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水の聖者~記憶の果て~  作者: 森川 悠梨
第10章、力を求めた貴族
118/138

118、黒いモヤと襲撃

「カルナ! 後ろだ!」

「え!?」


 カルナも咄嗟に振り返って、目の前にあった黒い何かを右手の紅刃で弾く。


『クルルルル……』


 唸るような声が聞こえ、その黒い何かは消えていった。

 カルナにも気配を感じさせない黒いモノは、おそらくシノンを一撃で気絶させたモノだろう。


 黒い何かを弾いた勢いを使って体を反転させ、メタルスケルトンの何匹かの核を砕く。

 すると今度はカルナの腹の目の前に黒いモヤが現れ、彼女の鳩尾を狙ってくるのだった。


「火炎!」


 叫び、紅刃の特性の一つである防御を発動。さすがに神器によって作られた炎の守りは突破できないのか、黒い何かはそれに弾かれ消えていった。


 カルナにしても、シノンがその黒いモヤにやられているのを見ているためになんとか対応ができている。しかし余裕が一切なかった。

 シノンの方は地面にうつ伏せで倒れたままで、今もなんとか動いている白刃と黒刃によってメタルスケルトンから護られている。

 それを横目で確認すると、カルナは後方に下がり、アルファへと声をかけた。


「アルファ! 光魔法で1度薙ぎ払う!」

「ああ、わかった! けど、シノンは!?」

「そっちは白刃と黒刃に任せればいい! ギリギリのラインでこの方向に打つ!」

「了解だ!」


 アルファはカルナを護衛すべく後方に下がり、彼女の脇につく。

 それを確認すると、カルナはシノンに当たらないギリギリのラインの方向を向き、双剣を納めて魔力を高めた。


「行けっ、『光力爆発シャイニングバースト』!」


 カルナの両手から光が爆発し、メタルスケルトンを奥の方まで吹き飛ばした。

 一瞬で消え去ったメタルスケルトン。残りはシノンの方にいるメタルスケルトンだけで、2人は残党を排除すべく動き出した。


「お兄ちゃん、カルナ!」

「お待たせしました!」

「っ! やっと来た!」


 アリュスフィアとゆうき、援護に行っていた水狼エクロスも合流し、シノンの周りに残っているメタルスケルトンを倒していった。


 残りの数は少なかったので、その後10分ほどで戦闘は終了する。

 水狼エクロスが周囲の警戒を買って出てくれ、カルナは双剣を納めながらシノンへと駆け寄って抱き起こした。


「シノン! しっかりして!」

「ううっ……」


 小さく呻き、シノンはゆっくりと目を開けた。


「っ! シノン!」

「シノン!」

「いっ……てぇー……」


 カルナとアルファが安堵したように呼びかけると、シノンは後頭部を抑え、起き上がった。


「何があったのよ、シノンが気絶するなんて」

「まさかスケルトンにやられたわけじゃ……」

「スケルトンと戦っていた時、黒いモヤが現れたんだ。シノンはそれにやられた」

「モヤに……? 俺が?」


 アルファが2人の疑問に答えたが、彼女らはさらに首を捻るだけだった。

 更にはそれを聞いていたシノンもそれに対してそう呟くが、数秒考えて思い出したらしく、悔しそうに唇を噛んでいた。


「黒いモヤ? 魔物じゃないでしょう?」

「……わからないな。俺でも、まったく気配を感じなかった……」

「私も。アルファに言われるまで反応できなかったもん」


 カルナがそう言った瞬間、シノンは聞き捨てならないとばかりに目を見開いた。


「カルナ! 大丈夫だったのか!?」

「あ、うん。シノンがやられたのを見たから、なんとか対応できてたよ。メタルスケルトンの数を減らすために光魔法を放ったら、ピタリと来なくなったけど」

「そうか……良かった……」


 シノンはカルナの肩をガシッと掴んで言ったが、彼女の言葉を聞いて心底安堵したように息を吐いた。


「それにしても、今回の魔物の襲撃……普通じゃないわね」

「ああ。どうやら狙いはシノンとカルナだったらしいな。スケルトンの変異種といい、後方での魔物の無数の群れといい……タイミングも良すぎる」

「まさか、誰かが意図的に私達を?」

「で、でも、確定じゃ……ないですよね?」

「わからない。とにかく、急いで人がいる場所へ行こう。走って行けば村には夕方前に到着できるはずだ。シノン、立てるか?」

「ああ、なんとか……っ!?」


 シノンはアルファに返事をしながら立ち上がろうとするが、地面に両足をついた瞬間糸が切れたように地面に尻餅をつく。


「し、シノン!?」

「いっつつ……駄目だ。でも、足に力が入らねえ」

「……あのモヤの所為だと考えて良さそうだな」

「ちっ。ふざけやがって」


 シノンは舌打ちをしたが、すぐに足へ回復魔法を放つ。


「……よし、良いだろ」

「え? もう治ったのか?」

「浄化魔法だよ。これは呪いの類だ。普通の回復魔法じゃないから、完全に治ったさ」

「凄いな。まあ、とにかく治ったなら早く行こう。……本当に大丈夫だな?」

「ああ。心配かけてすまない」


 そう言って、シノンはスッと立ち上がる。

 それで本当に大丈夫なのだろうと判断し、アルファは御者台に乗り、他の4人と水狼エクロスも馬車の中へと入る。






 ルドルフに状態異常回復をかけながら走り続けること数時間。途中で昼食を手っ取り早く済ませてやって来たのはスイングの村だ。


 夕方前に到着することが出来た彼らは早速ギルドへと向かう。

 途中で倒した魔物の換金と、ギルドマスターへ変異種についての情報提供をするためだ。


 報告、としないのは、やはり面倒事は御免だという彼らの意思なのだろう。


「これで頼む」

「かしこまりました」


 アルファが代表して5人分のギルドカードを渡すと、受付嬢は笑顔を浮かべて受け取る。

 そして倒した魔物の数や素材の量を計測するための魔道具に翳すと、受付嬢は目を見開いてアルファ達を見た。


 そして慌てて彼らのもとへ戻ると、小声で話しかけてきた。


「……もしかして、スケルトンの変異種とソルジャーアントと戦っていましたか?」

「ああ。そうだ。それで……それについての情報提供をしたいんだが、ギルドマスターか上層部の者はいるか?」

「はい。ギルドマスターがそれについての情報を聞きたいとのことで、お待ちしております。あ、取り次いできますので、こちらで少々お待ちください」


 アルファがうなずくのを見て、受付嬢はパタパタと2階へ上がっていった。

 その間に別の受付嬢から金とギルドカードを受け取り、再び2階に上がっていった受付嬢を待つ。

 数分待っていると、受付嬢が降りてきてアルファ達をカウンターの中に入れた。


「ギルドマスターがお待ちですので、どうぞ。ご案内します」

「助かる」


 頭巾を被って顔を隠しているシノンとカルナ、そしてアリュスフィアとゆうきに目配せをして、アルファを先頭にして受付嬢の後に続くのだった。


 2階へ、更に3階まで上ると、受付嬢は奥の扉をノックし返事が来たので扉を開けた。

 するとそこに居たのは褐色の肌に銀色のショートカットの女性――ダークエルフだった。


「あれ?」


 そう声を上げたのはアルファだった。何故なら、ラクシル支部のギルドでも同じ顔を見たからだ。


「……シェーンさん?」

「あら? あの子にあったの? ふふっ、違うわ。私はレーム。シェーンは私の双子の妹よ」

「は?」


 双子。その言葉を聞いてアルファは声を上げる。


「あなた、ありがとう。もういいわよ」

「はい、失礼します」


 レームは隣にいた秘書に茶を持ってくるよう頼むと、アルファ達5人に座るよう促した。


「俺は立ってるよ。狭いし。情報提供については、アルファに任せる」

「そうか。わかった」


 シノンはソファの後ろに立っている、と告げ、ならば自分もとばかりにカルナもその隣に立っていた。

 他の3人はカルナのその様子に気づかないままソファに座り、アリュスフィアが後ろを振り返ってカルナへ尋ねる。


「あれ? カルナは座らなくていいの?」

「私もいいよ。シノンが立ってるって言うなら」

「あ……そう」


 本人がそう言うなら、と、アリュスフィアもゆうきもアルファの両脇に座るのだった。


「それで、変異種がこちらに届いたって話だったのだけど……金属のスケルトンなんてのを相手にしてきたわけ?」

「はい。攻撃手段は鉄の剣、それと鉄の盾を持っている奴もいました。時々狼のような形をしたメタルスケルトンも出てきましたし、俺のこの剣じゃ文字通りあまり太刀打ちができませんでした」

「魔法は?」

「はい、効果はありました。しかし延々と出てきていたので、少し手間取りまして」


 アルファが先ほど戦ってきたメタルスケルトンについて全て話すと、レームは厳しい顔つきで話し始めた。


「実はね、このメタルスケルトンの目撃情報がこの辺りで多発しているのよ」

『っ!?』

「あ、あの、そのメタルスケルトンと戦っていた時、黒モヤが現れたんですが、それについては……?」

「黒いモヤ? ……いいえ、聞いてないわ。どういうこと?」

「実は、その黒いモヤの中から腕のようなものが生えてきて、実際にこいつが気絶させられました」


 アルファはシノンを示しながら説明する。


「本人もまったく気配を感じなかったそうです。それなりに……いや、かなり腕の立つ奴なんですが、後頭部を刺激されて、1発で気を失っていました」

「そう……ちょっと顔を見せてくれる?」


 アルファ達3人はその声で少し驚いたが、シノンは才を持つ子(シャラスト)の能力ですでに髪の色を変えていたので迷うことなく頭巾を取る。

 ギルドマスターとはそれなりに腕が立つ。すなわちも魔力の反応には敏感なのがほとんどなので、常に魔力を発し続ける腕輪は使えないと判断したためだ。


 髪の色をすでに変えていたのは、ギルドマスターに情報提供をするにはあの黒いモヤについて話さなくてはならない。

 そうなれば気絶した自分のことも話さなければならないだろうから、こうして自分の顔を見せなくてはならないかもしれない、というのを半ば予想していたからだ。


「へえ……獣人ね。それならば人間よりは五感が鋭いでしょう?」

「そうですね」


 ついでに言えば、シノンはそこらにいる獣や魔物よりも敏感である。それでもまったく気配を感じなかったのだから、人があのモヤに襲われれば気づかずに攻撃されるだろう。


「……獣人のあなたでも気配を全く感じなかったってことは、本当に急に現れる……ということなの?」

「どうやらそうらしいです。彼の隣にいるカルナも狙われたのですが、2度は通じるはずもなくなんとか対処はできていました。本当に一瞬で現れて、一瞬で攻撃してきていました」

「ふむ……」


 レームはしばらく考え込んでいたが、やがてうなずいて彼らに声をかけた。


「他に何かあるかしら?」

「そう……ですね。特にはないです」

「誰かの悪意を感じます。これからもその変異種には気をつけてください」


 アルファが言うと、後ろからシノンがそう声をかけた。


「なるほど。わかったわ、あなたが言うのなら注意しておきましょう」


 レームはそう言って微笑むと、席を立ってアルファ達をギルドの入口まで送っていった。





「ふぅっ……ああ、疲れた」

「まあ、あれだけの数を倒してたらね」


 シノンが寝台に身を投げると、カルナはその隣に座ってそんな彼の顔を眺める。

 カルナの視線を感じたシノンは目を開き、視線を返した。


「……なんだよ」

「いや。可愛いなーと思って、さ!」

「うわっ!?」


 カルナがシノンに飛びつくようにして抱きついた。

 シノンの上にカルナが乗っている形なので、当然体重はかかる。

 しかし女性に対して体重に触れると面倒なことになるというのは経験で知っているために我慢するシノンだった。


「か、カルナ……!?」

「はあー、やっぱりシノンの肌は気持ちいいなあ」


 もしもこれがカルナでなかったら、変態、という言葉が出ていただろう。彼女はシノンへいつものように頬ずりをしているのだから。


 しかしカルナに喜ばれて悪い気はしないのか、特に何を言うでもなくされるがままにするシノン。

 ジト目になって少し呆れた表情を浮かべながらも、しばらくはそのまま大人しくしているのだった。


 そうやって至福の時間を過ごしたカルナは、顔を離してシノンに言った。


「シノン、今度は私のこと、好きにしてもいいよ?」

「……はあ?」


 思いもしなかった言葉に、シノンは声を上げる。


「い、いやいや、俺はそういうの経験したことないし。無理だ。それに、と、トラウマが……」

「あ、ごめん。じゃあ……」

「んっ……」


 カルナはシノンの頭を抱えながら、自らの唇とシノンの唇を重ねる。

 少しして、シノンもカルナも頬をわずかに染めながら顔を離した。


「珍しいね、シノン?」

「っ……お前の所為だぞ」

「え? 私が?」

「お前が積極的にそうやってくるから、お前がそこらの女に見えなくなってきたんだよ」

「なっ……!? どういうこと!?」

「痛い痛い、やめろぉ……」


 カルナがシノンの頬を両手で抓りながら言うと、シノンも心底嫌そうな顔をしながら抵抗する。


「そうじゃなくて、お前は特別だってことだよ、勘違いすんな!」

「え? 特別?」

「いててて……ああ、そうだ。それ以外になんなんだよ」


 シノンは頬をさすりながら、カルナを宥めるべく彼女へ視線を向けた。


「だいたい、お前が女じゃなかったら俺はどういう趣味の男してんだよ」

「……まあ、ね。ごめんね?」

「……あ……許す」


 視線をゆっくり逸らしながら告げるシノン。

 少し涙目になりながら頬を染めて謝ってくるカルナに、改めて惚れ直したからだ。


「ほら、もう遅いから寝るぞ」

「うん」


 カルナはシノンの上から退き、2人は同じ寝台で眠るのだった。

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