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水の聖者~記憶の果て~  作者: 森川 悠梨
第10章、力を求めた貴族
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113、魔物と盗賊

「で、お前らこれからどうすんだ?」

「一度仲間のところに戻るよ。しばらくはこのまま旅をしていたら、色々とまずいことになるしな」

「……そうか。俺たちは一応ラクシルの街を目指してるんだが、街までは一緒に行かないか?」

「いや、でも……」


 そう言って、ムックは仲良く話をしている女性陣を見る。それを見て決断したのか、やがてうなずいた。


「そうだな。アルファ達と一緒なら安心だ。頼めるか?」

「ああ、もちろんだ。……ただし、男は歩きという条件付きだがな」

「……ああ、承知の上だ」

「おい、アルファ。話は纏まったか?」


 その時歩み寄ってきたのはシノンで、すでに腕輪の魔力は断ち切ってあるため頭巾を被っている。

 しかしアルファは気にした様子もなくうなずいた。


「ああ。ムック達も街までは一緒に行くということになった。ただし男は歩きだかな」

「そうか」


 短く呟くと、シノンも女性陣へと視線を向けた。カルナもシノンと同じように腕輪を停止させているので頭巾を被ったままだ。しかしゆうきやアリュスフィアはもちろんマナも特に気にしていないようで、楽しそうにガールズトークをしている。


 その様子にため息を吐き、シノンはアルファに言う。


「御者は交代制にしよう。数時間単位で2人ずつ、残りの2人は歩きながら警戒、そして魔物の退治。女性陣は楽しそうだからそのまま馬車の中でゆっくりしていてもらおう」

「わかった。ムックとアベルもそれでいいな?」

「ああ、俺は構わない」

「僕も」


 アルファが確認を取ると、躊躇なくうなずく2人。シノンもうなずくと、踵を返して相談した内容を伝えるべく女性陣の方へと向かっていった。


「分担は俺達で決めていいらしい。どう分ける?」

「そう、だな。アルファ達の戦闘能力を見ると、出来れば俺達のどちらかとアルファとシノンのどちらか、というふうに組みたいんだが……」

「ああ、なるほど。シノンが難しい……かも知れないが、特に気にしないだろうよ。問題ない」

「……本当に大丈夫か?」


 アベルが確認するようにアルファへ訊ねるが、問題ないとばかりにうなずくのだった。


「これでもそれなりに付き合いはあるのでな。まあ、言葉足らずのところがちょっと問題かもしれないが、根は優しい奴なんだ。気にするな。で、どうする?」


 再びアルファが問いかけると、ムックが手を挙げて言った。


「アベルとシノンだと、人見知り同士で魔物との戦闘に支障が出ると思うぞ。ほら、連携とか」

「僕も自信ないな。それに俺とシノンって後衛だし」

「ちょっと待った。勘違いしないように言っておくが、シノンは基本前衛だ。魔法剣士ってやつな」

「へえ、なるほど。珍しいな。まあでも、いずれにせよ魔物退治がスムーズに進まなかったら面白くないからな。ここは俺とシノンが組むよ」

「じゃあ、僕はアルファか。よろしくね」

「ま、そうだな。よろしく頼むよ、アベル」


 そういうわけで、周囲の警戒兼魔物退治係と御者係はあっさり決まるのだった。





「へえ、やるじゃないか、シノン!」

「そりゃあ兄さんや姉さん達に鍛えられたからな!」


 互いに剣を振って、襲いかかってくるコボルトを倒しながらそう会話をする2人。

 野営をした場所から出発して数時間。シノンとムックは周囲の警戒をしているうちに、短いものではあるがしっかりと会話をするようになっていた。

 やはりムックがレイヴァであるというのも影響しているのだろう。


 コボルトは犬顔に人の体を持つ魔物で、体長は1メートル程度しかない。

 個の力はEランク程度でしかないが、基本的に集団で行動し連携までしてくるために群れだとDランクになる。


 だがシノンはSS級の冒険者であり、ムックもレイヴァなのでB級という腕の持ち主だ。

 コボルト程度を相手にしても負けるどころか怪我をすることもなくあっという間に闘争を終えるのだった。


「へえ、お兄さんやお姉さんがいるのか」


 馬車を走って追いかけながら、シノンに問うムック。兄姉たちについては特に隠す必要もないので躊躇うことなくシノンはうなずいた。


「ああ。ついでに魔法も兄さんと姉さんに教わった。俺は末っ子だから、みんな結構過保護なんだよな」

「ははっ、弟を心配するのはわかるさ。実際、俺も妹が心配でならない」

「妹がいるのか」

「ああ、1人な。今じゃあいつが唯一の家族だから、あいつを守るために冒険者になって、金を稼いでるんだ」

「……いい兄貴じゃんか」

「そりゃあどうも」


 互いに家族の話をしながら馬車に追いつくと、中で会話をしていた女性陣に迎えられる。


「おかえり。どうだった?」

「全部倒してきたよ。ギルドに行ったら金を貰わないとな」

「ああ、そうだな」


 シノンたちは数ヶ月前まではリアナの要望で素材の剥ぎ取りを自分達でしていたのだが、シノンが面倒臭いという理由で元の状態に戻してもらったのだ。

 そのため、先ほど倒したコボルト達は全てギルドへと送られている。


 シノンとムックは馬車の後ろへと戻り、周囲を警戒しながらも会話を再開した。


「なあ、集落とやらには白髪に青い目を持つ子リ・ミ・レイヴァ・クラントはいるのか?」

「いや、それはさすがにな。俺も会ったことはないんだ。……けどなんでだ?」

「いや、なんとなくだ。知り合いに何人かいてな」

「な、何人かって。そんなに滅多に会えるもんじゃないだろうに」

「色々と伝手があるんだよ」


 青い目を持つレイヴァは世界中を探しても数人しかいない。

 それこそ、リリーズ王国の方でも把握しているのは5人。男が3人で女が2人である。


 その内の2人がシノンとカルナで、あとの2人はカルナの双子の兄でダンジル王国の王子でもあるルクスと、ラトス皇国の第三皇子で今はレラン王国のギルドにいる悠。


 少なくともシノンはそう把握している。


「……まあ、レイヴァである俺ですら会ったことはないんだ。そう考えると、お前は凄いんだな」


 すでに2人の青目と顔見知りだ、などということがシノンの頭を過ぎる。だがこの場でそれを話すつもりもなく、シノンはただ微笑んだ。


「……にしても、暑いな」


 そう言って、シノンは腕輪に魔力を通すと頭巾を外す。ムックも共感したのか、周りに人がいないことを確認してから同じように頭巾を外した。


「まあ、今は真夏だしな」

「真夏……か。風邪を引きやすい冬よりはマシだけど、やっぱり暑いのは好きになれない」

「ははは、それは俺も同感だ。肌が白いから、すぐに紫外線を受けるしな」


 レイヴァは髪だけでなく肌も白い。そのため紫外線を受けやすく、日焼けもしやすい。

 皮膚の病にもかかりやすいため、基本夏の昼間には紫外線を断ち切るための結界を張っているのだ。


 ムック達3人も例外ではなく、朝になると今日も結界を張っていた。


「まあ、結界のお陰でなんとかなっているが……シノン?」

「はあ……まったく。今日は退屈しないな」

「……敵か?」


 ムックは剣の柄に手を置き、いつでも抜けるように構える。少しして彼も複数の気配を捉えたのか、より一層警戒を強めた。

 シノンも双剣を取り出すと、彼らは目で短く会話をしてうなずき合い、左右に分かれた。


 すると。


「来やがった……!」

「アルファ、一度止まれ!」

「了解だ!」


 左右の茂みから現れたのは、鉄製の槍や剣、あるいは弓を所持した男達。すなわち。


「盗賊か。まーた面倒なのが来たもんだな……」

「シノン、手伝うぞ」

「私達も」


 そう言って、アルファとアベル、そして中にいたカルナ達4人が武器を構えて出てくる。


「フィア、ゆうき。悪いが反対側の3人を手伝ってやってくれないか?」

「わかったわ」

「わかりました!」


 そう言って、2人は反対側にいる夜空の星の方へと向かって行った。


 女性陣や夜空の星の面々は自分たちが盗賊に狙われやすいと理解しているため、すでに頭巾で顔を隠していた。

 そのため盗賊たちもレイヴァや整った顔立ちの女がいることに気づかないままリーダー格の男が一歩前に出る。


「痛い目に遭いたくなきゃ、荷物を全部ここに置いて行きな」

「命だけは助けてやるよ」


 ニタニタと下品な笑みを浮かべながらそう言ってくる盗賊たち。しかし当然ながら、荷物を譲る気など一切あるはずもなく。


「はっ。盗賊なんざ、ゴブリンがお似合いだな」


 アルファが嘲りの笑みを浮かべながらそう告げる。すると男達は顔を真っ赤に染め、リーダー格の男が吠えた。


「やっちまえ! 皆殺しだ!」

『うおおー!』


 左右から襲いかかってくる男達の人数は20人程度。普通の冒険者ならこの人数差で負けてしまうだろう。

 しかしそれはあくまで、普通なら、だ。


 この8人は精鋭揃いであり、盗賊が何人集まった所で歯が立つはずもないのだ。

 左右に10人ずつ配置されていて、シノン、カルナ、アルファの3人は襲いかかってくる盗賊たちをほぼ一撃で仕留めている。


 ムック達の側も同じように、襲いかかってくる盗賊をほぼ一撃で倒している。

 後衛のゆうきとアベルも魔法や矢の一撃で確実に急所をついており、5分とかからずに戦闘は終了する。


 盗賊も倒せば死体はギルドへと転送され、後に盗賊の撃退の報酬が貰える。盗賊の規模によって値段も違ってくるため、盗賊が出たら根城を壊すという冒険者も少なくないのだ。


 人数差で勝てると思っていたリーダー格の男は、部下達全員があっという間に殺された光景を見て唖然としていた。


「アジトはどこか、教えてもらおうか」


 いつの間にか目の前に立っていた子供に視線を向ける男。首筋には冷たいものが当たっており、目の前の子供が腕を引けば一瞬で自分は殺される。

 それを悟った男は、顔と背中に冷や汗が流れるのを感じながらただ黙っていた。


「盗賊の規模は?」


 力を入れられ、首筋から血が流れた。


「ひぃっ! わ、わかった! 言う! だから、命だけは!」

「は?」


 何言ってんだこいつ、という顔をして、シノンはそう声を上げた。


「なあ、こいつさっき俺たちを皆殺しとか言ってたよな?」

「確かに言っていたな」


 それに答えたのはアルファ。彼も唯一残ったリーダー格の男にはまるでそこらに落ちている小石を見るような視線を送っている。

 他のメンバーも同じで、自分達を殺そうとした相手に対しては慈悲も何もないようだった。


 特にここに揃っているメンバーはそういった経験を幾度となくしているために、自分達を殺そうとした相手には情けをかけないでいる。

 そのためか、全会一致でこの男の殺処分は決まっていた。


 男の方としても、自分達のことを話せば殺される。どうやったらこの場を切り抜けられるか。

 ただそんなことを考えていた。

 あの人数差を物ともせずに勝った8人に、自分1人で勝てるはずもなく、男にはもはや恐怖と絶望しか残っていなかった。


「だ、そうだ。残念ながら命は助けられない。……罪を犯した咎人よ、我が質問に堅実なる答えのみを告げその罪を償い給え、『白状ブロンク』」


 無詠唱を誤魔化し、コペル王国の超天才魔術師アルマン、シタルが使っていた魔法と同じものを使用するシノン。


「盗賊の生き残りは?」

「……こ、これで、全員だ……」

「え!? 何、どうなってんの!?」


 ずっと黙っていた男が急に話し始めたのを見て、マナがそう叫ぶ。そしてそれに答えたのはこれを前にも一度見たことがあるアルファだった。


「『白状ブロンク』。正直な発言しか許さない闇属性の魔法だったな? 確か、コペル王国のシタルが使っていた?」

「ああ。それと同じものを模倣してみた。上手くいったようだな。じゃあ、アジトの場所は?」





 男への尋問を終え、シノン、ムック、カルナの3人は盗賊のアジトを目指して歩いていた。

 カルナはどうしても自分が行きたいと言い張り、やがてシノンが負けて結局この3人で来ることになったのだ。


 本来はアルファも来るはずだったのだが、前衛ばかりがいなくなってもよろしくないので残ってもらったのだった。


「にしてもあれが全員ねえ。留守番とか残すだろ、普通?」

「まあ、あれだけ小さい規模なら仕方ないさ」


 そんなふうに会話をしながら歩くこと1時間ほど。やがて男が言っていたような洞窟が見えてきて、念のためということでシノンが斥候に出た。


 気配を押し殺して中に入り、思い切り地面を踏み鳴らしてみるが特に騒ぎも何も無い。ついでに気配も特にないので、カルナに『通達ノティフィケーション』で異常がないことを告げた。


「シノンー」

「おい、こら。誰もいないとはいえ仮にも敵地だぞ」

「わかってるって。ほら、盗賊が溜め込んだ物はどこ?」

「待ってろ……我を中とし空気を揺らせ、『超音波サウンド』」


 シノンが『超音波サウンド』を使いこの洞窟の地図を頭の中で構成させる。すると宝が溜め込んでありそうな場所へとカルナとムックを先導して向かい始めた。


 何故『探索サーチ』にしないのかと言うと、それは結属性だからだ。

 ムックがいる前ではこの魔法は使えないので、魔法師では風属性に分類される『超音波』を使ったのだ。


「へえ。結構溜め込んでたんだな」

「以外に、な」

「これ、分けるの大変だよね」


 彼らが辿りついたのは大量の金品や武器が保管されていた部屋だ。手で持つのは無理そうなので、シノンとカルナが収納魔法を使うことに決定した。


「さて、帰るか」

「そうだな」


 こうして、また1時間ほどかけて元の場所へと戻るのだった。

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