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第三話 前半・眷属の能力

第3話になります、お楽しみください!感想などありましたら、是非是非!

 上から太陽の光が差す、明るい落とし穴。俺とシエルはそこで、非常に気持ちの悪い巨大百足の塊と向かい合っている。赤黒い光沢、うねうねと脈打つように動く球体、無数の頭と顎から生えた巨大なハサミ。ワシャワシャと動く尖った脚。


 俺はあまりの異常さに目をしかめつつ、シエルにアイコンタクトをとり駆け出した。狙うは球体の部分だ。俺の魔法を球体の隙間に上手く撃ち込み、内側から爆発させれば、それなりにダメージを与えることが出来るのでは、という狙いが俺にはあった。また、失敗してもシエルのチート性能でどうにでもカバーすることが出来る。


 当然、俺を球体部分に寄せつけまいと、無数の巨大な頭が俺に向かって突っ込んでくる。奴のハサミで挟まれでもしたら、流石の眷属たる俺でもひとたまりもないはずだ。だが、俺は構わず突っ込んだ。


拒空壁きょくうへき


 シエルの魔法がサポートし巨大百足の突進の尽くを防ぐ。頭は弾かれ、後方へ反り返り、一瞬の隙が出来る。俺はその瞬間を逃さず、球体まで一気に接近した。


 まずは一発お見舞しようと球体を殴りつける。瞬間、球体の真ん中が裂け、中から姿を現したのは龍の頭。巨大な顎門が俺の眼前に迫る。


「っ!!」


 俺は身体を咄嗟に引いて顎門から逃れる。だが、腕を引く前に顎門が閉じられ俺の片腕が喰いちぎられた。俺の腕は肘から先を失い、鮮血を撒き散らす。俺は失くなった片腕に視線を移し、目を見開く。


「あ……ああ……」


 断面から骨が剥き出しになり、血液がドクドクと溢れてくる。俺は激痛と喰いちぎられたことへの恐怖から正常な判断が出来なくなり、痛みで顔を歪め恐怖心で腰を抜かしてへたり込んでしまった。


 痛い、怖い、千切れた腕が熱くなってくるのを感じる。俺は再び龍の顎門が開かれ、次こそ俺を絶命させようと近づいてくるのを、何も出来ずにただ見ていることしか出来なかった。


 龍のでかく鋭く尖った牙が、俺の眼前まで迫ってくる。生臭い息が近づき死が確実に迫っているのを実感した。


天雷爪てんらいそう!」


 腰を抜かした俺の頭上を電撃が一閃。電撃は龍に直撃し、バチバチとスパークして弾ける。龍は感電しビリビリと頭を痺れさせながら後方に引っ込む。更に上から一閃、ドッガァァァン!!空から爆弾が降ってきたかのような爆音が響き渡り、巨大百足の塊は身体を感電させる。


「キシャアアアア!!」


 巨大百足と同じ声を発する龍と巨大百足は、苦しそうに叫び地面に頭を落とし、ズンっと重い音が鳴り地面から土煙が舞う。


 俺が言葉も出せずに目を白黒させていると、首根っこを掴まれグイッと後ろに引っ張られた。尋常ではない力で引っ張られ俺の身体は宙を舞って後ろに吹っ飛び、地面に背中から落ちる。


「うっ!」


 俺は息を詰まらせ、苦しそうなうめき声を上げる。俺が上体を起こすと、シエルが俺の胸ぐらを掴みグッと持ち上げ、赤い双眸を釣り上げて俺を睨みつけた。


「何やっているんですか?……馬鹿なんですか!? 死にたいんですか!?」


「……ご、ごめん……」


 シエルはしばらく俺を睨みつけていたが、はぁ、とため息をつき手を離す。


「まともに戦闘もしたことの無い人が戦いに巻き込まれて、痛みや恐怖心でまともな判断が出来なくなり、結果命を落としてしまうことはよくあります。ですが、あなたがそれでは駄目なんです。空は私の眷属なんですから、もっと自信を持ってください」


 シエルは空の両肩に手を置き、笑いかける。俺はそんなシエルの顔を見て、心臓の鼓動が激しくなるのを感じた。俺は口元を釣り上げて笑い、もうシエルに迷惑を掛けたくないと強く願い立ち上がる。


 気がつくと俺の片腕は元通りに戻っており、自由に動かせる。俺は驚いて再び目を見開き、シエルへ顔を向けた。


「……ああ、言ってませんでしたっけ? 吸血鬼は身体の部位が欠損しても、一定時間経てば元通りに治るんですよ。空は眷属なので回復が少し遅いですけど」


「……そういうのはもっと早く言えよ……」


 俺がジト目でシエルを睨む。シエルは目を逸らしそっぽを向いて知らん顔。こいつ……いつか絶対酷い目に遭わせてやる。


「キシャアアアアアア!!」


 金切り声が辺りに反響し、龍が頭を上げこちらを睨みつける。


「まだやられてなかったんですね。てっきり仕留めたとばかり思っていました」


「もう一度、さっきみたいに突っ込むか? 今度は真ん中の頭にも気をつけて」


「んー、あ、そうです。空、私にいい案があります」


 シエルはそう言うと、自分の腕を掴み、ギュッと力を込めた。ミシミシという嫌な音が鳴り、ボキンッ、ブチッグチュッ、と聞いているだけでゾッと寒気がするような音が耳に入る。


 俺は見ていられずに頭をシエルと反対の方向へ向け、耳を塞ぐ。トントン、とシエルに肩を叩かれゆっくりとそちらを向く。シエルの片腕は地面に落ちて血溜まりを作っており、シエルは鮮血を溢れさせる断面に手を当て、魔力を集中させる。淡い光が灯り魔力が集まっていき、大量の血液が空中を漂いシエルの眼前に集まった。


 シエルが集まった血液に手を触れさせると、それは急激に形を変え、一本の細長く赤い棒に姿を変えた。


 血のように真っ赤で光沢があり、所々に黒い斑点がある棒がシエルの手に収まった。シエルは棒の強度を確かめるように握り、何度かブンブンと振って、満足したのか一度頷いて俺に棒を渡す。その後、腕の断面に魔力が集まり、一瞬で腕を再生させた。


「その武器、名称はブルートです。魔力によって自在に形を変えられますので、好きに使ってください」


「……」


 俺はそれを手に取って思う。どうせ渡すなら、もっと早く渡して欲しかったなぁ……。


 まぁ、エモノが手に入ったのは大きい。俺はブルートを手に、敵に向かって走る。


 俺達のやり取りを静かに警戒しながら見ていた龍と巨大百足達は、俺が突っ込んで来るのを確認すると、巨大百足をの方が俺に向かって突進してきた。だが、先程と同様に巨大百足の頭が俺に届く前にシエルの拒空壁で弾かれる。


 俺は龍の顎門が開かれる前に跳躍し、ブルートに魔力を込め巨大な真紅の鎌を形作り龍の頭に叩きつける。


 ガキンッ!という金属音が響き、俺の大鎌が龍の頭に展開された魔法陣に防がれた。


「うっそだろ!?」


 こいつが魔法を使えることを知らなかった俺は驚愕し声を上げる。大鎌は弾かれ、俺は反動を利用してバク宙し着地した。


「空! 下がってください!」


 シエルの声が聞こえたと同時に、俺は後ろへ飛び退く。


天雷爪てんらいそう!」


 再び龍達の動きを一時的に停止させた電撃が龍の頭目掛けて飛んでいく。だが、その魔法も展開された魔法陣によって防がれる。上から降ってきて爆音を轟かせた雷撃も魔法陣が展開され、防がれてしまった。


「こいつ、さっきまで魔法なんか使わなかったのに、一体どういうことだ?」


「たまたま不意をついて当たっていただけだったんでしょう。何にしても厄介ですね、あれを何とかしなければ……」


 シエルが考え込んでいるときに、巨大百足がシエルへ向かって緑色の液体を噴射した。突然のことにシエルの魔法の発動が遅れてしまう。


 俺は咄嗟にシエルを庇い、背中に液体を浴びてしまう。液体は、物を溶かす作用でもあるのか俺の背中がジューッと溶けて爛れていく。


「ぐっ、痛ってぇ……!」


 俺は激痛に顔を歪める。シエルが心配そうに俺を見つめ、ハッとして左手を前に出す。


 間髪入れずに飛んでくる液体を、シエルの拒空壁が全て受け止める。が、次第に壁から煙が上がり、ジューッという音が聞こえ始め、シエルの魔法が溶かされていることに気づいた。


 俺は急いでシエルを抱き抱えると、横っ跳びに回避する。シエルの魔法は完全に破られ、直前まで俺達がいた地点に液体が掛かった。液体が付着した地面は溶けて抉れ煙を上げる。


 俺達はどうやって突破口を切り開こうか思考を巡らせる。


「おいシエル、俺にいい考えがある」


「?」


 空が考えた案は、ブルートを鉤縄に変化させ、地上に引っ掛けたらブルートを縮ませて一気に上がる。後は一方的に上から魔法をぶっぱなす、という単純なものだ。


「まぁ、それなら地上に出てそのまま逃走した方が賢明な気もするけどな」


「それは駄目です。こんなレベル上げにうってつけな相手はそういないんですから、倒しておかないと勿体無いです。出来れば素材の回収もしたいので、絶対に倒しますよ」


「さいですか。じゃあ、作戦通りにいくぞ」


 シエルが俺の身体に抱きつき、落ちないように俺が腕で固定する。ブルートを鉤縄の形に変化させ振り回し、勢いをつけて人外の腕力で地上に向かって飛ばす。鉤縄は見事に地上に出て地面に引っかかる。引っ張ってみて外れないことを確かめると、一気にブルートを縮小させた。ブルートが短くなり、俺達の身体は地上に引き上げられていく。


 巨大百足はそんな俺達を逃すまいと何体かが突進し、他が緑の液体を俺たち目掛け吐き出した。


 突進はシエルの魔法で弾き、液体は身体を揺らしながら上手く避ける。シエルが落ちてしまわないように注意しながら上手くブルートをしならせ液体をかわす。


 今気がついたのだが、どうやらブルートは液体が当たっても溶けないらしい。何発か液体がブルートに掛かってしまい、落下することを覚悟したのだが全く溶ける様子がないのだ。


 いや、正確には溶けたそばから再生しているのである。ブルートにはシエルの血液と魔力が使われている。そのお陰でブルートにも再生能力が付与されたのではないかと思われる。実質破壊不能の武器、おまけに自由自在に形を変化させられる。我ながら、とんでもない武器を貰ってしまったものだ。


 俺達は地上に脱出すると、すぐさま下に向けてシエルが魔法を放った。


炎獄えんごく!」


 膨大な魔力がシエルから溢れ出し、黒く禍々しいそれは丸く巨大に膨張し、赤く燃え盛る。それは、まるで太陽だ。近くにいるだけで蒸発してしまいそうなほどの熱をもつ太陽に酷似した魔法は、龍と巨大百足に向かってゆっくりと降下した。


 その時、シエルは下の方から膨大な魔力の奔流を察知し、嫌な予感を感じて穴の方を凝視する。


 シエルの予感は的中し、穴の中で魔力がいっそう強くなり、凝縮された。魔力量は測り知れず、シエルは急いで空の腕を掴むと、走って出来るだけ穴から遠ざかる。


 俺達が離れた直後、キーンという高い音が聞こえ、白く極太の光線が地中から発射された。光線は大きさを拡大させ、地面を飲み込みながら天高く上がり、雲を突き抜ける。光線はしばらくするとようやく威力を弱め、段々とか細くなりやがて消えた。


 光線が消え、巻き込まれた地面は抉れ、その威力の凄まじさを物語っている。


「なんなんだあいつ。色々とめちゃくちゃ過ぎるだろ」


「私もあんな規格外の化け物は初めて見ました……」


 今の魔法で魔力切れ起こして弱体化してくれていればいいのに。そうなってくれていればどれだけ嬉しかったことか。世の中上手くいかないのが現実である。


 バッサバッサと翼をはばたかせる音が地下から聞こえ、俺とシエルは二人揃って苦笑いしながらそこに目を向ける。


 大きな影が飛び出てきて地面に着地する。さっきまで巨大な百足の塊だったやつは、百足の頭は龍に変わり、脚と翼が生えている。真ん中には変わらず龍の頭が生えており、その様はまさに翼の生えた八岐大蛇。


「キシャアアアア!!!」


 八岐大蛇は俺たちに向かって甲高い咆哮を上げた。


「こいつ絶対進化してるだろ……」

「こいつ絶対進化してますよね……」


 俺とシエルは声を合わせて呟き、八岐大蛇と向き合う。

第3話ご覧いただきありがとうございます!これから更新が少し遅くなる恐れがございますが、更新はなるべく早くしますので、よろしくお願いします!

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