第二・五話番外編 クラスメイト・この世界
番外編となります、本作翌日に更新させて頂きますので、よろしくお願いします。どうぞお楽しみください!
王都ヘイナード。その名の通り、この国の首都であり、行き来する者は富豪や貴族、商人が多い。王都の周りは石造りの高い城壁(ウォール〇リアみたいな)で囲まれており、更に壁に防御魔法が付与されていて容易に突破できない造りになっている。
王都へ出入りできる門は東西南北と四箇所あり、常にそれなりの実力の騎士が二人ずつ配置され、立入検査も厳しく怪しいブツなんかは絶対に持ち込めず、更に立ち入れる者も制限されている。
王都に立ち入る際、商人ならば荷物と国の許可証を、冒険者ならステータスカードを提示すれば、城門を潜ることが出来る。商人でも冒険者でもないものは通行料を支払わなければならないのだが、その額が金貨十枚と中々支払える額ではない。貴族や富豪からすれば大した額ではないのでポンポンと支払えるのだが、一般人はそうはいかない。なので王都に一般人が出入りすることは殆どない。
この世界の通貨は銅貨、銀貨、金貨の三種類で銅貨十枚で銀貨、銀貨十枚で金貨、となっている。ちなみに金貨一枚あれば一般人はしばらくの間遊んで暮らすことができる。金貨一枚手に入れて調子に乗って遊びに費やし、一瞬で使い切って膝から崩れ落ちるやつもわりといるのだとか。
王都の最奥にそびえ立つグローリア城。王族が住まうこの場所は王都の中で最も警備が厳重に施されており、基本的に侵入は不可能だ。入口は正門一つで、その付近に二人の騎士が門番として配置される形になっている。門を抜けると側に騎士や兵士達の詰所があり、その奥に王城がある形になっている。
普通、一般の人間や素性の知れないものが侵入することの不可能なこの王城だが、その大広間に佐倉仁と真島透、風音凛、月楽弥生、そしてクラスメイト達はいた。
佐倉達の正面には玉座が用意されていて、そこに腰を下ろしている三十代後半ぐらいの、引き締まった身体をしている赤髪の男性が一人。その両隣りには剣士と魔法使い風の、見た目的に同い歳ぐらいな女の子が二人。仁達の後ろには大広間唯一の出口があり、その片側で壁に手を組みながら寄りかかる騎士風の男性が一人。
赤髪の男性は立ち上がり、若干シワの浮き出た顔で笑みを浮かべながら佐倉達を見つめる。
「ようこそ! 勇者諸君! 遠路はるばる異世界へ! 我はヘイナード王国国王、シュヴァリエ・ヘイナード! 我々はそなた達を歓迎する!」
状況が飲み込めずに一同が困惑している。いきなり真っ逆さまに落下して気を失い、気がついたら大広間で国王と向き合っているのだ。混乱しない方がおかしいだろう。佐倉は状況を整理するため、手を上げ国王に質問を求める。
「あの、少し質問してもよろしいでしょうか?」
「む? 何だ? 好きにするがよい 」
「ありがとうございます。私達、今何が起こっているのか理解が追いついていないので、可能ならご説明頂けると嬉しいのですが……」
「おー、そうであったか。いや、これは失礼。良かろう、今そなた達に起こっていることの全てを説明しよう」
「ありがとうございます」
国王は玉座に座り直すと腕を組み、佐倉達を見つめながら説明を始めた。要約すると次のようになる。
まず、このには多種多様な生物が存在している。虫や動物は勿論、人族、魔族、獣人族と様々だ。この大きくわけて三種族は、互いの領地を持ち、国を造り、互いに協力し、支えあって生きていくことを誓った。こうして昔から国同士のいさかいを起こさずに上手く生きてきていたのだが、最近、それらの国の頭を悩ませる事態が頻発している。
魔物の活発化だ。魔物とは魔力が何らかの原因で汚染されると生まれる存在で、魔族と同じように考えている者がたまにいるが、身体の作りから全く異なる存在らしい。
そんな魔物の動きが最近活発になり、三種族の領土で度々問題を起こしているようだ。これは以前にも起きた出来事で、魔神と呼ばれる存在の出現が原因と判明していた。
今を生きる者達に魔神のことを知るものは一人もおらず、詳しいことは分からない。だが、以前の魔神出現のときは異世界から勇者と呼ばれる者を召喚し、見事魔神を討ち滅ぼした、と言い伝えられていた。
今回も魔神がその原因だというのなら、以前のように勇者を連れてくればいい。人族、魔族、獣人族の中でその魔法を使用できるのが人族だけだったので、現ヘイナード王国が誇る腕利きの魔法使いが召喚魔法を使い、佐倉達を召喚したようだ。
「という経緯で、そなた達は勇者とその仲間として召喚されたのだ。ちなみに、召喚魔法を使ったのは私の隣にいるティアラだ。まだまだ子どもだと言うのに、中々大したものだろう」
佐倉達がティアラという女の子へ顔を向けると、ティアラは佐倉達を一瞥し、軽く会釈した。
「これで質問は終わりか? なら次へ行かせてもらうが」
「もう一つだけ質問させて下さい。私達は、帰ることができますか?」
佐倉の質問に国王は怪訝な表情で佐倉を見る。互いの視線がピッタリと会い佐倉は緊張するが、それを表に出さないように堪えた。
「ふむ? そなた達は元いた世界に帰りたいのか?」
「私達にもそれぞれの生活がありますので、出来ることなら帰りたいです」
「ふむ、ティアラ。それは可能なのか?」
ティアラは王様の問いかけに少し考えるような仕草を見せた後答えた。
「私達の手では不可能でございます陛下。と言うのも、あの召喚魔法は、こちらの本に記されている呪文を詠唱することで発動させたのですが」
ティアラは自分の後ろに置いてあった人の身長の半分はある分厚い本を佐倉たちに見せる。
「この本の文字が、一度詠唱を完了させた途端に文字化けしてしまい、読めなくなってしまいました。次に読めるようになるのがいつになるのか、私には見当もつきません。そもそも、この呪文をもう一度詠唱したらこの方達を元の世界に戻すことが出来るなんていう保証も持てません。ですので、私には不可能です」
「そんな……」
「私、帰れなくなるなんてイヤだよ……」
「ティアラさん、何とかならねーのかよ!?」
遂に黙っていられなくなったのか、真島が語気を強めてティアラに問う。
「はぁ、誰もまだ絶対無理とは言っていないでしょ? 話くらい最後まで聞いて」
ティアラは国王の時とは全く違う態度と口調で面倒臭そうに答える。心なしか、佐倉達を見下しているようにすら見えた。
「いい? 私達には確かに無理。こんな文字化けしている訳のわかんない文字なんて読めないし、そもそもこの量の呪文をもう一度唱えるなんてイヤ。だけど、もしかしたら、あくまで可能性の話だけど」
ティアラは、一拍置くと言葉を発する。
「魔神を倒せば、可能性はあるかもしれない」
何を根拠に、と佐倉が口を開こうとしたとき、今までずっとことの成り行きを見守っていた剣士風の女の子が口を開く。
「根拠はある。以前魔神が討伐されたとき、勇者達は光に包まれ姿を消した、と書物には記述されていた。つまりそれが勇者達が元の世界に戻ったことを指すのなら、後は分かるだろう」
それからしばらくは、誰も口を開かない。佐倉達はそれぞれ思考を巡らせる。シーンと静まり返った大広間の静寂を最初に破ったのは、黒髪ポニーテールの風音だ。
「つまり、私達に残された道は、魔神を討伐すること以外にないということですか?」
「ふむ、話を聞く限りだとそのようだな。我自身、それ以外に方法が思いつかん」
いきなり魔神を討伐してくれ、なんて言われても、納得出来る者はそう多くない。今まで沈黙していたクラスメイト達から少しずつ不安の声が上がる。
「みんな、少しいいか?」
佐倉が一歩前に出て、クラスメイト達と向き合う。佐倉はクラスメイト全員と顔を合わせ、真剣な面持ちになった。
「みんなが不安に思う気持ちはよくわかる。俺も内心不安で押し潰されそうだ。だけど、行動しなければ何も始まらない、そうだろ? 俺達の目的はみんな同じだ、なら同じ目的に向かって協力し合おう! そして、誰一人欠けることなく全員で元の世界に帰るんだ!」
佐倉の力説に沈んだ表情のクラスメイト達は、少しずつ表情を明るくしていき、最終的には全員がやる気に満ちた笑顔を見せ、佐倉の言葉に賛同する。
場の空気が一変し、国王は満足そうに頷くと声を張り上げた。
「皆の者! どうやら覚悟は出来たようだな! けっこう! ではこれより、そなた等にステータスカードを授けよう!」
ティアラが一人一人にステータスカードを渡してまわる。ステータスカードを手にすると、炙り出しのようにカードから文字が浮き出てくる。そのカードを眺め佐倉は自分のカードに勇者、という文字を目にした。佐倉は目を見開き、周りを見回す。他に勇者と表記されている人がいないか探そうとしたが見つからなかった。
「カードに勇者と記されている者、前へ出よ」
佐倉は言われた通りに進み出る。後ろから当然という風に納得の声が上がる。
「おめでとう! 勇者よ、そなたが皆を率い、いつか魔神を討伐してくれることを心から願っておるぞ! これは餞別だ、上手く使うがよい」
国王は自らの腰に携えた剣を、佐倉に渡す。その剣はシンプルだが確かな魔力を発していた。柄が黒く、刀身が金色に輝き、文字が掘られている。
佐倉はその剣をクラスメイト達の前で掲げ、キリッとした顔で、全員を見回す。みんなもまた、覚悟を決めた顔で佐倉に顔を向けた。
ヘイナード王国に勇者が誕生した瞬間である。国王はティアラに他の兵士達を呼んでくるように声を掛けると、ティアラは頷き静かに大広間を出ていく。これから、勇者誕生の歓迎会が開かれるのだろう。
ちなみに、佐倉達が空がいないことに気づくのはもう少し先のことだった。
本作品をご覧くださりありがとうございます!今回番外編で物足りないという方は是非翌日の本編もご覧下さい!