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かかしに転生した俺の異世界英雄譚  作者: 緋色友架
第1章 山賊討伐編
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第9話 眠れぬ村のお姫様


「ん…………ぅ?」


「あ! アル! 気が付いたみたいだよ!」


「おっ。思ったより早かったな。なによりだ」


 決して広いとは言えない、こじんまりとした小屋の中。

 そこに敷かれた布団の中で、リュア=ステンノが目を覚ました。


「ん……ここ、は? それに、あんたら……」


「よっ。悪ぃな、勝手に上がらせてもらったぜ」


 きょろきょろと辺りを見回すリュアは、まだ事態を呑み込めていないようだ。

 仕方なく、俺は壁に寄りかかったまま説明する。

 リュアの最大火力の魔術を、俺の魔術が打ち消したこと。

 その際、リュアは少し高いところから不意に落下し、気絶してしまったこと。

 村長と思しき老人に、この家を教えてもらったこと。

 何一つ包み隠さず、滔々と語って聞かせた。


 すると、リュアはぷるぷると震え、顔を真っ赤にしてしまった。

 布団の上に正座するリュアは、傍らに座るノエルと、壁に寄りかかっている俺を交互に見て――――バンッ、と床に頭を打ち据える勢いで土下座してきた。


「ふぇ?」


「お、おいリュア? どうした?」


「どど、どうしたもこうしたも、あ、あたい、あんたらにはとんでもない迷惑を……」


 土下座したり、立ち上がってうろうろしたりと、リュアの動作は一定しない。

 その間も顔は茹で蛸のように真っ赤で、煙さえ噴き出しているように見える。今リュアの顔にやかんを置けば、すぐにお湯が沸騰するだろう。


「あ、あたいの早とちりと誤解で、随分迷惑かけちまったよ! ごめん! 謝って許されることじゃないかもしれないけど、本っ当にごめん! この通りだよ!」


「いやいや、もういいって……。っていうか、随分理解が早いな。俺が魔物だって疑いは、もう晴れたのか?」


「魔物なら、とっくにあたいを食ってるだろう? それをやってないのが、なによりの証拠だよ。とにかく、本当にすまないことをした。もう少しで、取り返しのつかないことをしちまうところだったよ。本当に悪かった」


「い、いいって。だからそんなに謝んなよ。な? ノエルもこんなに謝られたら、困っちまうよな?」


「う、うん……わたしは、別に……大丈夫、だよ?」


 急に振られて返答に困ったのか、ノエルはもごもごと答えた。

 それに実際、謝られ過ぎても挨拶に困る。始まりがどうであれ、女の子に怪我をさせて気絶までさせちまったのは、俺の落ち度だしな。そこの部分はしっかり謝らないといけないだろう。

 が。


「いやっ! もう本っ当にこれはあたいの落ち度だ! あんたが男だったら、あたいの身体でも捧げないと許されないレベルだよ! あぁもうあたいのバカめ! なんであの時、ちゃんとこのかかしの言うことを信じることができなかったんだ! うぅ…………あたいってば昔っからこうなんだ。すぐに調子に乗って、やり過ぎちまって…………うあぁあああああああっ! もうっ! こんな小さな子まで疑っていたなんて、本当にバカみたいじゃないかぁっ! っていうかバカだ! あたいはバカだこんちくしょーっ‼」


 …………。

 あ、謝り辛ぇ……。

 戦闘中からやけにテンションが高い奴だとは思ってたけど…………落ち込むベクトルでまでここまでフルスロットルだと、若干引く。

 放っておくと、土下座と称して床にひびが入るまで低空ヘドバンを繰り返しそうだ。


「お、落ち着けってリュア。俺も、その、魔術を下手な感じに撃っちまって悪かったよ。どうにも加減ができなくてな…………なにせ、喋り始めたのも動き始めたのも、魔術が使えたのも、今日が初めてでな……」


「いや――――――――――――――――――――――――っ! 謝んないでくれ! 全部、全部あたいが悪いんだそうなんだそうに違いない! あぁもう誰かぁっ! 誰でもいいからあたいにちゃんと仕置きをしてくれーっ! あたいは、あたいは――――――――っ!」


「だ、だぁから落ち着けってんだよっ!」


 結局。

 何故だか暴走状態に陥ったリュアを落ち着かせるには、さらに一〇分ほどの時間を要したのであった。






 パチパチと、囲炉裏のような場所を囲い。

 リュアは火にかけた鍋からスープを一匙掬い、くいっ、と飲み干した。味は上々だったらしく、明るい顔で椀に注いでいく。


「いやぁ、さっきは本当に悪かったね。アルレッキーノ。ノエル」


 スープの椀を、隣に座るノエルに差し出しながら、リュアは穏やかな表情で言った。

 暴走状態をなんとか落ち着かせると、この少女は「そ、そうだ! あんたらになにか、お礼を、お礼をしないと!」と騒ぎ出し、そのままスープ作りに没頭してしまったのだ。

 普段から自炊しているのか、手際は恐ろしくよく、ものの数分でスープはいい塩梅に仕上がったようだ。

 俺には鼻もないし、食べ物を味わう舌もないんだけどな。

 受け取ったノエルは、スプーンで少しずつ口に運んでいる。熱いのか、一気にはいけないようだ。ちびちびと飲んでいくその姿は、まるで幼児のそれを見ているようで一層可愛らしい。


「いいよ。俺もノエルも、もう気にしてない。それより、リュア。もう俺のこと、魔物だって疑ってはいないのか?」


「あぁ、勿論だ。魔物は魔術を使えない。魔術を下手でもなんでも使えたって時点で、アルレッキーノ、あんたは魔物じゃないってことなのさ。まったく、自分が不甲斐ないよ。いきなり襲い掛かったあたいなんかを介抱してくれるような、そんな優しい奴を魔物だと勘違いするだなんて……!」


「へいへい分かったから。頼むから、もう暴走状態は勘弁だぜ……」


「め、面目ない……。あたい、昔っからテンションがすぐ上がっちまうんだ」


 自分の分もスープを救い、それに豪快にがっついていくリュア。

 炎の魔術を使うからだろうか。熱さにはどうも強い様子で、ノエルが二口めをフーフーしている最中、もう二杯めに手を出している。


「本当なら村中総出で、あんたらへのお詫びをしたいところなんだけどね。けど、今この村は困窮しててね。ちょっとした厄介事を抱えちまって…………こんなスープくらいが関の山さ。悪いね。かかしのあんたにゃ、恩さえ返せない」


「だーから。別に気にしてねぇっての。…………ところで、その『厄介事』ってのは、一体何なんだ?」


 さっきからその言葉が、耳について離れない。

 俺たちが過剰に疑われたのも、その『厄介事』が原因なら、俺たちだって黙って見過ごせない。なにせ実害を被ってるからな。間接的にとはいえ。


「? 聞いてどうすんのさ。あくまでこの村の問題さ。余所者のあんたらには関係ないよ」


「そんなことねぇだろ。その『厄介事』の所為で『余所者』の俺らが迷惑被ってんだから。なんなら、俺たちがその『厄介事』解決に、手ぇ貸すぜ?」


「そ、そんなのいいって! ただでさえあんたは、助けてくれた恩人なんだ! これ以上恩を重ねちまったら、返し切れなくなっちまうよ!」


「返してくれなくていいよ。なぁ、ノエル」


「んー? うん、よくわかんないけど。アルがいいって言うなら、いいんじゃないかな?」


「そ、そんなテキトーな……いや、ありがたいんだけどさ。でも、あたいは――」


 と、その時。


 カーン カーン カーン カーン


 異常事態を知らせる警鐘が、夜も更けつつある村の中で響き渡った。


 ステュクス村の平穏が崩れていく……?

 次回更新も30分後! お楽しみに!

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