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かかしに転生した俺の異世界英雄譚  作者: 緋色友架
第4章 死の森編
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第63話 ノエルの涙

 今回までハサン視点です。


 ――――私は、夢でも見ているのだろうか。

 暗闇でよく見えないけど、そこにいるのは紛れもなく、アルレッキーノだった。

 地面を操り、私を助けてくれたのも。

 私を、勢いよく叱り飛ばしてくれたのも。

 何分も離れていた訳でもないのに、いやに懐かしく感じる。もう二度と会えないと思っていた、その感情が時間の感覚を捻じ曲げる。


「ハサンっ! 無事っ⁉ なんともない⁉」


 大声を張り上げてやってきたのは、全身から光を放つポルトだった。

 特に指先の光が強い。ポルトの光魔術、『ヘスダーレン』だろう。彼女がこの暗い森の中を照らしてきてくれたのか。

 そして、アルレッキーノの背中から、少女が一人、降りてくる。

 黒髪が夜に映える彼女は――――ノエルだ。

 ……目を合わせられない。

 そんな資格は、私にはない。

 だって、私は、ノエルに酷いことを――


「っ、ハサン! 怪我してる! 大丈夫⁉」


 と。

 がばっと、ノエルは私の方まで駆け寄ってきた。

 足下を埋め尽くす人骨なんて、まるでないかのように。

 暗闇に、大量の死体。そんなのを見慣れる道理のないノエルは、きっと怖くて堪らない筈だろうに。

 そんなの全然見えていないかのように、ノエルは私の方へ寄ってきた。

 はね退ける元気もない。安堵した身体は、容易く痛覚を受け入れ、脚の傷の痛みを訴えてきた。


「……なんで、来たの……?」


 口を衝いて出るのは、憎まれ口。

 本当は、そんなことを言っちゃいけないって、分かっているのに。


「私は――――もうあなたたちと、旅をする資格なんてないのに」


 そんなこと思っていない。

 もっともっと、あなたたちと一緒にいたいのに。


「私は、ノエル、あなたに酷いことを――」


 そうだ、言ってしまった。

 私は、もう許されないことを――


「ハサンの――――バカっ!」


 ぱぁんっ、と。

 夜の闇に、快音が響いた。

 ぶたれたのだ。

 ノエルが、その小さな手で私の頬を、はたいたのだ。

 予想外の一撃に、私は放心する。その隙に、ノエルは私の肩を掴み、ぐわんぐわんと揺らしてきた。


「バカっ! バカバカバカバカ! なんでそんなこと言うのっ⁉ なんでそんな、嘘ばっかり吐くのっ⁉」


 叫びながら、怒りながら、彼女は泣いていた。

 つーっ、と涙が頬を流れる。綺麗な、透き通った涙だ。


「……なんで、あなたが泣いてるのよ」


 分からなかった。

 私に酷いことを言われたから? 私のことを恨んでいるから?

 どれも違う気がした。そんな怒りや憎しみから出た涙じゃないと、直感できた。

 でも、だからこそ分からない。

 ノエルがなんで泣いているのか――


「ハサンは――――わたしたちの仲間だよ。誰がなんて言っても」


 ハサンが、望んでいなくっても。

 ノエルは、噛み締めるように言葉を吐いた。


「仲間の無事を喜ぶのは、当たり前だよ。ハサン、そんなことも知らないの?」


 泣きながら、ノエルは笑っていた。

 あぁ、やっと分かった。分かってしまった。

 この子は、喜んでいたのだ。

 私と会えて。私を助けられて。

 ……酷い理屈だ。望んでなくても仲間だなんて、めちゃくちゃが過ぎる。

 なのに、何故だろう。

 私まで、涙が止まらなくなってくる。


「……知らないわよ。そんなの。私、だって、仲間なんて、いなかったんだから」


「じゃあ、今から仲間。仲間なの。誰がなんて言って反対してもダメ。ハサンは、私たちの大切な仲間なんだから。もうひとりで、勝手にどっか行っちゃダメだよ? 分かった?」


「……ノエル」


「なに?」


「……ごめんなさい。酷いことを言ったわ」


「ううん、いいの。わたしこそ、ごめんなさい。ハサンが、言われたくないことを言っちゃった」


「…………」


「喧嘩したら、ちゃんと謝って終わりにするって、ポルトが言ってたの。だから、わたしも謝るの」


「…………そうね。喧嘩、両成敗ね」


 二人で額を合わせて、思わず笑ってしまう。

 あぁ、温かい。

 今までの冷たい私が、どこかへ融けて流れていってしまうようだ。

 私は、ここにいていいんだ。

 この子たちと、仲間でいていいんだ。

 そう思うと――――身体から、思わず力が抜ける。ぐらぁ、と傾きかけた身体を、ノエルが支えてくれた。


「っとと。ハサン、大丈夫?」


「大丈夫じゃないよ! 脚に大怪我してんじゃんか!」


 ノエルの横から、ポルトが飛んできて喚き始める。

 脚…………そうだ。デュラハンに矢で射られ、タキシムに噛みつかれた傷が……。


「早く治療しなきゃ! あたしの光魔術でなんとか…………アルレッキーノ! 明るさ下がっちゃうけど、平気⁉」


「正直痛いが……まぁ、なんとかなるだろ。そっちは任せたぜ、ポルト、ノエル」


「……アルレッキーノ」


 デュラハンとタキシムの大群に、彼は臆することなく立ち向かっていく。

 喋って動けて、魔術まで使えるかかしだけど。

 でも、そんな道理、ないんじゃないの?


「なんで、あなたも……私を、助けてくれるの? ノエルに言われたから? それとも――」


「あぁ? 決まってんだろそんなこと」


 竪穴の形が、歪に変じていく。

 周囲の土が動き、巨大な手が出来上がる。その操作権を握るアルレッキーノは、私に背中を向けたまま言った。


「お前が、俺の仲間だからだよ。分かったら、これ以上下らねー質問すんじゃねぇぞ。分かったか?」


 ――――あぁ、これはもう、ダメだ。

 今までの私が、知らない世界だ。気づけなくて、ないものとして見ていた世界だ。

 私のことを、単純に仲間だからと、助けてくれる人たち。

 そんな人たちの下を、去れる訳がなかった。

 だってどんなに逃げても、この人たちは必ず追いかけてくれるだろうから。

 そのことが、止め処なく、嬉しかった。

 嬉しくて嬉しくて、涙が止まらなかった。


「……あり、がとう……!」


 誰にも聞こえないくらい、小さな声で呟いたそれに。

 三人は一斉に、笑ってくれたような、そんな気がした。


 パーティ、再集結!

 次回更新は来週の22時頃を予定しています。どうぞお楽しみに!

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