深そうに目を輝かせている一方で、メルニポネさんは疲れ果てているのか、うんざりとした目だ。メルニポネさんに「おんぶされますか?」と訊いたが背中を叩かれるだけだった。


「この世界はとても不安定なんですよ。それと北区は無関係ではありませんーー」


僕は一呼吸を置いた。


「ーー人の想いが強く現実に作用するんです。作用しやすい、のほうが適切でしょうか」

「具体的には何が起きるんだ?」


とエスティアさんが言った。


「想いが、極めて重大な肉体的変化を誘発します。何人か、見ませんでしたか?少し、おかしな雰囲気を持つ人たちを」

「あー……」


エスティアさんには心当たりが大いにあるようだ。悲しいことに、この町ではそんなおかしくなってしまった人がほぼ全てだ。


「怖い夢では、怖いことが起こりますよね。怖いと思った感情が、夢の中での処理で再生されるから悪夢を見るんですけど、似たようなものなんです。怖いと強く思いすぎたら、怖くなっていくんです。この場合は、怖いものから身を守ろうと、怖いものにこそなってしまう形になるわけですけど」


夕陽が、路地を貫いていた。橙色の、大気に長く触れたせいで変色した太陽光のせいで目をすぼめる。やっと一日が終わる。まだ、メルニポネさんが引っ越し蕎麦を持ってきて、エスティアさんがメルニポネさんを追って壁を破壊してから一日もたっていなかった。


「……」


影とは違う、夕陽に黒焦げに焼かれた人影が塀で踊っていた。彼は……焼かれたのだろう。昼でも夜でもない時間で迷子だ。


「北区には何か、いましたか?」

「エスティアと合流するまでにさーー」


メルニポネさんが、何を見たのか話した。


「ーー逆立ちで走る奴がいた。でも腕が足なんだ。足の足は股で裂けていて、足で抱きつこうと襲ってくるのがいた」

「変態か?」

「あれが下半身でものを考えるってことかも」


エスティアさんも何を見たのか、その場の空気でこぼした。


「私が会ったのは、普通の精肉店だ。解体していたのはーー」

「ーーあぁ!聞きたくないかも!」

「メルニポネ、うるさい」


エスティアさんは話を続けた。


「手足や首、内臓を細かく切り分けて保管していた。熟成させていたのだと思う。店長はまさに肉屋という肉ダルマの大男で、生きたまま現物を仕入れていたようだ」

「うげぇ……エスティア、よく生きてたな」

「細切れにした。骨切りの刃物があるなら、腱を斬って、ゆっくりと処理するだけだ」

「肉屋とやってること一緒じゃない?」


僕もそう思った。エスティアさんは裸マントの変態であるし、剣を幾らでも持っているように見える、かなりのーーやっぱり変態だ。


「なんか……疲れたね」

「それは……同意見だ」


メルニポネさんとエスティアさんが同時に溜息を吐く。北区は大変だったようだ。二人か。同時に背負うことはできないな。


「抱っことおんぶなら、二人を運べますよ」

「嫌だ!」

「拒否!」


そんなに否定しなくてもいいのに。僕の心は少し傷ついた。しかし、何はともあれ無事に帰ってきたのだ。美味しいご飯を大家さんに頼んでみようか。奮発だ。新しいアパートの隣人に、歓迎会を開きたい気分だった。怖い思いをしたからこそ、楽しい思い出をつけてあげたい。


恐怖を振り切るように、メルニポネさんとエスティアさんは話を広げていた。エイリアンとEDCというのは、果たして『本当』なのだろうか。しかしそれは、追求したところで意味を持つものでもない。例え、『子供心で作られたキャスト』だとしてもだ。怪物だけが、わけのわからない力を持つのでは、違うのだ。


家へ帰ろう。


ーーあっ!

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