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誰かのための心臓になりたい  作者: 西川秋人
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僕と優香の夏休み

優香が行きたがっていた服屋に到着すると、優香は早速自分好みの服が並んでいるところへと向かった。

よほどこの店に来れたのが嬉しかったのか、目を輝かせて見回している。

気に入った服があったのだろうか、見て間も無く陳列されている服の中から手際良く一着手に取ると、早くも優香のテンションについていけなくなっていた僕の元へと駆け寄ってきた。


「ねえ翔悟!これどう思う?」


何を基準に選んでいたのかは分からないが、優香が持ってきたのはピンクの派手目な服であった。

蛍光色とまではいかないが、それで街に出るとなると比較的目立ちそうな色ではある。


「んー、派手過ぎじゃないか?」


優香はこういう服が好きなのかもしれないが、どこか身の丈に合っていない気がした。

しかしいくら関係が古くからの縁で今こうして恋人同士になってはいても、流石にストレートに言えばその服が似合うほどの容姿をしていないとれっきとした悪口に捉えられる気がしたので、僕は言葉を多少濁した。


「翔悟ってさたまに酷いこと言うよね」


しかしやはり女というのは鋭いものである。

無意識のうちに本音が表情として出てしまっていたのかは分からないが、誤魔化しが簡単に見抜かれてしまった。

でも優香が感じた酷いと思った理由と僕が実際に抱いた感情は違う。

僕的には単純にこの服を優香に着てほしくないだけなのだ。


(もしかして僕の趣味が悪いのか?)


男と女ではあらゆる場面においてその価値観の差が顕著に出てくる。

今この瞬間だってそうだ。

優香は良かれと思って僕に見せてきたのだろうが、僕からするとそういうタイプを優香には求めていない。


「これをお前が着るのは似合わないと思うよ?お前はもっと地味な服を着るとか、少し抑えめの色のスカートをはくとかそういうのがいいと思うよ」


優香にアレコレまた言われる前に、僕は近くにあった商品の中から妥当だと思った服を何点か取り出して優香にススメてみた。


「んー、私としてはなんか地味なのは嫌!」


とりあえずは流し見で見てくれたのだが、間も無く案の定というか知ってたとでも言おうか、首を横に振り僕の提案を拒否した。

そして優香が再び、商品へと視線を移そうとした時気のせいか目元が曇ったような気がした。


(地味すぎると彼氏の方は地味な彼女といるという風にバカにされるのよ?)


(彼氏の前では少しくらい背伸びして可愛く見られようと必死なんだよ?……あまり考えたくはないけど、鈍感かのかしら?)


こんな優香の心中など今の僕には知る由も無い。

女子からすれば男子の前では可愛い服を着ていたいんだろうが、派手すぎるのは僕の中では嫌だった。

なんて言ったらいいのかはハッキリとは分からないが、簡単な言葉で表現するなら"素朴"といったところだろう。

それから優香は結局小一時間ほど悩み、最終的に派手目な薄ピンク色のスカートや服を一式買うことにした。


「色々と悩んだけど可愛い服買えて良かった

これで、女子力アップかな?」


「フッフフーン一杯買っちゃった♪」


僕からの反論はあったが、よっぽど気に入っていたのであろう大切そうに抱きかかえて店を出た。

服屋をあとにした僕と優香は、続いてゲーセンへと向かうことにした。

僕からすればゲーセンなんて何年ぶりだろうか、ゲーセンも幼少期から来ていないためかなり久しぶりだった。

幼少期以来のゲーセンは、例えて言うなら近未来に来た感じがするくらい進化していて、驚きを隠せなかった。

ゲーセンに到着すると、早速優香は女子の定番であるプリクラ機の置かれているスペースへと向かった。

向かう途中キャッチャーやらゲームやらゲーセンでは定番の台がいくつも設置されていたが、優香はそんな物に一切目もくれずスタスタと歩みを進めて行った。

そしてプリクラ機が置かれているスペースへと到着すると、優香がクルリと振り向き物凄い勢いで近づいた時、同時に僕の両手を下の方で包み込むように握りお誘いの言葉をその口から言い放った。


「あ、そうだ。ねぇ、翔悟!プリクラ撮ろうよ!」


大体そう言うとは思ったが、この時は一瞬雰囲気が違って見えた。

いつもと同じテンション、いつもと同じ顔、いつも見慣れている優香なはずなのにほんの少しだけ、いや気のせいかもしれない。

僕はほんのちょっとの心の揺らぎを優香に悟られないために、平常心を装い簡単な言葉で返事をした。


「いいよ」


そして僕たちは早速プリクラを撮ることにした。

まぁ、普通に考えてみれば優香のこのテンションも当たり前なのだろう。

付き合ってから好きな人との思い出で、プリクラを撮るんだからこの高いテンションは普通だ。


「フフ」


僕は思わず心中で抱いたくだらない自問自答に軽くではあるが笑い声をこぼした。


「?」


優香は僕の様子を不思議そうに見ていたが、そんなことよりもプリクラを撮る方が気持ち的には優先的になっているのか、すぐにプリクラ機の方へ向き直し台選びを開始した。

僕はこの時目の前に広がるプリクラ機の数々を見て驚いていた。

今の時代こんなにもプリクラ機がある上、それぞれ搭載されている機能が違うということ。

でも僕からすればどれも同じなんじゃないかと思っていた。


「色々あるけど……どれにする?」


僕がそう聞くと、優香の中ではもう既に決まっていたみたいですぐに優香が答えた。


「うーん……どれもいいけど……やっぱりこのピンクの機械ね!この中で一番機能がいいやつがついてるから」

「分かった。これにするか」


最近の若い女子はプリクラ機に厳しいらしく、いつも撮る機械が決まってるらしい。

そして僕は、人生初のプリクラを撮った。

そのあと撮ったプリクラを二人でデコり、僕たちのオリジナルのプリが完成した。

撮ったプリを見返した時、僕は思ったことがあった。

プリって顔を盛れるようになっていて、自分がかっこよくなったり、可愛くなったりで違う自分がもう一人いるような感じに取れた。

それから僕たちは、時間の許される限りゲーセンの中を満喫した。


「優香、次どうする?」


普通は彼氏がリードするもんなんだろうけど、僕はあえて優香に主導権を譲った。


「お揃いのストラップとか買いにいかない?」

「お揃いのストラップか?いいよ」


お揃いのストラップとかやりたいと思ったことは一度も無かったが、この機会にやってみるのもいいなと思っていた。

そして僕たちは丸川というストラップを取り扱う専門店にやって来た。

この店は運気が上昇する特別なストラップとかも販売していた。

僕と優香が悩んでると気を利かせた女の店員が話かけてきた。


「カップルで、お揃いのストラップをお探しですか?」


店員のカップルという言葉に心躍らせたのか、優香が体を今まで以上に密着させてニコニコしながら答えた。


「そうなんですっオススメとかありますか?」


すると店員が、パッと顔色を明るくさせてから商品をオススメしてきた。


「こちらはどうでしょうか?」


店員が手に持っていたのは、赤色のハート型をしたストラップ。

僕はさすがにそのまま過ぎるとは思ったのだが、店員は早速商品の説明を始めた。


「こちらのハート型の商品なんですが、これには二人の絆をより深めるという効果があるんですよ」

「へ〜そうなんですね」


店員が笑顔でしっかり説明を終えると、優香が迷うことなく答えを出した。


「それ、買います」


きっと優香は心が舞い上がっていてそれっぽい商品であれば買ってしまう気分にいたのだろう。

僕に聞くこともなく買うことが決定した。

それからまた色々店を見て回っては他愛もない世間話で盛り上がった。

時間的にも遅くなってきたため、外へ出ると既に辺りは真っ暗になっていた。


「じゃ、またね」


よほど今日一日が充実していて満足したのか、優香は可愛い満面の笑みで言ってきた。


「おうまたな」


僕も笑顔で返す。

気付けば優香の笑顔を見てるだけで元気になっている自分がいる。

あれほどネガティブな思考をしていたが、優香の言う通り彼女がいるっていいもんだなと思えるようになっていた。

ようやく家に帰宅すると、早速母親がしつこく質問をしてきた。


「ただいまー」


「あら、おかえりなさい。今日はどうだったの?」


我ながらその質問に少し照れながら答えた。


「まぁ、よかったよ」


すると母が、息子の楽しそうな姿をみて安心したのかニコニコしながら言った。


「なら、よかったじゃない」


簡単にではあるが、母との会話を終えて部屋に戻ると先程別れたばかりの優香からメールがきた。


[ねぇ、翔悟。家に着いた?]


[着いたよ。優香は?]


[私も着いたよ。ねえ翔悟ところでさ、明後日、遊べる?]


[遊べるよ]


[やった!じゃあ、明後日、あの公園に13時ね]


[おっけー]


という感じでやりとりを終えた。

そして次の日、僕はやることがなかったため家でのんびりしながら考え事をしていた。

僕はなぜ今まで、生きることに悩んでいたんだろうと考えていた。恋愛をすれば恋愛をしてる間は、人生が楽しくてしょうがないのだ。

恋愛をしていれば自然と好きな人のために生きたいと考えるようにもなる。

家でこんなことを考えながらゆっくりしていると、裕介からメールがきた。


[翔悟ー今暇してるー?ていうか、どこでなにしてる?]

(このメールなんだよ、お前はメンへラ女子かよ!)


と突っ込みメールを入れたくなるような聞き方だった。

"男子にどこでなにしてる?"って聞かれると、背筋に冷たいモノが走る。

僕はあえて、何も突っ込まずにメールを返信した。


[今ー?家でごろごろしてたよ]


[そっか、もしかして暇人か?]


[まぁね。ところで急にどうした?]


[なあ翔悟、ゲーセンに行こうぜ!]


裕介の誘いで二回連続のゲーセンに行くことになった。

そして、待ち合わせ場所であるアスクルスにつくやいなや、先に着いていた裕介が僕に話しかけてきた。


「来たか!じゃあ早速行こうぜ」


と僕が話すタイミングもなくゲーセンへと向かった。

ゲーセンに到着すると、裕介はとあるゲームに指を指しこう言った。


「翔悟あれを見てみ?あれが今日翔悟にやらせたかったゲームだぜ」


裕介が指を指したのは、運転シュミレーションゲームだった。


「運転シュミレーションゲームか」


そう聞くと裕介は、目をギラギラさせながらいった。


「翔悟!なにもわかってないな!これはな、実車を完全再現して、作られたゲームでよ、実車のように、サイドブレーキ、MT車特有のクラッチ、ギア、アクセル、ブレーキがついたゲームだ」


裕介は車が大のつくほど大好きで、車のことになると、口が止まらなかった。


「で?これは、どうやるんだ?」


僕は興味はないという顔をしながらいった。


「これは、実車さながらの運転をしながらこのゲームにあるコースをいかに速く走れるかを試すもので、全国の人とタイムを競って全国一位を目指すものだよ」


興味のない僕に真面目に説明をしてきた。


「そうなのか。よくわからん」


すると裕介は、血相を変えて長々と話を始めた。


「翔悟!いいか?よく聞けよ!このゲームの名前はドリフトキングだ!名前の通りドリフトをかけ、いかにスピードを落とさずコーナーを綺麗に曲がれるかが鍵なんだ。実車同様、クラッチのやり方をミスるとエンストするようになっている。普通実車だと、エンストするとエンジンが止まるけど、このゲームは、エンストすると一気にスピードが落ちてゼロになる。まぁ、子供もできるようにオートマモードもあるけどね。実はな、このゲームを開発した人は大の車好きで、実車の感覚を多くの人に味わってもらいたいと思ったらしく、この実車同様の動きをするゲームを作ったんだよ。これな、免許を持ってない人でも、ゲームではあるが楽しめるだろ?」


と、裕介はここまでを熱く語り終えた。

これを聞いた僕は少し裕介の熱に押されていた。


「す……すごいな……なんか、今の時代マニュアル乗る人減ったもんな。マニュアルのよさを広めたいって気持ち伝わるな」

「だろ?」


妙に自慢気に言ってきた。

すると、裕介が早速乗り始めた。

プレーをしてるところを見ると結構難しそうにみえた。

まぁ、僕は車に興味すら無かったから、見ていてもなにも感じなかった。

裕介がやり終えると僕の顔を見て裕介は悔しげに言った。


「タイム更新できなかったわ」

「でも、上手だったよ。これなら、免許すぐとれるんじゃない?」


そう聞くと、特にボケるワケでもなく割と生真面目な返答をしてきた。


「それは無いな。勉強が無理だからな」


笑いながら頭悪いですアピールしてきた裕介に僕は苦笑いをするしかなかった。

その後裕介は何回かプレーをしてから僕達は帰路につくことにした。

そして僕は、来たる明日を楽しみにしながら布団に入り寝たのだった。

次の日の朝は、妙にとても天気がよく気温も高く暑い日だった。


「あちー。あっ、母さんおはよう」


母に朝の挨拶をする。


「あら、おはよう。今日デートでしょ?」

「うん。そうだよ」

「楽しんでらっしゃい」

「うん」


母と会話を終えた後、準備を完了させオシャレな服装に着替え、待ち合わせ場所へと向かった。


(あれ?まだ着いていないのか)


またあの日のように先についてしまった。

先に誘ってきた優香は、結局集合時間一分前についた。


「ごめーん!お待たせ」


世界一といってもいい可愛いにっこり笑顔でいってきた。

この笑顔を見ると僕も笑みがこぼれてしまう。


「じゃあ、今日は、水族館にいこうぜ!」


笑顔でそういうと、やたら水族館に行くのが嬉しかったのか飛び跳ねながら答えてきた。


「うん!」


そして僕達は、緑丘水族館へと向かった。

バスに三十分くらい揺られていると、緑丘水族館に到着した。

降りて水族館に入るやいなや、優香がいつもよりハイテンションにいってきた。


「翔悟!イルカショーみよう!」 


優香は入ってすぐにイルカショーを見たいといってきた。

僕は流石に早すぎではないかと思ったので反論した。


「優香水族館に入って一発目にイルカショーは、流石に早すぎだと思うぞ?少し回ってからにしようぜ!」


笑いながら反論すると、優香は少し嫌な顔をしキレ気味に言ってきた。


「別に良くない?先に見てから回ってもさ」


流石にまずかったと思った僕は優香の言うことに従い、イルカショーを見ることにした。


「ごめん!イルカショーを見てからにするよ」

「じゃあイルカショーね!」


そして僕たちは早速イルカショーを見た。

イルカショーというのもほぼ初めて見た気がしていた。

そして、イルカショーが開演した。

イルカが海中から飛び跳ねる演出から始まると、観客が歓声を上げた。

僕はこの時、イルカショーを見ていて感じたことがある。

イルカの演出は飼育員との絆があって出来るもの。

だからこそイルカショーというのは、どこか感動するものがあると思っていた。

そして僕と優香は、イルカショーを見終わると亀が展示されているブースへと向かった。

そして、水族館をあとにした僕たちは帰ることにした。


「今日は楽しかったね。」


優香は、他の女が見たら嫌がるぐらいの女を出して言ってきた。


「そうだな、またな!」


そういうと優香は、踵を返して帰っていった。

僕は優香の後ろ姿が見えなくなるまで見送った。

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