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第五話 資金調達・宿屋

今回はいつも通りの長さです!睡魔と戦いながら書き上げました!よろしくお願いします!m(_ _)m

 兵士達が見たのは、陥没した地面とその中心で伏している八岐大蛇の骸だった。死骸は身体の中心部に風穴を空けており、地面には臓物とドロドロの血液が飛び散っている。その場には異臭が漂い、何人かの兵士が顔を青ざめながら口を手で覆う。


「こいつは……なんだ?」


 隊長であるダンディな髭を蓄えたおじさん、ローランは不思議そうに呟く。それもそのはず、空達が倒したこの八岐大蛇のような見た目をしている魔物は、今まで目撃例がなかったのである。


 こいつが未知の魔物なら、今すぐに王国に届けて調査しなければならない。未知の魔物の発見ともなればこの国にとっての一大事である。ローランは兵士達に向けて声を張り上げた。


「お前達は荷馬車を付近の村から借りてこい!荷馬車が用意出来次第、こいつを王国へ献上しに行く!」


「はっ!」


 兵士達はビシッと敬礼すると急いで村へと戻って行った。ここから先程の村までは少し距離があるので、しばらくは兵士達は戻ってこない。ローランはある程度の魔物が相手でも倒せるだけの自信と実力があるので、一人残り八岐大蛇の死骸を見張ることにした。


「……にしても、俺はこいつのことより、こいつを倒した奴のことが気になるな」


 このレベルの化け物を倒せる他の魔物なんてそうそういない。幾らここが危険地区に指定されているとしても、こいつを超える化け物なんて生息していない。その証拠に、今は魔物の気配が一切しない。こいつに喰い尽くされたのか、どこかに隠れているのかローランには分からないが、こいつの存在に魔物たちが恐怖したのは確かだ。


 魔物の仕業でないとしたら、大体の予想がついてしまう。白髪紅顔の少女と黒髪の少年。奴等の仕業だとするのなら、あの膨大な魔力も、消滅したルルイエの塔のことも納得出来てしまう。


「俺は、とんでもない化け物共を取り逃してしまったらしい」


 ローランは苦笑いすると、その場に胡座で座り天を仰ぐ。


 夕暮れの空、ローランは静かに夕焼けを見つめた。


 ―――――


 小さいがそれなりに活気のある村、セルカ村。俺達はそこへ辿り着くと、まずは素材の換金とステータスカードの作成のために、ギルドへ足を運んだ。


 木造の扉を空けると、そこには沢山の冒険者と思しき人達で溢れかえっていた。ギルドの中は半分がギルドの受付等、もう半分が酒場となっている。酒場の冒険者達は俺とシエルが入ってくるのに気付くと、一斉に俺達に目を向ける。


 ここのギルドは血の気の多い人達が多いのか、冒険者の視線は好意的ではない。俺に敵意を向けながら、シエルには下卑た笑を向け、ジロジロと見てくる。刺すような視線を無視して俺達はギルドの受付カウンターに足を運ぶ。


「ようこそセルカのギルドへ。ご要件をお伺いします」


 対応したのはそれなりに若い受付嬢。俺はシエルが持っている素材をカウンターに置いた。その素材を見た瞬間に、受付嬢は目を見開いた。


「え?ちょっ……これ……しょ、少々お待ち下さい!」


 受付嬢が慌ててその場から離れると、しばらくして眼鏡を掛けた少し地味な見た目の男性を連れてきた。


 男性は興味深そうにその素材を見つめしげしげと眺めると俺たちの方に顔を移す。


「君達、この素材はどこで入手したのかな?」


「クィレル地区にいた魔物から剥ぎ取ってきた」


「クィレル地区?あそこはある程度の実力の冒険者じゃないと生きて戻れないところなんだけどね。にしたってそこのどの魔物の素材でもないようなんだけど……ちなみにステータスカードは?」


「俺もこいつもステータスカードを持っていないんだ。だから今から発行するつもりでいた」


「驚いたね、冒険者ですらない君達がこの魔物を倒したというのかい?ほうほう、それはそれは」


 男性は俺達のことをじっと見つめると、にっこりと笑みを浮かべた。


「分かった、この素材はこちらで買い取らせてもらおう。だけど、今まで見たこともない上に非常に上質な素材だから、もっと大きな街へ行けば更に高く売れるんだけど……本当にここで売っていいのかな?」


「今は持ち合わせがないからな。少しでも金が欲しいんだ」


「分かった、こちらもそれなりに出させてもらうよ。ああ、そうだ。買い取るまでに銅貨五枚でステータスカードを発行してくれるかな?あれがないと換金出来ないんだ、決まりでね」


「分かった、代金は買い取り金額の方から引いてもらってもいいか?」


「勿論だよ、じゃ、お金の用意するから」


 男はそういってその場から一度離れる。その間に俺とシエルはステータスカードを作成した。ステータスカードを作る際、シエルや俺の種族やスキルが露見すると面倒になると思ったので、シエルの魔法で相手には、平均的な冒険者の数値のカードに見えるように錯覚させた。


 カードを発行させ終わり、ステータスカードを受け取ると、丁度男性が戻ってきた。


「はい、これが買取金だよ。金貨百枚」


 渡された袋の中にはぎっしりと金貨がつまっており、結構な重量だ。普通、金貨が一枚あればしばらく遊んで暮らせる。それが分かっている冒険者たちは驚愕して口をパクパクさせながら俺達を凝視する。俺は金貨一枚を銀貨と銅貨に変えてもらい、礼を言ってシエルと酒場の方へ行く。


 酒場へ行くと、ごっつい筋肉ムキムキのスキンヘッドの色黒男が俺達に近づいてくる。異世界ファンタジーもの定番の展開に俺はワクワクした。


「おいガキ、その金と女を置いて今すぐ消えろ。消えねぇなら、痛い目に遭うぞ」


 男は三人で俺達の前に立ちはだかり、ニヤニヤと笑っている。汚い笑みで、シエルに舐め回すような視線を向けてくるのは、気分のいいものではない。他の冒険者達は騒がしく囃し立てる。


「おら、何ボケーッと突っ立ってんだよ!さっさと……」


 そう言って男が手を伸ばしてきたとき、俺はブルートでそいつの腕を思いっきり殴りつけた。


 ボキンッ!嫌な音が響き、男の腕がだらんと垂れ下がる。


「い、痛てぇぇぇぇっ!!う、腕がぁ!俺の腕がぁ!」


 男は自分の腕を抑えながら蹲り痛みに悶える。俺は蹲った男の頭を蹴り飛ばし、男は白目を剥きながら仰向けに倒れた。男の顔は、鼻が折れ曲がり鼻血をドクドクと流している。


 周りがシーンと静まり返り、呆気に取られていた男二人は、しばらくして我に返り俺達に怒りを向ける。


「このクソガキッ!」


 シエルを人質にでもしようとしたのだろう、男はシエルに向かって飛びかかった。


拒空壁きょくうへき


 シエルの前に展開された見えない壁に男が激突し弾かれる。シエルは弾かれた男の頭を掴み弾かれた反動を利用して、近くのテーブルに叩きつけた。


 木製のテーブルが壊れて木片を飛び散らせ、男はテーブルの残骸の上に倒れる。残った男は俺達が睨むと、情けない悲鳴を上げてギルドから出て行った。


 何事かと先程の眼鏡の男性が飛んでくる。俺達は状況を簡単に説明して金貨一枚を迷惑料として渡し、ギルドから出る。


 俺達は近くの宿屋へ入る。その宿では一人部屋と二人部屋があり、二人部屋の一番いい部屋をとった。部屋に入り、やっと寛ぐことが出来る、と俺は布団に腰掛ける。当然のように俺の膝にシエルが乗っかった。


「今日一日、とても疲れましたね」


「ああ、今日はさっさと飯食ってゆっくり休みたい気分だ」


「そうですね、明日から空の厳しい特訓が始まるわけですし、今日ぐらいはゆっくり休んで下さい」


「そういえばそんな話してたな……しばらくこの村で休んでから、ってのは駄目?」


「ダメです」


 シエルに笑顔で却下される。前々から思っていたけど、シエルって結構鬼畜なとこあるよな。


「ところで空、その、わざわざ二人部屋に泊まるということは、その、期待しちゃっていいってことですよね?」


 シエルが上目遣いで瞳を潤ませ、俺を見つめてくる。頬は赤く紅潮し、正直、こんなに可愛らしい女の子にこんなことを言われてしまうと理性が吹っ飛びそうになるのだが、俺はなんとか堪えた。


「期待も何も、何もしないぞ?」


「何でですか!?普通こんな可愛らしい美少女に迫られたら襲いたくなってしまうものじゃないんですか!?」


「そうだが、俺はそういうのはまだ早いと思うんだよ。ほら、旅も始まったばかりだし、そんな焦らなくても……」


「空のバカ!アホ!男の恥晒し!死んで下さい!空なんて私に手を出さなかったことを後悔しながら一人寂しく孤独死すればいいんです!」


「シエルさんなんでそんなに怒ってんすか……。あ、カルシウム足りてないんじゃないのか?牛乳でも飲んだらどうだ?身体も今より成長するかもしれないぞ」


「誰がチビですか!?ぶっ殺しますよ!?」


「まぁまぁ」


 俺がシエルの頭をポンポンと軽く叩く。シエルは別の意味で顔を赤くして俺のことを睨みつけ、俺の腕を掴んで無理矢理引き寄せ、俺を布団の上に押し倒した。その上からシエルが馬乗りになる。


「待て、落ち着けシエル!話せば分かる……って、力強っ!?」


 俺が何とか状態を起こそうとするが、上から覆いかぶさるようにシエルは俺の両腕を掴み拘束する。尋常ではない力で押さえつけられた俺は身動き一つ取れない。


 シエルは口元を三日月型に歪めて笑い、はぁはぁと荒い息を吐く。


 その後何があったのか、言うまでもないだろう。まさかシエルがあんなに肉食的な女の子だったとは。数百年間閉じ込められていた影響で欲求不満だったのかもしれない。


「ううっ、もうお婿に行けない……」


「大丈夫ですよ。空には私がいるじゃないですか」


 シエルが俺の膝の上で全体重を俺に預ける。本当は下の階に夕食を食べに行こうかと思っていたのだが、流石に疲れた。さっさと休みたい。


 そういえば、と俺は自分のステータスカードを取り出す。カードには自分の名前と職業、スキル、レベルが表示される。俺はシエルのステータスカードと見比べてみた。


 三神空


 レベル52


 半吸血鬼


 使用可能スキル


 爆発魔法


 自動再生(弱)


 解放


 空間転移




 シエル


 レベル??


 吸血鬼


 以下スキルの羅列


 ―――――


 比べ物にならないほどの圧倒的実力差。どうやってもシエルの実力に追いつける気がしなかった。シエルはドヤ顔で俺にカードを見せつける。


「ほら見て下さい空!これが私と空の実力差ですよ!」


「なんかお前さっきからキャラブレてないか、あれか初めて宿屋で泊まれたもんだからテンション上がってるのか」


 友達の家でお泊まり会やったり、旅行先のホテルに泊まるとワクワクする的なあれか。何にせよ、シエルがこんなに嬉しそうにしていると俺まで嬉しくなる。


 俺は大きく背伸びするとそのままベッドに横になる。そのまま眠くなり、段々とまぶたが閉じてくる。


 隣でシエルも俺の腕を抱きしめ、身体を密着させながら眠そうにしている。


 いつの間にか、俺たち二人は眠っていた。互いに体を寄せ合い、まるで互いの存在を確認するかのように。

作品を読んで下さりありがとうございます!毎日投稿は中々キツいですが頑張って行こうと思います!ご意見感想などお待ちしています!

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