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異世界派遣サーガ  作者: たまごかけキャンディー
時を越えた英雄の章
22/43

脱獄成功


 僕はまず彼を脱獄させるために騒動を起こすことにした。

彼を逃がすにしても、牢屋の周りに人がたむろしていたのでは逃げられないからだ。


 しかもこの牢の外はほとんど城のような屋敷で、侯爵家に相応しい大きさを持つ。

その中を掻い潜るのだからそれ相応に大変だ。


 しかし肝心の騒動を起こす方法とやらは簡単で、ただ侯爵家に魔法で攻撃を仕掛けるだけ。

それなりに大きな魔力は使うだろうけど、今の僕の魔力量は加護の力で人間の限界を遥かに超えている。


 大魔法だろうがなんだろうが、コントロールを気にせずに使うだけならわけはないだろう。

神様のアドバイス様様である。


 とはいえ無関係の人を巻き込み死人を出すわけにもいかない。

魔法攻撃といっても最小の威力で人を誘導するための工夫が必要だ。


「そういう訳で、作戦は以上だね。そちらはそちで検討を祈るよ」

「え~!? ここは魔法で眠らせたりしつつ、秘密裏に脱走するシーンでは!? テンイさんは泣く子も黙る大魔法使いなんですから、そのくらいはしてくれないと」

「そうだぞ貴様! この俺の家臣に傷でもつけてみろ、英霊だろうがなんだろうがタダはおかんからな!」


 いや、大魔法使いは僕じゃなくて僕の師匠だ。

確かにクロードさんならそういった魔法の存在を知っているかもしれないし、知らなくても即興で似たような効果のものを作り出してしまうかもしれない。


 だけど僕はそんな彼から手ほどきを受けただけのただの一般人だ、もちろん当然のように睡眠魔法など使えないからね。

やっぱり無理があるよねこの設定、英霊とか名前負けしてるよ。


 でもグラン君が家臣を守ろうとしていたのには驚きだ。

てっきり彼は彼らを見返したいという復讐心に囚われているように見えたけど、いざという時は彼らの味方をするんだね。


 少し見直したよ。


「知らないものは知らないから、以上!」

「ぶーぶー!」


 それじゃ、作戦開始だ。



──☆☆☆──



 結果として脱獄は上手く行った。

それこそまるでクロードさんのような大魔法使いが手を貸したのではないか、というほどに。


 原因は僕が報酬で選んだ魔力増加の加護。

思っていたよりも神様の加護の力は強く、そして適応される範囲が広かった。


 元々の魔力の貯蔵量を増やすのはもとより、その制御能力、発動威力すべてがブーストされていたのだ。

やっぱりマホーってすごいやと、半ば幼児退行しながらその事実に唖然とするしかない。


「ぜえっ、ぜえっ、ぜえっ……。に、逃げきった……」

「お疲れグランくん。でもまだ終わりじゃないよ」

「どういうことだ?」

「この際だから事実をそのまま伝えるけど、あのまま牢屋にいたら君って死んでたんだよね。つまり……」

「つまり、追手が来る可能性があると?」


 やはり飲み込みが早い。

彼自身うすうす気づいていたのだろう、いままでの不自然な情報の歪みと自分が置かれている状況に。


「そういうこと。それとこの領地から逃げつつも、君には体を鍛え魔法を覚えてもらう。生きるためにね」 

「ふむ……」


 彼は思案気に腕を組み考え出す。

やはり自信がないのかもしれない。


 彼が育ってきた環境では彼自身が戦い、そして生き残るために強くなるような教育を受けてこなかったはずだ。

彼はあくまでも騎士や兵を指揮する側であり、それが貴族の常識。


「自信が無いのかな?」

「そうだ、自信がない。そして経験もない。果たしてこの俺に冒険者や騎士のような真似事が出来るだろうか。いや、そうではないな。やらなければならぬのであれば、やるしかないか……」


 彼は続ける。


「それにこの状況を鑑みるに、既に俺は貴族としての位など剥奪されていてもおかしくはない。父上が俺を守ろうとして牢に入れたのだとしても、ただ翻弄されていただけだったのだとしても、どちらにせよ俺という存在を隠すには死んだ事にするのが一番だからな」

「そうだね、今はそう考えるのが賢明だよ」


 しかし状況的に仕方がないとはいえ、12歳の少年が歩む人生にしては既にもう波乱万丈に片足踏み入れてるよねこれ。


「チッチッチ、ご安心くださいねグランくん? この英霊安奈ちゃんがついていれば怖いものなどありませんとも。なにせ私には土日で働いた分の給料……、もとい、とても強い力があるのです。その名もズバリ魔力感知! これさえあれば敵がどこに隠れて居ようと、主にテンイさんの力により一網打尽です」


 本当は魔法を覚えたくて習得したのですが、と彼女は僕に耳打ちする。

しかしなるほど、魔力感知か。


 確かにこれは一考の余地ありだ。

彼に魔法を教えるついでに安奈さんにも習得してもらえれば、これ程心強い味方は居ない。


 AIとしての演算処理能力をもった彼女が魔法使いとなれば、威力や規模はともかく新たな魔法を生み出す鍵となるだろう。


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