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水の聖者~記憶の果て~  作者: 森川 悠梨
第1章、旅路
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野宿と森

 パチパチと音を立てて、焚き火は燃える。

 夜の暗闇に沈んだ森は黒く、野宿をする旅人を包む。

 暗闇の中に包まれた二人の父子おやこは、共に食事の準備をしていた。


「父さん、今晩は猪でもでいいよね」


 茂みの中から聞こえてきた声に、火に薪を足していた男が振り返る。


「おう、じゃあ、皮を剥いで切っといてくれ」

「了解」


 さして大柄ではないが、筋肉がついたその引き締まった体つきの男は、この世界では最も多い職業の一つである冒険者だ。

 狩りから帰ってきた子もまた、冒険者である。

 男はメイン武器を短槍たんそうとし、少年は双剣を武器とするわりと有名な父子である。

 父子と言っても、父親であるこの男――ロウは、六年前、ラトス皇国のラトス高原の花畑で死にかけていた子を助け、養い子として育てていたのだ。

 当時の彼は記憶がなく、名前すら覚えていなかったからである。

 だからロウがじきじきに、″シノン″という名を与えたのだった。

 シノンは、天才的な魔術師だった。更に短槍や長剣、短剣、弓矢など、さまざまな武器を使いこなしていた。

 土地勘などもあり、旅に経験があるのかと思うほどに色々と賢かった。

 現在12歳のシノンは、冒険者ランクがB級である。

 最高がSS級なので、わずか12歳にしてここまで上がるのは普通ではない。

 というのも、納得がいかないわけでもなかった。

 なぜなら彼は、滅多に生まれることのない、生まれつき白髪に青い目を持つ白髪に青い目を持つ子リ・ミ・レイヴァ・クラントと呼ばれる子供であるうえに、才を持つ子(シャラスト)だからだ。

 こんなケースは滅多に見るものではない。

 才を持つ子とは、生まれながらにしてさまざまな才能を持って生まれる、いわゆる天才である。

 見た目は獣人となんら変わらない普通の姿をしている。頭に獣の耳がついていて、尻尾もついているのだ。

 知能、知識、学習能力、運動能力、戦闘能力、推理力や観察力等など、色々なことに長けている。

 そのため、高い戦闘能力が重視されるこの世界では人間に狙われやすく、信頼のできる人以外には自分が才を持つ子(シャラスト)であることを明かさず、長寿であることがバレないよう同じ人とずっと一緒にいることはないのだ。

 そんな様々な才能を持った才を持つ子(シャラスト)だが、繁殖能力は低い。しかしその代わりに長命種である。

 目の色や髪色を能力的に染めることができ、自分の正体を隠すことさえできる。

 例えるならシノンのように、白髪に青い目を持つ子リ・ミ・レイヴァ・クラントである場合、彼らもまた希少で戦闘能力が高い故に人身売買の対象となるため、髪色か目の色を変えるだけでも狙いの対象から外れることが可能となるのである。

 昔は性別まで変化するという現象が起こっていたらしいが、今ではそんな話はあまり聞かない。

 ちなみに、シノンの養い親であるロウもまた、才を持つ子(シャラスト)である。

 冒険者ランクはA級で、今年でもう47歳、闘士になって30年が経つ。だが、見た目は長寿であるが故かまだ若く、二十代ほどにしか見えない。

 シノンは、猪をさばくと串刺しにして、火に当てた。

 ある程度焼けたら、塩をふってかぶりつく。やはり野宿で食べる肉は美味しかった。

 噛んだ瞬間に口の中に溢れる肉汁がたまらなく美味しい。街で購入しておいた米を炊き、肉と一緒に食べると最高の組み合わせを生み出す。

 この組み合わせは、シノンの中では最高とも言えるものなのである。


「うん、やっぱりお前が焼くと美味いな。米も最高だ!」

「そんなこと言わないで、たまには父さんが食糧を調達してくれよ。探知魔法が使えるとはいえ、疲れるんだから」


 息子に言われ、ロウは苦笑する。


「わるいわるい。だがな、俺には俺の、やることがあるんだ。頼むよ」


 シノンはため息をつきながらも、まんざらではなさそうな表情で言う。


「……まあ、いいけど。別に、寝ればどうにかなるし」

「すまんな。これでもお前には色々と感謝してるんだぞ?」

「知ってる。俺の観察力を舐めんなよ、父さん」


 ロウはまた、声に出して笑った。シノンは軽くため息を漏らしたが、微笑んだ。


「明日、いよいよだね」

「そうだな。コペル王国には、豊かな街と美しい景色がある。お前も、何か学ぶことがあるかもな」

「国を渡ってるんだから、学ぶことはあるよ」


 そうだな、と、ロウは呟いた。

 空を見上げると、溢れんばかりの光の粒が夜空全体に散っていた。

 サイズの大きいものから小さいものまで、ハッキリと見える。

 やっぱり森はいい、と、シノンは思った。

 昼間には、その美しい緑を堂々と晒し、この世の″美″を生み出してくれている。森の中で、木漏れ日と共に作り出すなんとも言えぬその芸術は、人が作るものの何十、いや何百倍も美しい。

 夜になれば木々は闇に沈み、代わりに、街では見られない光の粉を撒き散らしたような幻想的な空を見せてくれる。

 先ほど二人が話していたコペル王国というのは、世界で最も物資の輸出量が多い国である。豊かな気候と水で、作物は毎年豊作。更に鉱物なども多い方で、武器や飾り物、希少金属レアメタルの産物など、数多くの物資を取り揃える大国である。

 戦争をすることもなく、この国を攻めようとする国もない。なぜなら、コペル王国は世界中で最も、兵士と冒険者の数が多いからだ。その全員は、徹底的に鍛え上げられた精鋭である。

 また、魔術師も多いため、戦をすれば三日と持たないと言われている。更には超天才魔術師アルマンと呼ばれる少年が1人いるため、戦を仕掛けられる国は限られてくるだろう。

 超天才魔術師アルマン。文字通り、生まれながらにして厖大な魔力を誇る天才的な魔術師のことである。

 世界にたった7人しかおらず、まだ20にも満たない若者ばかりなのである。

 なぜなら彼らは寿命が短く、先代が死ねば次の超天才魔術師アルマンが生まれる、とそんな感じだからである。

 国に一人いるだけでどの国も、戦を仕掛けることを躊躇うほどの威圧感と強さを持っている。

 その中でシノンは、ラトス皇国に暮らすラルという少年と、レラン王国に暮らすレントという少年とは知り合いである。

 なぜかわからないが、この髪色が気になって近づいてきたところ、仲良くなったのであった。




 翌朝早くには森を抜け、ヘルガ王国最大の港であるタイムマ半島のシュウダイこうから、東大陸に渡る船に乗り込んだ。

 この世界は基本、西大陸と東大陸に分かれており、その中央にリリーズという全王ぜんおうの国が存在する。

 全王は絶対の存在で、世界中での争いが起こらないようにするために在るものなのである。

 タイムマ半島からコペル王国への直航なので、7日ほど船に揺られることになる。

 東大陸に渡るのは初めてで、シノンも少しばかり楽しみにしていた。旅をして色んなところを周ること自体好きなので、初めての地に足を踏み入れる新鮮な感じというのは、なんとも言えないくらい興奮することなのだ。

 船の中に用意されている個室に入ると、シノンは早速寝台に潜り込んで眠った。

 慣れているとはいえ、さすがに眠かったのだろう。


 ……この時彼らは、この船旅で一番の危機がおとずれるということを、まだ、知るよしもなかった。

2018年7月21日、全体的に修正しました。

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