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第二話 初戦闘・空の魔法

第2話になります。投稿頻度を早めるために1話より短くなっております。ご意見ご感想、待っています!

 国によって危険地区に指定されているトィレラ地区。駆け出し冒険者ならまず近づかないこの危険地帯を、白髪紅眼の少女をお姫様抱っこしながら全力疾走する少年。少年は死に物狂いで平原を駆け抜ける。人外の脚力で走り、少年は追い掛けてくる者達とどんどん距離を離していく。


「何で、こういう展開になるんだよっ!? シエル!」


「私に言われたって知らないですよ。私はただ、塔を吹き飛ばしただけですし」


「じゃあ、どうして俺達が今兵士共に追われているのか俺が簡単に説明してやろう。お前がアホみたいな火力で塔を跡形もなく消し飛ばしたからじゃねーか!!」


 俺達の後ろを追い掛けてくるのは二十人程の兵士。おおかたシエルが魔法を放ったときに偶然近くを通り掛かったのだろう。凄まじい魔力を感じ取り現場へ急行してみれば、ルルヤニの塔が影も形もなくなっていた。何事かと思った矢先に近くにいた俺達を発見して引っ捕らえようとした。俺達は兵士が追い掛けてきたので一目散に逃げ出した、経緯はこんな感じだ。


「貴様らー! 止まれ! 止まれというのが聞こえんのか!止まらんというのなら、魔法を行使して力づくで止めに掛かるぞ!」


 兵士を率いる団長と思われる、無精髭を蓄えたダンディなおじさんが怒号を上げ、眉間に青筋を浮かべながら鬼の形相で追い掛けてくる。


「おいっ! 流石に魔法を使われたら俺でもキツいぞ!?シエルさん!? 頼むから本当に何とかしてくれって!」


 俺の苦労などまるで他人事のように俺の腕の中でリラックスしているシエルに、俺は必死に懇願する。シエルは面倒臭そうに俺の方へ顔を上げた。


「……じゃあ、貸一つですよ?」


 シエルは上体を起こさずに左腕だけを上げ、手を兵士達の方へ向ける。


水撃すいげき


 手の前に魔法陣が展開され、魔方陣から圧縮された水のレーザーが発射される。それなりの太さの水が二十人の兵士達目掛けて一直線に飛び、まず先頭を走っていたダンディなおじさんにドパンッ!と大きな音を立てて激突し、勢いそのままに後ろの兵士達を巻き込んでいく。兵士達は為す術もなく後方に吹き飛び数百メートル離れたところでドサドサッ!と音を立てて地面に叩きつけられた。


「ふっ、人がゴミのようです」


 シエルは上体を起こしジョ〇ョっぽい厨二病チックなポーズをとり俺に向かってドヤ顔する。


「何処でそのネタ覚えたんだよ……」


 っていうか、こいつって絶対に厨二病患者の気があるよな。服のセンスからもそれらしいものを感じるし。そのうち片腕を抑えながら「くっ、鎮まれ! 我が右腕よ!」とかやりそうで不安になる。


 俺達は兵士達が起き上がってこないうちに一気に距離を稼ぐ。こんな危険地帯でわざわざ深追いする程、奴等も馬鹿ではない筈だ。視界から消えてさえいれば諦めてくれるだろう。


 あれからしばらく走り続け、俺はとあることに気が付いた。


「なぁシエル。ここは強力な魔物がうようよいる危険地帯なんだよな? その割にはさっきから魔物を一匹も見掛けないんだが」


 ルルイエの塔跡地から兵士達に追われ逃げること数時間。その間に俺は動物を一匹も目撃していないのである。危険地区に指定されている場所にしては穏やか過ぎて逆に不気味だ。


 だが、シエルは俺の不安などどこ吹く風で、辺りの景色を目をキラキラと輝かせながら見回している。数百年間閉じ込められていたので外の景色に興味津々なのだろう。狭い空間から解放され、広大な世界を旅出来ることがどれ程嬉しいことか。俺にもその気持ちは何となく理解出来る。


「たまにはそういうこともあるんでしょう。運が悪かっただけですよ」


 そう返すシエルは笑っている。その表情を見て、俺はシエルが何か隠しているような気がしてならなかった。この状況の原因を自分は知っているが敢えて俺に教えていない、という風に思えて仕方がない。


「……来ましたね。空、ここ危ないですよ」


「え? うわっ!?」


 突然地面がせり上がり、俺は咄嗟に一歩前へ飛び出す。すると直前まで俺が立っていた場所から巨大な影が飛び出した。影はズルズルと音を立てながら天高く伸び、俺はそいつを見上げて言葉を失った。


 地面から飛び出してきたのは巨大な百足。身体は赤黒く光沢のある甲殻で覆われており顎から巨大なハサミが生えている。体長は地上に出ている身体だけで10メートルは超えており、尋常ではないでかさだ。百足は何本もある尖った脚をワシャワシャと動かしながらこちらをギロりと睨みつける。


「キシャアアアアア!!!」


 巨大百足は金切り声を上げると鎌首をもたげ、俺達に向かって勢いよく突っ込んで来る。急いで回避しようとしたが思った以上に百足の横幅がでかく、距離も近かった為回避が間に合わない。俺が避けきれないと悟ったとき、シエルが敵に左手をスっと向けた。


拒空壁きょくうへき


 巨大百足の巨大なハサミの生えた頭が、俺達にぶつかる寸でのところで見えない壁に激突する。ドオンッ!と音を響かせ巨大百足は動きを止められた。


「キシャアアアアア!」


 巨大百足は何とか壁を破ろうと何度も突進して頭を打ち付ける。シエルはゆっくり左人差し指で巨大百足を指差すと、ピンッと弾く動作をした。


 ドガンッ!!という音が響き突進して来た巨大百足が弾かれ、その巨体を大きく仰け反らせた。高層ビルのような大きさの巨大百足は仰け反らせた身体をグラグラと揺らしながらやがて後ろにひっくり返る。ズズウンッ!という衝撃が辺りに響き、地面が揺れ動いた。


 シエルは俺の腕から降りるとニコッと俺に向かって微笑みかける。


「じゃあ、後は頼みましたよ? 本当にピンチになったら助けてあげますから、安心して戦って下さいね?」


「……は?」


 俺が意味が理解出来ずアホみたいな声を上げると、シエルはスタスタと歩いて行ってしまう。


「いやいやいや、ちょまっ!?」


 俺がこんな奴に敵う訳ないだろ!とシエルを追い掛けようとしたとき、ガンッと見えない壁にぶつかり行く手を阻まれる。焦った俺はガンガンと壁を叩きながら必死に叫んだ。


「シエルさん!? ちょっと!? 俺マジであんなデカイのと殺り合うの無理ですよ!?……なぁ、冗談だよな? そうだと言ってくれ!」


「これも修行のうちですよー、あんなのにも勝てないんじゃこの先の旅でも生き残れませんよ。大丈夫、空は私の眷属なんですから、絶対に勝てます」


 一体何を根拠にそんなことが言えるのか。後ろからズズズッと音が聞こえる、どうやら巨大百足が起き上がったようだ。俺は覚悟を決めて百足と対峙する。


「くっそ、やるしかないか……」


 巨大百足は俺を睨みつけると金切り声を上げ、俺に向かって突進してくる。俺巨大百足の頭を半ばやけくそ気味に殴りつけた。瞬間、ボオンッ!!と巨大百足の頭が爆発し、その巨体は頭を仰け反らせた。


「キシャアアア!」


 そこそこダメージがあったのか巨大百足は苦しそうな声を発し、頭からはプスプスと煙が上がり硬い甲殻にはヒビが入り、そこから青い液体がドクドクと滴り落ちる。


 俺は予期せず魔法が発動出来たことに驚き、心が高揚した。そして勝機を確信し巨大百足に向かって駆け出す。


 俺は百足が体勢を整え直す前に胴体に肉薄し、勢いを利用して殴りつけた。巨大百足の胴体が爆発し、甲殻にヒビが入り、そこを逆の手の拳でもう一度殴る。再び胴体が爆発し、甲殻が完全に破壊され飛び散った。


 巨大百足の胴体が剥き出しになり、肉が抉れ、青い液体がとめどなく溢れ出る様は、中々にグロテスクだ。俺はその抉れた胴体に右手を突っ込み魔力を集中させる。俺の手へと魔力がどんどん集まり収縮されていく。脳裏に過ぎるは一つの単語。


爆炎撃ばくえんげき!!」


 収縮された魔力が膨張し、空の詠唱により魔法が発動する。ボゴオオオンッ!!!という爆音が鳴り響き、巨大百足の胴体が爆発四散し、身体が二つに千切れる。千切れた身体は、一つは後ろへ仰け反り倒れ、もう一方は俺の後方に吹っ飛びシエルの拒空壁にべシャッとぶつかって落ちた。


 巨大百足はピクリとも動かなくなり機能を停止させる。虫は胴体が別れてもしばらくは動き続けるという話を聞いていたので、身構えていたのだが杞憂だったらしい。


「やった……よっしゃあああ、勝てたあああ……」


 俺は脱力しその場に腰を下ろす。しばらくはもうあんなのとは戦いたくない。俺が疲れ切った顔で天を仰ぐとシエルから声を掛けられた。


「よく頑張ったじゃないですか、偉いですよ空」


 はぁ、と溜め息を吐き、俺は立ち上がってシエルの方を向き歩き出す。シエルはニコニコ笑いながらこちらに向かって小さく手を振る。


「お前なぁ……」


 シエルに文句の言葉を掛けようとしたそのとき、突然地面がゴゴゴゴゴッと振動した。俺とシエルは完全に油断していて警戒が遅れる。刹那、シエルの立っている場所から後ろに掛けて数メートルの地面が崩れ落ちた。足場を無くしたシエルは重力に従い落下する。


「シエル!!」


 俺は瞬時にシエルへと手を伸ばし、シエルの方も俺へと手を伸ばす。ギリギリ届かない。俺はシエル目掛けて飛び込み、シエルの腕を掴むと引き寄せて抱き締め、身体を捻ってシエルを上にする。


 ドサッと俺は硬い地面に背中から落ちた。肺が圧迫され息が詰まる。上にいたシエルが慌てて俺の上から退き、心配そうに俺の顔を覗き込んだ。


「空! 大丈夫ですか!?」


「あ、ああ。何とかな。ところで、俺達どれくらい落ちたんだ?」


 上を見上げるとかなりの高さから落ちたことがよくわかる。これで死なないのは、きっと俺がシエルの眷属になっていることが大きいのだろう。多分、常人なら地面に叩きつけられて、潰れたトマトのようなスプラッタ状態になってしまうだろう。それを考えるとゾクリと背筋に悪寒が走った。


「この空洞は恐らく魔物の仕業です。すみません、私がもっと早く魔物の魔力に気が付いていれば落下せずに済んだのですが……」


「いいよ。今更そんなこと言ったってどうにもならないし。とにかく、まずはここから脱出しなきゃな」


 空が立ち上がり辺りを見回していると、先の方に更に深い丸い穴を見つけた。その穴が気になり空が近づこうとしたとき、シエルが何かの魔力を感じ取り叫んだ。


「そこに近づくのは駄目です!」


 俺はすぐさま足を止め、身構える。隣でシエルも警戒心を露わにして丸い穴の方を睨みつけた。


 キシャア、キシャア、キシャア。そこから聞こえるのは先程空が倒した巨大百足の鳴き声。それも一匹や二匹ではない。声が段々と近くなり、それは姿を現した。


 丸い塊。赤黒く光る丸い塊が穴から這い出てくる。よく見るとそれはウネウネと動き、尖った脚がワシャワシャと忙しなく動く。言うなればそれは、巨大百足達の塊だった。一匹一匹の巨大百足が絡まり合い、球体となっている。幾つもの鎌首をもたげてこちらを睨みつけるその姿は、異形そのもの。見ているだけでSAN値が削られてしまいそうだ。


 俺とシエルは気持ち悪さに目をしかめつつも巨大百足の塊と対峙し臨戦態勢をとる。

本作品をご覧頂きありがとうございます!今回初戦闘回になります。物足りなく感じてしまった方々にはとても申し訳なく思います。日々精進していくつもりでごいますのでよろしくお願いします!

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