全てが初めての経験
僕は過去に生きる理由を見失い、死ぬことだけを考えていた。
でも、過去にとある女の子に出会い僕の運命は大きく変わった。
そして、三十八歳になった僕は、人生に悩んでる人の救いになればと人生のカウンセラーをしてる。
そして、今日は生きることに苦しんでいる若者たちを対象に、講習会を開いた。
「えー皆さんこんにちは!僕の名前は大塚 翔悟といいます。本日はよろしくお願いします」
「お願いします!」
講習生が口を揃えて挨拶を返した。
その時僕は皆の顔を見てあの時のことを思い出していた。
生きることが辛かったあの時期、俺はあんな感じだったと思いながら講習生の顔を一通り見渡した。
「えーそれでは……本日高校生から二十三歳までの生きることに苦しんでいる皆さんを対象に集まって頂きましたが、今から僕の過去についてのお話をさせていただきます。皆さんの心にどのような形で届くかは分かりませんが、これも一つのキッカケと思っていてください。それでは、話していきます」
僕が一瞬目を閉じ意識を集中させ静かにまた目を開くと、講習生たちは一同に視線を寄せていた。
そしてあの話が口火を切る。
あれは今から二十二年前、僕がまだ高校二年生の夏頃の話。
幼い頃からの友達で、木村裕介という人がいた。
裕介とはすごく仲良しで、都内の緑丘高校に入学後一年から長い間一緒のクラスだった。
そして僕が二年のある日、進路のことで一人愚痴をこぼしていると、裕介が話しかけてきた。
「翔悟!なーに、独り言いってんだよ!」
テンション高めの声で、後ろから肩を少し強めに叩きながら言ってきた。
叩かれたところは気のせいかジンジンしている。
「痛っ!てかさ、ありえないだろ?2年生で、まだこれからなのに進路の話とか鬱になるわ!」
僕の反論に裕介は顔を綻ばせ、笑いながらこう返した。
「翔悟、お前ってさ夢とかないのか?」
裕介が笑いながら聞いてきたが、実のところ僕は夢を諦めていた。
小学校の頃から、プロのバドミントン選手になることを夢に抱いて努力をしてきた。
だが、その夢は中学の最後の大会で消えたのだった。
「裕介は知ってんだろ?夢は叶わないってこと。努力をすれば叶うよって大人が言ってたから、俺はたくさんの努力をしたさ、でも結果最後の引退試合で一回戦敗退したんだぜ?だから、夢は所詮夢物語で終わるんだよ」
何故自分からトラウマとも思える過去の話をしているのだろう。
逆に悲しくなってくる。
僕がネガティブ発言をすると、今度は裕介が顔色を変えて語り始めた。
「翔悟、お前さ夢を簡単に諦めるわけ?俺は違うと思うぞ?努力をしても無理だったかもしれないけど、そこからもっと努力をするべきじゃなかったのか?他の人の何百倍も努力すれば、プロの選手になって日本代表として活躍できたと思うよ!」
珍しく裕介が真面目に熱く語っている。
裕介がこんなに真剣な表情をしたのはこの時が初めてだった。
でも、僕はこの時僕なんて生きる価値は無いと思っていた。
そして次の日、学校に行くと今度は幼馴染みの矢野 優香が話しかけてきた。
優香も同じ高校に入学して、同じクラスメイトになっていた。
「翔悟!おっはよう!」
朝から妙にテンションが高いが、優香は元からテンションを高くして接してくるので今更驚くこともない。
「おはよう。テンションたけーな」
そんな優香とは対照的に僕は、死んだ魚の目をしながら返事を返した。
「翔悟、目死んでるよ。大丈夫?」
優香はそんな僕の表情が面白かったのか、笑いながらバカにするように心配の声をかけてきた。
「もう死んでもいいと思ってるから自分で心とか感情とか殺してるんだよ」
高校生にもなってどこか痛いような感じのセリフにも取れるが、実際本当に思っていることなので最低でも優香には素直に話してみた。
しかしやはりそこは常時ハイテンションな優香だ。
暗い僕に引いてストレートな単語を言い放つ
「うーわっ、出た!ネガティブ男子!そういうのやめた方がいいよ。女子にモテないし、だれも近寄んなくなるよ?」
ハイテンションの優香がそんな心配をしてくると、どこか関西のオバチャンが言っているようにも感じてしまうが、今の僕にはあまり関係の無いことだ。
なぜなら、別に死にたいと思ってる自分からすると、彼女とか特別欲しいとは到底思えなかった。
というよりは、別に女絡みもいらないだろと思うくらいで、最早学生なら普通持つであろう熱さえもどこか冷め切ってしまっていた。
「別にな、彼女とか欲しいと思わないし、モテなくていいんだよ」
その一言に優香は呆れた顔をしながらまた追い打ちをかけるかのように言及をしてきた。
「はぁ、どんだけネガティブな思考をもってんのよ。本気で生きる希望を失ったの?」
心配してくれるのはいいが、ここまでくると最早オカンかよとも思えてくる。
「あぁ、本気で失ったよ。てか、なんのために産まれたのかなーって思ってるよ」
しかし僕はそんなお節介にも冷たい返事で回答する。
僕は、今の今まで産まれた理由がわからないまま生きてきた。
生きる理由も分からないままじゃ、生きる意味はないと思っていたから。
今度は僕から優香に説得するように口を開いて熱弁を始めた。
「優香もわかるだろ?大人の言うことは、理不尽でしかないんだよ。大人は、大人の事情とかいって自分の都合のいいように、動いてて、俺たちガキは大人の道具みたいなもんなんだよ」
一般的な学生や人間からすると人生これからっていう青二才が何を偉そうにとも思うかもしれないが、これが僕の本音なのだ。
優香に対して熱弁をしていると、わきで話を聞いていた裕介が急に話に入ってきた。
「翔悟!お前さ、発言がアホすぎるよ。まぁ確かに、このご時世翔悟が言うような世界になってるけどさ、でもその……大人たちも政府の道具になってて、苦しんでる人もいると思うよ。だから、翔悟だけじゃないってことだよ」
その裕介の一言で僕はふと我に返った。
思わず熱くなりながら言ってしまった。
確かに裕介の言う通りだった。
今のこの世界は、政府が支配してる感じがしてならなかった。
まるで政府の手の上で誰も彼もが転がされているように。
そして夏休み前日、先生が皆に話をしていた。
「みんなーいいかー?明日から夏休みだが、夏休み期間はハメを外さず、来年就職活動を控えてることを肝に銘じて行動するように!いいな?」
「はーい!」
担任の強い口調から言い放たれた注意喚起に皆声を揃えて返事をした。
そして僕は、優香に聞こえるように言った。
「でたよ。就職活動のことを考えて行動って、まだ早いし、それきいただけで、鬱になる」
優香は僕のネガティブな発言を聞いて再びバカにしながら答える。
「鬱になるとかどんだけ、仕事とかしたくないの?」
「いや、別に仕事をしたくないわけじゃないよ。ただ、したいことがないだけだよ。」
そう、別に仕事をしたくないわけじゃなかった。
言い訳に聞こえるが、ただ何をするために生きているのか分からなかった僕からすると、今生きてるのが辛いだけだった。
そして、僕はやりたいわけでもない職について愚痴を言いながら、毎日毎日働くんだと将来を考えるようになっていた。
実際社会人になれば、生活費のことやいろいろなことを考えて生きていかなければならない。
そんなことを考えると将来が真っ暗で、先が見えなくなってしまう。
だから生きているより死んだ方が、どれ程楽なんだろうと考えてしまう自分がいた。
僕が暗い思慮に入り込んでいると、不意に優香がなにか思いついたように言った。
「あっ!翔悟さ今週の日曜暇?」
その急な質問に僕は若干戸惑いながらも答える。
「まぁ何もも予定はないけど」
すると優香は、嬉しそうな顔をしながら一つ提案をしてきた。
「良かった!実はその日ね花火大会があるのっ、折角だから二人で見に行こうよ!ね、いいでしょ?」
随分と断りにくい誘い方をしてくるが、僕自体もその日はちょうど予定がなかったので、行くことにした。
「いいよ」
そして、その日の学校の帰り道僕はふと思い出した。
そういえば花火大会って子供のとき以来だった気がする。
そういえば、生きる希望をなくしたときから、花火大会や他の祭りとか興味すら無くなってて、いつしかいつどこでやってるかすらも分からなくなってしまっていた。
相変わらずハイテンションの優香がいないとすぐにネガティブな思考回路を組んでしまう。
最早彼にとってはこのルーティーンが一種の癖になってしまっている。
しかし今週末は優香との予定がある。
僕は両頬をパンと叩くと帰路を急いだ。
ーそして、花火大会の日
待ち合わせの公園に行くと、優香が浴衣姿で先に到着していた。
優香の浴衣姿を僕は初めて見た気がする。
というよりは、女性の浴衣姿とかをほぼ、いや初めて見た気がする。
そりゃそうだ、小さいとき以来祭りには行かず終いだったのだから。
遅れて到着した僕は、謝りながら優香のもとへ駆け寄る。
「ごめん!遅れた。」
こういう時は男性の方が心を躍らせて早めに着いた結果何分何十分と待ち、待ち合わせ予定時間より少々遅れてきた女性に対して"今来たところだよ"と使い古されたネタではあるが、本来ならするべき展開なのだろうが、まさかの女性が待ち男性が遅れてくるという恋愛モノなら読者が割と引くような展開を作ってしまう。
だが、待たされた優香は笑いながら許してくれた。
「大丈夫!大丈夫!私も今さっき来たところなんだ。」
遅れてきた身としては、優香のさっきという言い方にある程度の理解を示さなければいけないが、ここは笑って許してくれたことに甘えてあまりぶり返さないように気をつけた。
二人がこうして集まると、優香は続けて浴衣のことについて聞いてきた。
「ねえ、翔悟?私の浴衣姿どう?」
優香は僕の目の前でクルリと一周回って綺麗にお粧しした装いを披露した
その姿に僕は少し口角を上げて、正直な気持ちを伝えた。
「可愛いと思うし、似合ってるよ」
そう言うと、よっぽど嬉しかったのか頬を染めて跳び跳ねて喜ぶと、子供のように照れながら言った。
「ありがとう!なんか、恥ずかしい!」
この時花火大会に女子友達と来るのが初めてで、どうしていいか分からず戸惑っている自分がいた。
「とりあえず見る場所とか決めようぜ」
優香はさっきの事が忘れられないのか、顔を赤くしながら周りの音にかき消されない程度の声量で返事をした。
「そうだね…」
人が所狭しと歩き回りちょっとでも気をそらした瞬間離れ離れになりそうな場所から少し出て、花火がよく見えるより良い場所を探している時、ふと優香が僕に質問をしてきた。
「翔悟ってさ、死んだ方がマシとか言ってたけど……彼女とか要らないの?もしかしたら作ったことがキッカケで人生変わるんじゃない?彼女のために生きるってなるかもよ?」
普通の学生であれば優香のこの一言でちょっとした上手い返事を返せたのだろうが、この時の僕にはそういう気持ちが詳しく分からなくて上手いこと処理することが出来なかった。
「彼女かーいい人いないしなー、でも、確かに出来たら変わるかもなー」
僕は精一杯のセリフを考えて少々照れながらもそう返事をした。
「早く、いい人見つけな?」
優香はそんな僕の返事にどこか残念そうな顔をしながらも、またバカにしながらいつもの追い打ちをかけてきた。
「はい、はい!探すよ!」
その優香の一言に僕は少しキレ気味になって返してしまった。
優香の残念そうな表情に気付けなかった上に、本当は言って欲しかったであろうあの言葉すらも思いつかなかったのに。
そんな会話をしているうちに、観客の声がいきなりザワザワし始めた。
そう、ついに花火が打ち上がったのだ。
宵闇に打ち上がった火を纏う一球の花火玉は、天高く飛び上がりある一点で止まった。
ピューン、ドーン‼
暗闇だけが広がる夜の空に一際光り輝く一輪の花を模した花火は、辺りに火花を散らしその一瞬の煌めきを見ている人々の目に映した。
久し振りの花火を見たとき、思わず感動してしまった。
何年振りの花火だろうか?
小さいとき以来だから、あまり覚えてない。
「なぁ、優香。花火ってなんか切なく綺麗だよな?」
花火を見ながら、気付けば僕は素直に思っていたことを口にしていた。
「え?切なく綺麗?」
花火に見惚れていた優香は、いきなり喋った僕にどこか驚いた表情と困惑した雰囲気で目を向けた。
「うん、花火って、一瞬のことだろ?空に待って大輪の花を咲かせたら散る。まるで地上に咲く花のようにさ、それが切ないなーって。一瞬咲いて皆にオーって言われるけど、すぐ散る。花火ってそう考えると、切なく綺麗で実は悲しいものなんだって俺はそう思ってるよ」
優香の質問にも近い言葉に僕は流れるように今空に咲いた花火に対して一瞬思ったことを口にした。
特別元から用意していた内容でもないため、ひょっとしたら支離滅裂になっていたかもしれない。
「それはあるかもね!翔悟らしい考えだね」
でも優香は細かいことは気にせずに、僕の言ったことを素直に受け止めていた。
僕はこんな過去の話を真剣に聞いてくれている受講生たちに、僕が普段から抱いている生と死についての持論を語った。
僕はこの地球に生まれてきた限り、死はつきものだと思う。
人間だけじゃない、植物も動物も虫たちもいつかは終わりを迎える。
それぞれ、生きる理由を探して、見つけて、それを達成させるまで頑張って生きる。
そういう世界になっている。
でも、この世界は残酷で、動物はいずれ人間に食われてしまうのに、食われるまで必死に生きているのだ。
また、動物は人間の娯楽の一つにもなっている。
そして、僕はあの時のテレビを見て思うことがあった。
今も多少は、そういうのがあるのだが、テレビでよく明日からパンダが展示されますとか、猿が展示室から脱走しましたなどという表現がされていたことがあるのだが、展示という表現は動物に対して失礼ではないのかと思うんだよ。
動物だって生きている。
まぁ、動物は人間の娯楽の一つになるために生まれてきたのかもしれない。
しかし、たとえそうだとしても展示という表現をするのは、可哀想だと思っていた。
公開するとか動物園から脱走しましたというような、表現にするべきだと思っていたんだ。
この持論が受講生たちにどう聞こえたのかは分からない。
ひょっとすると今の心では理解しきれない人もいたと思う。
しかしそれでも、この一つの論をキッカケにまた何か受講生の心に新しいモノを芽生えさせればと思い語ったのだ。
命というのは短くても長くても大事なモノ。
この本質が伝わっていなくても僕は聞いてくれたことに人知れず感謝した。
そして再び話を切る前の言葉を思い出しながらあの過去を僕は話していった。
その後、僕と優香は特別何かを話すわけでもなくただ一心に夜空に打ち上がる花火を見続けていた。
そして、いつしか花火大会も終わりを迎えていた。
そんな時、優香が恥ずかしそうに僕のほう見て、言った。
「翔悟…」
その顔は何かを決意したようにどこか強張っていた。
そんな優香の顔を見ながら僕は答える。
「ん?どうした?」
「私、そんなネガティブな翔悟でもこの気持ちは変わらないよ」
優香は今まで見たこともないような柔らかい表情に自然と変わると、僕の両手を優香自身の両手で包み込み、その口紅も相まって弾力がある口から伝えたかった一言を伝えた。
「私、翔悟のことがっ」
その時、神の悪戯か絶妙なタイミングでクライマックスの花火が打ち上がった。
ピューン…ドーン‼
その花火の音で優香が言った一番重要な部分が聞こえていなかった。
「ん?何て言った?途中から聞こえなかった」
「え?」
そう言うと優香は、逆に聞こえてなくてよかったという顔をしながら言った。
「あっ!本当に最後らへん聞こえなかったの?」
聞こえなかったが、実際僕はあの瞬間優香が口にした一言の予想は大体ついていた。あんな普段ハイテンションで僕に接してくる優香が一人の女性の顔をして僕を見つめ真剣に話をするのなら、あの一言しかない。
僕は優香にわざわざもう一度言わせるのも酷だと思いあえて聞こえたという程で返事をしようとすると、余程聞こえなかったのが悔しかったのか、優香が今度は花火が打ち上がっても聞こえるように大きく口を開けて告白の意を告げた
「私、翔悟のことが好きなの!だから付き合ってください!」
今度は花火が打ち上がらなかったが、その分優香の大声が辺りに響く。
一部の人から何事かのような視線が注がれていたが、あえて僕はその視線を気にせずに優香の告白に対して少し思考した。
そして、僕は答えを出した。
「俺は、好きという感情はないよ。でも、好きになれるように努力するよ。正直なところ俺は、優香のこと可愛いなーとは思ってるし、気になってはいた。」
明らかに告白に対する答えとしては成り立っていない。
しかしこれが現状の僕に出来る最大限の返事だ。
すると、可愛いと言ったのが嬉しかったのか、気になってはいたというのが良かったのか強張らせた顔を明るくさせ、ニコニコしながら言った。
「いいよ!私は翔悟が大好きだから」
「分かった。付き合おう」
そして、僕たちは付き合うことになった。
そして花火大会の次の日、いきなりではあるが初めてのデートをすることになった。
実際のところ僕は女性と付き合ったのも優香が初めてで、結構緊張していた。
実は今日、張り切りすぎて集合時間十五分前に来てしまっていた。
さすがにこれは緊張のし過ぎがモロに出てしまっている。
そこで僕は優香が来てもなるべく平常心でいられるように、必死になって深呼吸をし続けた。
そして時間になると、浴衣姿とはまた違った可愛さの優香が走ってきた。
「ごめーん。待った?」
昔から見慣れているし、昨晩だって会っていたのに装いが違うだけでこんなにも女性というのは雰囲気を変えるのかと心底思ってしまう。
僕は優香の待ったの一言に本来なら、ドラマ的に待ってない今来たところとか言うのが一般的なんだろうけど、あえて僕は少し言い方を変えていった。
「初めてのデートで張り切りすぎて早めに来た。だから待ったよ」
そう言うと、やはり優香にその返しは期待してなかったというような目で見られた。
「あっ!KYだ!」
という言葉を添えて。
僕はそれに対してまたいつものネガティブなことを言ってしまう。
「いや、待たせたら嫌われるから早く来たけど、速すぎても案外嫌われるんだな。てか最早さっきの発言で嫌われてるわな」
すると、優香は笑いながらまたあの時と同じように同じことを言った。
「出た!ネガティブ発言!」
優香には気付かれていなかったが、実はこの時の僕は楽しくてしょうがなかった。
以前まで死にたいといっていた自分が思わず馬鹿らしいなと笑い話に出来るレベルで。
皆が言うように、彼女がいるって人生楽しくなるんだなと、実感していた。
「ところで翔悟?どこに行く?」
彼女に言われてから思ったことだが、どこに行くかを考えていなかった。
まず、この辺自体何も無いのだ。
「じゃあアスクルスに行くか?」
アスクルスというのは、僕の地域で一番大きいショッピングセンターで、様々な店が軒を連ねている。
「いいよー!」
アスクルスに向かうために最寄りのバス停からバスに乗った。
バスの中で、優香はふとアスクルスの話を口にした。
「ねぇ、アスクルスって名前変じゃない?翔悟は、なんでアスクルスって言うと思う?」
彼女に言われたからではないのだが、実は僕もアスクルスの名前には疑問を抱いていた。
「分からない。でも、アスクルスって面白い名前だよな」
僕が少し口角を上げて彼女の質問に答えると、優香は笑顔を見せながら返事を返した。
「そうだね」
二十分間バスに揺られていると、いつしかアスクルスに着いた。
アスクルスを降りてすぐ優香が見たいと言っていた服屋に向かった。
これがキッカケとなり、僕たちの初デートが始まったのだ。