表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かかしに転生した俺の異世界英雄譚  作者: 緋色友架
第4章 死の森編
64/67

第64話 死体の軍勢


「ポルト、ハサンの怪我治せる? だいじょうぶ?」


「まっかせといて! あたしの治癒魔術『ユグドラヒール』で、治せなかった怪我は今までないわ! まぁ、相手は専らピクシーだったけど…………でも、あたしの生命力そのものを分け与える魔術だから、きっと上手くいく筈!」


 俺の背後で、ノエルとポルトが話している。

 ふたりとも連れてきてよかった。ハサンのことは、ふたりに任せておけば大丈夫だろう。俺は、目の前の敵に集中する。

 木の葉の隙間から差し込む、微かな月明かりだけが頼りの竪穴の中。正直に言えば、俺はほとんど視界を失っていた。自分の腕の先さえ見えやしない。ポルトの明かりを失った今、俺がいるのは真っ黒な闇の中だった。

 それでも、足下から地面に魔力を注ぎ、常に敵の位置は感知している。


 横にも洞窟のように広がっている竪穴の底。そこにはおよそ二〇体のタキシムやデュラハンが跋扈していた。

 平素であればなんでもない数に敵だが、ここは竪穴の底だ。

 俺の魔術は土を、大地を操るものだ。あまり大きな技を使うと、竪穴が崩落してしまう可能性もある。樹の根で程よく掻き混ぜられた土は、そう盤石なものとは言いにくい。

 せっかく助けに来たというのに、自分の技の巻き添えにしちまったら本末転倒だ。

 こいつらの排除は、なるべく小規模に行うのがベターか。


「……とはいえ、許して見逃すって選択肢はねぇけどな」


 俺に表情があったなら、にやりと不敵に笑って見せていただろう。

 こちらの敵意を嗅ぎ取ったのか、デュラハンの一体が剣を携えて向かってきた。

 確かこいつらは、森で死んだ人間の死体に取り憑いているんだったか。だったら、ちまちまダメージを与えても仕方がない。倒す、という考えではなく、止める、という意識で相手にするべきだろう。


「『泥濘の棘波(ヘルウェイブ)』っ!」


 足下の地面を操作し、鋭い棘を作り上げる。

 真っ直ぐに伸びたそれは、向かってきたデュラハンの脇腹に突き刺さる。鎧を貫通し、一体のデュラハンを地面に縫い付けることに成功した。

 よし、この手で行けるか。


「お前らには、言いたいことがあんだよなぁ……!」


 次々と地面に土の棘を生やし、デュラハンを、タキシムを拘束していく。

 慌てて逃げるような奴はいなかった。魔力で地形を探ってみたが、どうやら横穴は行き止まりのようだ。丁度いい。奴らには逃げ場さえ与えられていない訳だ。

 いや、そもそも逃げる必要がなかったのだろう。

 デュラハンも、タキシムも、この穴の底でじっと待っていればよかったのだ。獲物が落ちてくるのを。やり方は賢いが、その怠惰な姿勢は見習えない。

 こいつらの敗因はふたつだ。

 自分たちでは手に負えない奴が、あなぐらの底へ降りてくるのを想定していなかったこと。

 そして――


「なぁに俺の仲間に、手ぇ出してくれてんだよ! 死体風情がぁっ!」


 ハサンを、手にかけようとしたこと。

 俺を、敵に回したことだ。

 二〇体程度のデュラハンたちを、残らず棘で串刺しにする。最早その場から動けるものはいないだろう。俺は最後の仕上げに入る。


 魔力を地面に注ぎ、イメージする。

 脆い竪穴の中、一歩間違えば俺たちが生き埋めになってしまう。

 だったら、地面だけじゃなく、地盤そのものを操ればいい。

 こいつらの墓にしちゃ、上等が過ぎるがな。

 やがて、ごごごご、と地面の下から唸りのような音が鳴り始めた。

 やることは至極単純だ。

 デュラハンたちが根城としていた横穴を、地盤ごと握り潰す!


「――――『地盤合掌(テンプルブレイク)』っ!」


 瞬間、デュラハンたちの悲鳴が聞こえるようだった。

 奴らはせり上がってきた地面と、落ちてきた地面。その双方に潰され、残らず埋没された。

 もはや、その場所に横穴があったかどうかさえ、定かじゃない。

 人骨の敷き詰められた底床一つ残して、横穴は埋められてしまった。


「ふぅ……終わったか。案外呆気ないな」


「……そりゃ、呆気なくも思うわよ」


 と。

 俺に声をかけてきたのは、ぐったりと座り込んでいるハサンだった。

 彼女の脚を懸命に治療するポルトがいるおかげで、ハサンの足下だけ妙に明るい。顔も多少照らされてはいるが、ほとんど影になっていてよく見えない。

 しかし、その声の調子は、どこか笑っているようだった。


「私は、散々苦戦して死にそうだったっていうのに…………あなたは、いとも容易く倒しちゃうのね。しかも地面どころか、地形まで変えちゃうくらいの大技で。…………すご過ぎて、もう言葉にならないわ」


「言っただろ? お前は俺たちの、大事な仲間だって。それに手ぇ出したんだ。落とし前はきっちりつけてもらうよ」


「……怖い人ね」


「なぁに、それほどでもねぇよ」


 言って、俺はハサンの方へ近づいていく。

 傷の具合は…………うん、順調みたいだ。もうほとんど塞がっている。

 魔力=生命力を分け与える、か……。ポルトの魔術は光ばかりで応用が利かないと思っていたが、存外、有用な能力もあるらしい。


「…………ふぁ」


 と、ノエルが小さく欠伸をした。

 もう日が落ちてから大分経つ。それでなくとも、寝入り端に起こった事件だったし、ノエルが眠くなるのも当然の帰結だった。敵がいなくなり、緊張が解けたことも影響しているだろう。


「さて、さっさとこんなあなぐらから脱出しようぜ。ただでさえ暗い森だっていうのに、これ以上暗いのは御免だ。ハサン、歩けるか?」


「ん……そうね。多分、大丈夫よ」


「大丈夫じゃないよ本当は! まだ治り切ってないんだから、無茶禁止!」


 一端の医者みたいなことを言うポルトだった。

 まぁ、最悪俺が負ぶればいいんだし、どっちにしても大差ないんだけどな。


「んじゃ、『大地の蠢動(グランドムーブメント)』で地表まで上がるから、ハサンは俺に掴まって――」


 と、地上への脱出を試みようとした、その時。

 からん――――と、音が鳴った。

 足下から、乾燥した音が響く。それも、その音はどんどん大きくなり、まるで地面全体が鳴いているかのようだった。

 地面、いや違う。

 あなぐらの底に敷き詰められているのは、大量の人骨だ。

 それらがからからと、笑っているかのように鳴り響く。

 ――――不味い。

 俺は直感的にそう思い、即座に指示を飛ばした。


「ハサン、悪いがちょっと無理してもらうぞ! 今すぐ『風神の蠢動(ウィンドムーブメント)』を頼む!」


「っ、分かったわ!」


 俺に掴まって立ち上がったハサンが、魔力を俺に送り込んでくれる。

 魔力を身体に纏うイメージ――――竜巻を身に纏い、俺の身体がふわりと浮き上がる。

 ノエルを負ぶり、ハサンを身体にしがみつかせ、俺たちは竪穴の底から脱出する。

 地上に出た、その瞬間。


「GUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!」


 それは、雄叫びだった。

 無数の骨がからからと音を響かせ、腐り滅びた声帯の代わりを為す。

 ポルトが指先に灯した小さな光。それに照らし出されたのは、信じがたい光景だった。


「な、なんだぁこりゃぁっ⁉」


 思わず頓狂な声を上げてしまう。

 しかし、それも無理がないだろう。

 俺たちの目の前に現れたのは――――巨大な、骸骨だった。


 地中から現れたのは、巨大骸骨⁉

 次回の更新は来週の22時頃予定です。お楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ