戦闘試験と面接
『おらぁああああああ!!』
雄叫びを上げながら、5人の少年剣士たちが向かってきた。
歳は俺とさほど変わらない。
だがそれでも、潜り抜けてきた修羅場が違うこともあり、向かってくる5つの剣を難なく躱し、木刀で正面にいた青年の頭を叩く。この時点で不合格となり、記録係に書き留められる。
しっかし隙だらけだなあ。
全員どっかの道場で習っていた記録があったからちょっとは期待していたのに、動きがワンパターンすぎる。さて、どうしたものか。
俺はもう、あとは力が及ばないだろうと判断した者を、残りの四人のうちから判別して頭を叩けばいい話なのだが。
この次は、長い3日かけてやっと最後の組となる者達だった。と、そんなことを考えていると、4人のうち1人が「隙あり!」と言って飛び込んできた。
おっと、今は集中していないと、ただでさえ初心者などでは決してないのだから、油断はしちゃいけないな。
正面から振り降ろされた木刀を紙一重で躱し、更に俺に攻撃しようとしていた右隣の男の子の脇腹を打った。
連携プレイはまあまあできてる……かな。このメンバーでパーティでも組んだら強くなるのではないかな?
でもなあ。詰めが甘いな、とか声に出そうだ。出したい。けど出したくない。
結局その4人は、全員不合格となった。また出直してこいよ、とでも言ってやりたかった気分ではあったが、生憎と俺はそうやって少しでも目立ちやすくなることはしたくない。余計な噂とか流れたら厄介だし。
さて、次は最後だ。たしか、槍術だったかな。
15歳の少女と、19歳の青年、そして23歳の男の三人か。
しばらくして扉が開かれ、3人の若い男女が姿を見せた。そのうちの1人の少女は、見覚えのある顔……アサだ。
「さーてと、アサさん、クレットさん、ジーリオさんね」
空中に映し出された《空中投影》のデータを見て、彼らの名を呼ぶ。
みんな緊張していたが、俺は構わず《空中投影》を消し、正面から向き直る。
収納魔法でしまっていた槍を取り出して、石突を地面に突いた。
収納魔法は、魔力を持つ者が使うもので、亜空間に持ち物をしまう魔法である。基本は無限に物をしまえる。
食べ物などは中に入っていればずっと入っていても入れた当時の状態のまま保存できる。
例えば、生の肉をここに入れるとすれば、1ヶ月後に取り出したとしても腐らず、停止状態なので食べても何の問題もないということである。
さて、余談はここまでにして、さっさと始めて終わらせるとしようか。明日は1日休めるのだから早いとこ終わらせて寝たい。
「「「よろしくお願いします!!」」」
そう言って、彼らは同時に頭を下げる。
じゃあ始めましょうか、と言うと彼らは頭をあげ、はい! と声を揃えて言う。
まずは挨拶だ。
戦闘試験のような、先輩と直接顔を合わせて行う試験においてはこうしてきっちりと敬意を示さなくてはならない。
これは人間、いや、人類の中ではマナーや基本というものだ。
これがしっかりしていなければ、礼儀知らずな団員ができあがってしまう。
もちろんこれは面接でも同じことである。
さっそく俺が腰を落とし、槍を構える。そして同時に目の前の3人も腰を落とし、槍を構える。
うん、構えはいい。隙は作ってないようだし、しっかり目の前の俺にしっかり集中している。
試合開始の合図が出され、まずは彼らが一気に俺に向かって距離を縮めてきた。
3方向から向けられる突きを《集中防壁》でそれぞれ受け止める。防壁魔法は場所を集中させればさせるほど、頑丈さが増す。
込める魔力の量は同じなのだから、密度が上がれば精度も上がる、というわけだ。
……相手の攻撃の場所を正確に読み取らなくてはならないのが難点だが。
渾身の力を込めて打った突きを防がれ、彼らの顔には驚きと焦りの表情が浮かんでいた。その一瞬に隙ができ、それぞれの脇腹に石突を食らわせてやる。
彼らと距離を取り、詠唱を始める。
「小さき土の精霊そして風の精霊よ来たれ。砂塵の嵐を今ここに起こしたまえ、《砂嵐》」
訓練場の土が砂嵐となって、3人の新人を中心に竜巻が起こる。
すると中から、水属性の魔法陣が見えた。
「水の精霊よ、汝の力をここに! 水流、ウォーターフロウ!」
ほう、水属性の秀亀流詠唱の中級魔法だな。しかも精霊魔法ときた。
秀亀流詠唱とは、秀亀王国発祥の独特な魔法の一種である。別名漢字詠唱とも呼ばれ、世界で唯一の、一種類の魔法でさまざまな魔法効果が得られる魔法式である。
最初は秀亀王国の者しか使うことはできなかったが、そのうちにその魔法は世界中に広がり、滅多には使い手はいないがわりとたくさんの人が使っている。
地属性の苦手な属性は水属性だ。……まあ、今のは地と風の合成魔法だが。
おそらくそれを考えた上で放った魔法なのだろう。水流が起こり、たちまち砂嵐は消えた。
今水魔法を使ったのは、ジーリオだった。
水流で砂嵐を消すついで、俺に攻撃しようと思ったのだろう。
だが、不運だったようだ。生憎と俺には水属性の魔法は全く効かないからである。むしろ魔力を吸収して自分の糧にすることができる。
なぜだかは知らないが、比較的他の属性より少し強い水属性の防壁魔法を作ろうが俺はその魔力を吸収して相手にそのまま攻撃ができるし、どんなに強力な魔法を使おうとも俺にはいっさい効かない。むしろ酸素のように体に取り込んでしまうからな。
ジーリオは舌打ちをしながらも苦笑いを浮かべていた。……しかし楽しそうだ。戦うことにわくわくしている、誰かさんの顔によく似ていた。
「やっぱ、俺の魔法じゃあそう簡単にはいきませんね」
って言われても、誰の魔法でも水は効かないんだけど。まあ、面倒だから放っておこう。別に自分から他言するつもりはないし。
やるじゃないか、程度に受け取っておこう。
しかし、3人の様子を見て、俺は少し驚いた。
普通に目を開けて立っている。あれだけの竜巻を浴びても目の中に砂が入ることなく、そして飛ばされることもなかったのは、おそらく詠唱を聞いて、ジーリオがとっさに《物理障壁》を発動させたのだろう。
………やるじゃないか。
うわあ、ロウ以外と対戦してこんなふうに思ったの何年ぶりだろう。あくまで直感だが、この3人、鍛えれば俺と結構同等にやりあえるかもしれない。
そんな期待が、一瞬頭をよぎった。
「………こいつら、是非合格させてみたいね……」
無意識のうちに不敵な笑み――本当に小さな笑み――を浮かべた俺は、誰にも聞こえないような小声でそう呟いた。
まあ今は今で、せいぜい楽しませてくれよな!
と心の中で呟き、俺は槍を構えて飛び出していった。
「《身体強化》、《加速》」
身体強化に加えて、更に体を軽量化させて加速する。
一気に彼らの後ろに回り込み、槍を横にして両手で持った。
「《風起こし》」
いきなり後ろから強風に煽られた3人は、一気に数メートル飛ばされた。
試合終了の合図が鳴り、会場に歓声が上がった。と、その時俺は自分の失敗に気づいた。
…………やっべ、新人相手にちょっと期待しただけで、一瞬本気が出てしまった。……要するに調子に乗りました。
あとで団長には、彼らは合格だと言っておくか。今までにも何回も同じことがあったって団長には聞いてたし、大丈夫か。
吹っ飛んだ3人に歩み寄って、《状態異常回復》で体力を回復してやった。
ちょっと本気を出してしまったことを打ち明けて謝ったが、3人とも許してくれた。むしろ恐縮しながら回復してくれたことと本気を出してくれたことに感謝すらしていた。
だが、この後の筆記試験の結果にもよるので、君たちは合格だ、とは言わず、変な期待は持たせないことにした。
その後は審判にちゃんと事情を話し、俺が見たところでは合格だと伝えておいた。もちろん団長にもだ。
その後は会場から出てきたカルナやアサと合流し、俺はさっそく魔力湯に浸かった。
体力的には回復するもの、やはり精神的疲労が残るなあ。
《状態異常回復》でなんとかならないものか、本当に。
毒や麻痺、病には効く便利なこの魔法はしかし万能ではなく、風邪や感染系の病などにはいっさい効かない。精神的疲労もこの部類に入る。
まあなんというか、そもそも魔術師である俺にはもともと回復魔法がほとんど効かないのだが。
ただ魔力湯のような天然の魔力なんかは例外で、こうして浸かることで体力が回復するし、毒や麻痺は普通の状態異常回復魔法でも回復できると言えばできる。傷を負っても、それがほとんど回復できないだけなのであって。
その理由は、魔術師の持つ血が関係しているそうだ。よくはわからないが。
魔術師は、普通の魔法師と違って18属性すべて使うことができるが、魔法師が使える属性は10属性しかない。
魔法師と魔術師の違いは、魔術師の方が強力で、魔法師よりも多い属性を操れることだ。
魔術師というのは、生まれた時から持っている魔力の数値が50万魔力以上の子供のことであって、それ未満は魔法師にしかなれない。しかも魔法師は、10属性のうち使える属性は一部で、全属性を操れる魔法師は滅多にいない。
逆に、魔術師は18属性全てを操れる者がほとんどであり、一部扱えない属性がある者はむしろ珍しい。
ちなみに、魔術師の使える属性は18属性だが、俺の場合は19属性使える。
どういうことかと言うと、結属性の魔法だ。この属性を使えるのはほんの一部の魔術師だけなので、特別な属性として扱われているのは確かである。
存在していることはみんな知っている。みんな難しいからとか魔力の消費が激しいから使わないのではなく、使えないのだった。
本来魔術師の使う属性は水、光、影、森、風、炎、雷、念、精、闇、命、霊、地、竜、氷、物、波、虹の18属性である。しかしこの中で結属性と同じもの、または似たものはない。
つまりはオリジナル、と言っても過言ではないかもしれない。
あまり人前で使うと目立つので、ロウ以外の人がいる前では使うことはなかった。《探索》とか使っていてもバレないようなものなら普通に使ってはいたが。
あ、そういえば貴族や頭のいい魔法学者なんかは結属性を使っている人はいるって話だったけれど、あれ嘘だったんだってな。
まったく世の偉い人? は、なんでこう、目立ちたがるんだか。
嘘の情報を信じてた俺も馬鹿だったかな。まあ、使用者が主にお偉い人だとわかっていたからこそ、人前では堂々と使っていなかったのだから助かったが。一般人が使ってるところを見られて、変に警戒されても困りものだったし。
適正であるかそうでないか、人にもまた個性というものがあるのだろう。魔法師が使える属性と使えない属性があるように、魔術師にだって使えない魔法があるということだ。
俺にだってできないことはもちろんあるし、才を持つ子は天才、完璧って言われてるけれど実はそうではないということを、俺たちは知っている。
……そろそろのぼせそうなので湯船からあがり、寝間着を着て部屋に向かった。
もう夕食なんてどうでもよくなって、そのまま寝台に転がると、睡魔が襲ってきた。それに抵抗することなく俺は深めの眠りについた。
「うわぁぁ――――………」
「シノン? 大丈夫?」
団長に心配されたが、まだ2日前までの疲れが残っている。
これから最終試験の面接が始まるというのに、眠くて仕方がない。
俺が戦闘試験で精神的疲労が多かった理由は、2つあった。
1つは、極度の人見知りで初対面の少年少女たまに中年男相手に3日間、それも1日中かなりの人数と対面して、それがストレスに変わったこと。もう1つは、獣人と向かい合わなければならなかったストレス。どちらもストレスによる精神的ダメージである。
まあ、3日目の一番最後のあの3人は、一番最高だったけどなあ。絶対強くなるよ、あの3人。それだけは断言できる。
で、1日中寝込んだ俺だったが、また3日間も連続で面接官として面識のない新人に対面しなければならない。
しかも相手の嘘を見抜く魔法道具は故障、修理に出したが1カ月は直らない。結局俺が、一人一人特殊能力で嘘を見抜いたり本質を見抜いたりしていた。
そりゃまあ嘘をつくやつは多いもん。不快感が止まらんな。
…………いじめか……。
そんな情けないことを心の中で呟く俺だった。
やっと最終日の面接が終わった頃、俺は高熱で倒れた。……らしい。
倒れるまでの経緯は覚えてはいないが、朦朧とした意識の中でどこかに運ばれたのは覚えていて、気がついたら自室で寝ていたのである。
ギルド職員の医術師によれば、精神的疲労、ストレス過剰(長時間の不快感、初対面の相手をさせられた人見知り特有のストレスなど)、特殊能力による急激な魔力消費が主な原因らしい。
というのを、まるで他人事のように聞いていた。
だるい……動きたくない……食欲ない……何もやる気起きない……何でだろう、頭の中でズ―――ンとか、ジ―――ンって音が聞こえるような。耳鳴りもする。うるさい…………。
その後、俺はまるまる2日も高熱で寝込んだ。
カルナは1日俺に付き添ってくれ、看病してくれていた。
団長はというと、俺の部屋に来てはしきりに謝っていた。無理をさせてしまったとか、辛い思いをさせたとか。
俺は団長のことだから一向に構わないのだが、団長は本当に自分の失敗は素直に認めて、しっかりその点を直すように努める性格だ。まあ、そんな団長だからこそ、俺も信頼できるし、忠実に従うことができる。
しかし、まーた妙なことになりそうだ……いろんな意味で。
熱が下がった朝は、精神的疲労もストレスもすっかりどこかへ失せた。
やっぱ人って寝ると回復するんだな。
そう思いながら朝日を浴びる俺だった。
「おいガキ、こんな所で何してんだよ」
振り返ると、見覚えのない若い男がいた。後ろにも取り巻きが……あ、随分前のスキンヘッドか。興味がないもんで忘れていたが。
今は髪の色をそのままにしているので、数週間前に蹴散らされた奴とは思わなかったんだろう。獣の耳も外套の頭巾を被って隠しているし、尻尾も外套で隠れて見えないし。まあ目の色くらいは変えてるけど。青目自体が珍しいんだし。レイヴァだし。
あれから何日も経っているし、他のギルドにでも入ったのだろうか。左腕にはしっかり紫の紋章がついている。
この模様は……ラトス皇国のギルドだ。随分と遠くのギルドに行ったんだな。まあ、レラン王国は団員の態度を徹底してるからな。他のギルドに入ろうとしても、この国の国内だとダメなんだな、やっぱり。
それにしても………相変わらず気に食わない顔だな。
殺人未遂で捕まったとはいえ、釈放されたのか。面倒なヤツらめ。
「お前、見たとこまだ駆け出しだろう? 普通のガキがこんな所にいるわけねえもんなあ」
「俺たちが戦い方を教えてやるよ……授業料はお前の所持金全部な」
後ろの取り巻きが拳をポキポキ鳴らしながらニヤニヤしている。そういうよくあるパターンの奴らは弱いんだってわからないのか。って言うか本当になんなんだこいつら、ガキに絡むのが好きなのか。
「あ、それともガキにしか絡めないほどの実力しかないのか」
「っ!? てめえっ、バカにしてるのか!」
わざとらしく、挑発目的で呟いてやると、男はこめかみに青筋を浮かび上がらせる。まあ、そうなるよな。左腕の紋章は、正体がバレないように外してるから。
周りからはクスクスと笑う声や、あんな子供相手に……という声も聞こえる。てか、そう思うなら助けろっての。まあいいけど。むしろ来んな。でもなあ、あんまり目立ちたくないから防御程度にしとくか。
おそらくクスクスと笑っているのは、レイヴァのことを知っている者だろう。つまり白髪を持つ俺達のような人のことだ。
レイヴァは戦闘能力が高い。戦闘民族の血筋とも言われているが、生まれてくる家系などはばらばらで、どこにでも生まれる可能性はあるのだそう。
実際、まったく血縁関係のなかったカルナだって俺と同じレイヴァだし。
まあそれはさておき、どうしたもんか。これだけで充分に目立ってるんだけれども。
と考える間もなく男が殴りかかってきた。
おっと、危ない危ない。なんて思わない。俺はその拳を受け止めるでもなく、とりあえず躱した。もちろん素人っぽく。無闇に受け止めたりして更に目立ったら少なくともここの団員には俺の正体がシノンだとバレる。
今回元の姿でここにいたのは、団長に頼まれたある調査のために外出する準備をするためであって、決して喧嘩をするためではない。
《摩擦消去》という摩擦を消す魔法を床に施し、相手を転ばす。すると、男はそのまま床に這いつくばりながら壁まで吹っ飛んでいった。摩擦がないのでスピードが緩まない。壁にぶつかると、摩擦の効果がなくなって止まった。
あーあ、壁が凹んじゃった。あとで謝らないとなー。
まあ、俺が魔法を使ったとは誰も気づいてないみたいだ。なぜなら、周りには男が勝手に転んで壁まで吹っ飛んでいったように見えたらしいので、だっさ、とか、意外と間抜け? なんて言う声が聞こえてきたからだ。
「……な、なんだ?」
「兄貴ぃ!」
「大丈夫ですかい!?」
男は顔面からぶつかっていったにも関わらず、むくっと起き上がって何が起こったのかを確かめようとしていた。
周りは笑っているが、俺からすれば笑えない話だ。なんて固い顔面なんだよ……。
そういえばこないだ腹を蹴ったけど、手加減したとはいえ結構な威力だったはずなのに平気そうだったしな。防御力だけはいいみたいだ。
「くそ、舐めやがって。この野郎っ!」
また殴りかかってきたが、今度は目の前に青年が現れ、男の拳を受け止めた。
鈍く光る鉄鎧の装備と、両肩と両腕には篭手を装備している。この鎧の古さと身軽さ、そして筋肉男の拳を受け止めた腕からして、おそらくは結構経験を積んでいるものと思われる。身長は俺より少し上か。歳は16から17といったところかな。まあ、いろんな意味で助かったな。
気配がして左側を向くと、帽子をかぶった黒髪の男の子が立っていた。12、3歳ってとこか? 頭巾付きの長いマントを着ている。
「……なんだてめえは!? 痛え目に遭いてえのか!」
「うるさい。喧嘩売ったのはそっちだろ。それにこいつは、お前達には何もしてない。お前達が勝手にキレて、勝手に暴れだしたんだろうが」
正論。反対できないな。まあ、こいつらの場合、逆ギレするのが好きなようで、前回の騒ぎでも重軽傷者を出している。
逮捕履歴があるくせに、よくギルドに入団できたものだとある意味感心するな。
「っ……っるせえなっ! それともお前、正義の味方にでもなりてえのか!? カッコつけやがって!」
再び青年に向けられて拳が突きつけられるが、青年はそれを左手で難なく受け止めて、男の腹を思い切り殴った。
男は呻き、そのまま倒れた。
うわあ、気絶したよ。俺は手加減はしたけど、それでもピンピンしてたしな。それなりの威力はあったのに……。
「あ、兄貴ぃ!?」
「兄貴が、やられただと!?」
「すみません、あそこだと邪魔だと思うので、回収をお願いします」
カウンターにいる受付嬢に話しかけると、すぐさま行動してくれた。すると見回りの団員が男ら3人を外につまみ出していった。
青年のところに戻ると、俺は青年に頭を下げる。
「どうも、助かりました」
「いや、構わんさ。それより怪我はないか?」
そう聞かれ、俺はこくっとうなずく。
「それにしても、君ならあんな奴ら、倒せたんじゃ?」
「目立ちたくなかっただけです。あのままでも十分目立ってましたけど」
「あはは……そうだな。まあ、怪我がなくて良かったよ。じゃあ、俺は約束があるのでこれで」
青年は黒髪の男の子と共に奥の廊下へと消えていった。
約束、ね。ああ、そういえば俺もあとで団長室に行かなきゃいけなかった。なんでも、人に会わせたいんだとか。
まあいいか。とりあえずは、しばらくロビーにいるつもりだ。仕事のこともあるし。
………そういえば思ったけど、あの男の子、妙に甘い匂いがしたな。香水か? まあいいか。どうでもいいし。
青年の方は、サニーズの団員じゃないな。紋章は緑で、D級と言ったとこか。確かにそれなりに腕は立つな。紋様の方はよく見てなかったからどこのギルドの団員かはわからなかったが。
「よっ」
後ろから聞こえてきたその声と同時に、肩に軽く手を載せられて振り返ると、副団長のニスがそこに立っていた。
肩の辺りで切り揃えられた茶色い長髪に赤い目を持つ若い青年で、歳は団長と同じ20歳である。
「仕事はどうだい」
「まあまあだな。今のところ、結構収穫がある」
「そうか。……空の使いの方は?」
「そっちもまあまあ。まだ情報量が少ないから報告とまではいかないにしても、結構分かってきてることはある。ただ、色んなことがうまく繋がらないのだけれど」
「わかった。まあ、頑張ってくれよ」
「ああ、ありがとう」
そう言って副団長は軽く手を振って、奥へと向かっていった。
さて、情報集めといきますか。
2018年7月24日、修正しました。