ギセイシャ
「やぁやぁ」
「うむ」
「やってくれたね」
「全くな」
「神聖エネルギーの放出」
「聖女の面目躍如といったところか」
「流石だね」
「だが」
「規模がおかしすぎる」
「うむ。地形を抉り去った」
「聖女を中心とした完全な円形」
「それも街1つレベルじゃない」
「地平に無事な地形が残ってたのを祝うべきかねぇ?」
「この世界は地球と同じスケールだ。そこから地平までの距離がわかる。地平上まで力が届いてないなら」
「その被害も見積もれる」
「ふん。慰めにもならんな」
「それに」
「そんなことはどうでもいい」
「ここは地球のシミュレーターだ」
「太陽も月も1つしかない」
「そんなものが2つも3つもあれば」
「どんな影響があるかわからん」
「公転にも自転にも」
「どう影響するかわからん」
「地球生物にとって理想的な環境は」
「地球と同じ環境に決まってる」
「地球の環境に適応するため」
「進化してきたのだからな」
「異世界といえども」
「ここは地球そのものといっていい」
「物理法則が違うなんてことはない」
「そんな都合のいいことはない」
「そうだね」
「そうだ」
「………」
「………」
「だからこそ」
「そうだな」
「どこにいったんだ」
「消え去った地形は」
「ただ地面が抉れただけ」
「ただ人間が消えただけ」
「他に影響は」
「何もない」
「エネルギー公式いわくエネルギーは質量と光速の2乗に等しい」
「相対性理論だな」
「式の等価性の性質から」
「質量が消えたなら」
「存在が消えたなら」
「エネルギーが生まれたはずだ」
「だけど」
「何もない」
「地形と人が消えただけ」
「発生したはずのエネルギー」
「辺りを吹き飛ばすこともなく」
「どこかへ消えた」
「どこへいったのやら」
「聖女の役割は」
「守ること」
「人の世界の秩序をな」
「ねぇねぇ」
「なんだ」
「ダークマターって知ってるかい?」
「アレか。この宇宙に存在することがわかっていて」
「しかし発見されたことはない」
「誰も観測してないのに存在だけが示唆されている」
「そしてまたの名を」
「暗黒物質」
「………」
「………まさか」
「偶然と思うかい?」
「………」
「聖女は変質してる」
「認めたくないな」
「聖女という器の役割は」
「人の世界の秩序を守ること、か」
「もしも変質して役目を果たさないなら」
「人の世界の秩序は崩壊する、か」
「つまりそれは」
「魔王の封印が解けるとき」
「前はなんとかなった」
「だが今回は」