表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かかしに転生した俺の異世界英雄譚  作者: 緋色友架
第1章 山賊討伐編
7/67

第7話 戦いの記憶


「えいっ、やーっ‼」


 ぱぁんっ、となにかが弾ける音。

 リュアの背後に展開されていた火の粉が、一気に破裂したのだ。ここまで届く熱風に乗って、リュアは槍を振りかざしながら跳びかかってくる。

 両端から炎を吹き出し、異能の槍を持って。


「っ、ノエル! つかまってろ!」


「う、うん!」


 ノエルが蓑にしがみついたのを確認するや否や、俺は思い切りその場で跳ねた。

 すると狙い通り、俺の身体まで熱風に煽られて、後方へ飛んでいく。ぶぉんっ、と不穏な音を立て、リュアの槍は空を切った。


「ノエル、しっかりつかまっててくれよ!」


 返事の代わりに、身体にしがみつく力が一層強まったのが分かる。


 ――――さて、どうするか。


 分が悪いのはこっちだ。なにせ俺は、この世界にやってきて一〇年経つが、その一〇年間、ロクに動けやしなかったかかしなのだ。魔術、なんて概念があることさえ、ついさっき聞いたばかりだ。

 魔術を用いた戦闘なんて、そんなのつい寸前まで、お伽話でしかなかったのに。


「どうやら知能は高いみたいだね。あたいも、手加減なしの本気で行くよ!『プロスエッダ』!」


 リュアがなにやら呪文のようなものを唱える。

 すると、またリュアの周囲に種火たちが展開される。さっきよりも数は少ない。一つ一つが大きくなっている、ということもなさそうだ。

 もしかして、今みたいな移動専用の魔術なのか?

 それとも、連発するほどに威力が弱まっていくとか…………それならまだ、勝機はあるかもしれない。勝機というか、説得する時間だ。向こうがバテてくれれば、俺たちが魔物なんかじゃないことを説明できる。

 ダークドラゴン相手には、あんな魔術(だったのか?)を使えたけど。

 あの時は無我夢中だったし、どうやったかなんて覚えてない。っていうか、もし覚えていたとしても、あんな規模の魔術を、たった一人の女の子相手に打てるものか。


「人間様が! いつまでも騙されっ放しだと思わないことだねぇっ‼『プロミネンス』!」


 叫ぶと。

 火の粉の一つ一つが、巨大な炎の鞭となって、俺めがけて襲い掛かってきた!


「なぁっ⁉」


 地面をぴょんぴょん跳ねながら、予測しづらい炎の鞭の攻撃をなんとか避けていく。

 っていうかなんだこれ! 全然弱まってねぇじゃねーかっ!

 しかもこの対面、なにが不味いって相性が最悪だ!

 相手は炎使い。対して俺はかかし! 木製!

 木は火で燃える!

 一撃でも、いやかすりでもした瞬間にアウトだぞ!


「く、そぉっ!」


 一瞬の隙をついて、炎の鞭の猛攻を抜け出す。

 だが、リュアが攻撃の手を緩めることはなかった。


「へ?」


 気が付けば、目の前に火の粉が一個、飛んできていた。

 そしてつい眼前で、じゅんっ、と収縮し――――直後に破裂した!


「う、わぁっ⁉」

「『ブラックポイント』ってね……へへぇっ! よく避けるじゃん、かかしのくせに生意気だよっ!」


 見ると、渾身のストレートを打ち終わったような姿勢で、リュアが不敵に笑っていた。

 嘘だろ……まさか、火の粉を殴り飛ばして俺の方まで飛ばしてきたのか⁉

 っつーか今のはマジで危なかった! 反応して背を反らすのが遅ければ、顔の布から全身に引火していただろう。

 冗談じゃねぇ! 俺が燃えちまったら、誰がノエルを守るんだ!

 っ……もう一度、使うしかねぇのか? あの時、ダークドラゴンを倒した魔術を。

 どうやるのかも、分からねぇのに……⁉


「ふわぁ~ぁ……あたい、夜は苦手なんだよ。だから――――さっさと済ましちまおうかっ‼」


 言うと、『プロスエッダ』と叫ぶ度に飛び出していた火の粉が、リュアの槍へと集まっていく。

 槍を囲うように集まっていった火の粉は、やがて巨大な炎となり――――まるでリュアが、炎でできた巨大な槍を持っているかのようだった。

 不味い、あれはいくらなんでも不味い!

 こちとらかすった時点でアウトなんだぞ⁉

 なのにあんな巨大な槍――――どうやって避けろと⁉ 飛べってか⁉ 今この場で⁉


「食らいなぁっ! 超必殺『ゴルゴネイオン』っ‼」


 巨大な槍は、周囲を一斉に薙ぐように振るわれた。

 眼前に迫りくる炎の槍――――それに俺は、反射的に倒れ込んだ。

 姿勢が低くなり、膨大な炎が身体の上を通り過ぎていく。


「なぁっ⁉」


 素早く体勢を立て直し、俺はリュアから一層の距離を取った。

 あ、危なかった……! 今のは本気で危なかった。かかしなのに、冷や汗を掻くかと思った。

 あの面積で、突くように来られたら、それこそ避けられなかっただろう。横に飛んで逃げようにも、跳躍力不足だ。そもそもかかしの身体は、動くこと前提に作られていないのだから。


「……ぬぐぐっ、まさか『ゴルゴネイオン』まで躱すなんて…………忌々しい奴っ! だったら、文字通りあたいの最大火力で、骨の髄まで焼き払ってあげるっ!」


 物騒な宣言をすると、火の粉たちは今度は槍の先端へと集まっていった。

 槍の持ち手の方から炎は消え失せており、まるで筒の先端部に炎が集まっていくような――――って、まさか。


「こりぇかりゃは逃ぎぇりゃりぇにゃいれしょっ! 食りゃえっ!『クリューシャーオーリュ』っ‼」


 筒の反対側に口をつけながら、リュアは大声で叫ぶ。

 そして、かまどの火の勢いを強めるように――――筒に思い切り、空気を送り込んだ!

 先端部に集まっていた火の粉たちは、巨大な炎の渦となって迫ってきた!


「な、こ、これは……!」


 さすがに、避けられない。しゃがんでも無意味だ。

 どうする? どうすればいい? っていうかどうにかできんのか?

 ここで炎に巻かれて、終わっちまうのか?


「アル……!」


「…………ってやんよぉっ!」


 背中に背負う、小さな少女のことを思い起こす。

 この娘を守るために、この娘の家族を探すために、孤独を埋めてくれた恩を返すために!

 負けられない。負ける訳には、いかねぇんだよっ!

 だから、もういい、なんでもいい! 奇跡でもご都合主義でもなんでもいいから!

 つい数時間前に、あのダークドラゴンをも打倒した魔術を!

 この場だけでいい! まぐれでいい! 運任せでも構わない!

 なんでもいい! なんでもいいから!


「っ、壁ぇっ‼ 出ろ、出ろ、出ろ出ろ出ろ出ろっ‼ 俺たちを、守りやがれぇっ‼」


 必死に、無い喉が裂けるほどに声を出す!

 それくらいしか、俺にできることはないじゃねぇかっ!

 今、この瞬間だけだって、なんならいいさ! とにかく、今すぐこの場でだ!


「俺の魔術よ! あるなら俺たちを――――ノエルを、守りやがれクソがぁああああああああああああああっ‼」


 瞬間。


 地面そのものが、一気に数メートルも盛り上がった。

 あの巨大な炎の渦を、まとめて呑み込むほどに。


「へ? な、え、あ、う、嘘ぉっ⁉」


 リュアの声が、上空から聞こえた。

 俺が出現させたのであろう、この巨大な土壁。

 間違いない、リュアはその壁の上に乗ってしまっている!


「ちょ、待て! タイム! 魔術やめ! お、下ろせバカっ! 俺は危害を加えるつもりはないんだよっ‼」


 ガンガンと、土壁を叩きながら訴える。

 すると、まるで意思が通じたかのように土壁は一気に平坦な道に戻った。

 中空に、リュアを置き去りにしたままで。


「って、きゃぁああああああああああっ⁉」


 絹を裂くような悲鳴。

 次いで、ドサッ、という地面との衝突音が響いた。大した高度じゃなかったが、打ちどころが不味かったらヤバい! 俺は慌てて、リュアの下へ駆け寄っていった。


「お、おいリュア! おいって! 大丈夫かっ⁉」


 バトル、決着……?

 次の投稿も30分後! お楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ