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かかしに転生した俺の異世界英雄譚  作者: 緋色友架
第4章 死の森編
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第65話 最後の抵抗


 それは、嘘みたいな光景だった。

 巨人の骨格が動き出したような、荒唐無稽な話。こんな異形を、俺は前世に絵で見たことがある。

『相馬の古内裏』――――歌川国芳が描いた、『善知安方忠義伝』のワンシーン。絵の左半分を占領する巨大な骸骨が、咄嗟に脳裏を掠めた。

 いや、よく見ると違う。

 いびつな凹凸が目立つ身体。腕を振り上げた巨大骸骨は、無数の人骨が組み合わさってできたものだった。

 握り締めた拳だけで、俺たち全員を一息で潰せるほどに、でかい。


「っ、避けろっ! ハサンっ!」


「言われなくて、もぉっ!」


 身に纏った竜巻が風力を増し、振り下ろされた拳をすんでのところで回避する。

 俺たちがほんの数秒前までいたところは、地面に指の骨がねじ込まれ、巨大なクレーターになっている。がしゃがしゃと、身体を構成する人骨を奏でながら、巨大骸骨は穴からその身体を完全に脱出させた。


 参った、これは計算違いだ。

 デュラハンやタキシムは、死体に取り憑いて操る魔物。その死体っていうのは、なにも肢体が機能するものに留まらない。死体であればなんでもいいのなら――――骨にだって取り憑くことは可能だろう。

 竪穴の奥底で、握り潰した二〇余体のデュラハンとタキシムが。

 今度は竪穴の底に眠っていた人骨に、一斉に取り憑いたのか。


「どどど、どうすんのさこれぇっ⁉ あ、あんなの、まるで巨人だよっ!」


 こんな巨大な怪物に、勝てる訳がない。

 顔の周りをひゅんひゅん飛び回るポルトは、言外にそう言っていた。

 そんな悲観的な所見を後押しするように、巨大骸骨は腕を振るってくる。幾体もの人骨が組み合わさり、複雑な凹凸を持つ骸骨の腕は、まるで鋸の刃のようだ。『風神の蠢動(ウィンドムーブメント)』を絶えず発動させて避けているが、一発でも、いや掠るだけでも身体をぐちゃぐちゃに引き裂いてくるだろう。


「どうする? アルレッキーノ」


 と。

 俺にしがみついているハサンが、冷静な声で訊いてきた。


「どうするって――」


「あなたなら、あの程度の巨大骸骨如き、相手にならないでしょう?」


 それは、ともすればハサンらしからぬ言葉に聞こえたかもしれない。

 ハサンは、常に冷静沈着で、物事を客観的に見るのに長けている。少なくとも、俺はそう思っている。戦況分析は、中でもハサンの十八番だ。ニッケル村での一件などでは、大いにこいつに助けられた。


 だがハサンは、常に最悪のケースを想定して動く。そんな奴だと思ってた。

 前向きなことはなかなか言わない奴だと。

 そんなハサンが――――俺のことを全面的に信頼するような、そんなことを言ってきた。


 ……嬉しいこと言ってくれんじゃねぇか。

 どんな心境の変化があったんだろうな――――まぁ、それを聴くのは後でだ。


「なにか作戦はあるのかしら? あるなら、それに従うわ」


「……俺がそんな小賢しいことを、できると思うか?」


「そう。なら、勝算は?」


「お前が考えているのと同じ、だよっ!」


 暗闇の中でも、こちらの位置を完全に捉えた一撃が繰り出される。すれすれで避けるが、そんな鬼ごっこも長くは続かないだろう。

 回避に必須な『風神の蠢動』を、発動させているのはハサンだ。

 しかし、傷を負っている上に体力も消耗しているハサンじゃ、長くはもたない。

 隙を見計らって、俺が魔術を発動できさえすれば。

 相手を打ち負かす自信なら、ある。


「ポルト、でかい光球を作れるか? できればなるべく多く」


「へ? で、できるけど……そ、そんなことしたら、光源のあたしが狙われるかもしれないじゃん! 危ないのは嫌だよ!」


「安心しろ、奴は光を狙ってきてんじゃねぇ。その証拠に、奴には眼がないだろ?」


「そ、そうだけど……」


「恐らく俺と同じように、魔力を探知してこちらの位置を測ってるんだ。だったら、魔力の塊である光球がいきなり現れれば、向こうは混乱する」


「っ……分かったよ。その代わり! あたしのこともちゃんと守ってよね! アルレッキーノ!」


「当たり前だ」


 俺が言うより早く、ポルトは上空めがけて飛んでいった。

 思った通り、骸骨はポルトには反応しなかった。より大きな魔力を纏っている俺たちの方を、執拗に狙ってきてる。

 動きに精彩を欠いてきた竜巻を、必死に魔力を注ぎ込んでもたせる。耳を澄ませば、ハサンの荒い息遣いが聞こえてきそうだった。

 あと少し、あと少しだ。

 ポルトが光球を作り出した、その瞬間がチャンス。


「いっけーっ! 『ドッペルゲンゲル』っ!」


 俺たちへの合図のように声を上げ。

 ポルトは、骸骨の頭上にいくつもの光球を発生させた。


「GUOOOO……⁉」


 突如出現した魔力の塊に、骸骨は呆けた面を浮かべている。

 その隙に、俺たちは素早く地上へと降りた。

 足下の土を踏みしめる。これだけ耕された柔らかい土なら、扱うのに申し分ない。

 ヒヤヒヤさせてくれたが、ここまでだ。

 最後の抵抗は、これにてお終い。


「『根堅洲國女王の戯れ(ヒャッキヤコウ)』っ!」


 巨大な二本の腕が地面から現れ、骸骨めがけて迫っていく。

 ポルトの『ドッペルゲンゲル』のおかげで、周囲は昼日中のように明るい。狙いを外すことはなさそうだ。

 瞬く間に腕は伸び、骸骨の脚に絡みついていく。

 骸骨は動揺したように唸っていたが、もう遅い。

 伸びた土製の腕は、瞬く間に骸骨を包み込んでいく。頭蓋骨を圧迫し、地面めがけて身体を押し付けていく。


 メキメキと、骨が砕ける音が響く。

 バキバキと、骨が破ける音が響く。

 やがて、巨大骸骨を包み込むように土のドームが出来上がり――――その内側に、骸骨は圧縮された。

 全方位からの土による圧迫。これでもう身動きは取れまい。

 元々骨だけで、筋力なんて全くない骸骨だ。この土のドームから脱出することは不可能だ。


「……相変わらず、出鱈目ね」


 くすくす笑いながら、ハサンは言う。

 地面に降り立ってから、彼女の顔色はよくない。明かりがあるから、余計それが鮮明だ。今にも、崩れ落ちてしまいそうな――


「でも…………あなたの魔術、すっごく、心強――」


 と。

 言いかけて、ハサンはぐらぁ、と身体を傾けた。

 そのまま、ノエルを巻き込むようにして、地面へと倒れ伏してしまう。


「っ、ハサン……?」

「お、おいハサン、大丈夫か⁉」


 俺とノエルの声も聞こえていないのか、ハサンは荒い息を漏らす。

 額にびっしりと脂汗を掻いた彼女は、苦しそうに胸を上下させていた。


 窮地脱出……?

 次回更新は来週の22時頃予定です。お楽しみに!

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