表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かかしに転生した俺の異世界英雄譚  作者: 緋色友架
第4章 死の森編
61/67

第61話 地獄の竪穴

 今回はハサンの視点です。


 何メートルくらい落ちただろう。

 ずきりと痛む頭。背中。脚。

 痛覚が正常に働くということは、私はまだ生きているらしい。

 いつ死んだところで同じだというのに――――生き汚く私は、また生き延びてる。


「…………ここは」


 身体を起こし、辺りを見回そうとする。


 ――――瞬間、鋭い痛みが脚を襲い、歯を食い縛る。

 見てみると、深々と矢が突き刺さっている。さっき私が墜落させられたのは、幻覚でも夢でもなく、現実だということが分かった。


 しかし、こんな密林で、唐突に矢?


 仮にも『死の森』と銘打たれる場所だ。人間なんて住んでいないだろう。そして弓矢を操る魔物なんていう者も、寡聞にして聞いたことがなかった。


「……っ、この程度、我慢できる……!」


 矢を掴むと、ぎゅっと目を瞑り、思い切り引き抜いた。

 肉も骨も綯い交ぜにされるような、激烈な痛覚。思わず声を上げそうになったが、奥歯で噛み殺して矢を放る。ローブの端を千切り、脚に固く結びつける。

 取り敢えず、これで止血はできるだろう。

 あとは、この森から脱出するだけだ。


「……ここは、どうやら竪穴の中ね」


 樹々の隙間から漏れて差し込んでくる月明かり、それだけが頼れる光源だった。

 でも、それでも十二分なほどに、私は山賊としての生活に慣れ切っていた。闇夜に紛れ、人を襲い攫い犯し喰らう。山賊にとって夜の闇は商売道具だ。


 痛む脚を引きずりながら、その場に立ち上がる。

 がらん、と足場が崩れる。


 下を見れば、竪穴の床板を任じられていたのは、大量の人骨だった。


 長い間雨曝しになっていたのだろう。中には苔が生え、樹木の芽が出ているものさえある。

 こんな光景を、ノエルやポルトには見せられないだろう。


 ――――いや、関係のないことだ。


 今や私に、あの子たちのことを考える権利さえない。

 私は、それだけの罪を犯したのだ。

 否、最初から私は罪人だった。

 あの子と出会った時から、あの男と出会った時から、とっくの昔から。

 山賊として、罪深く生きてきたのだから。

 最初から、あの子の傍にいる資格さえなかったのだ。

 それをなあなあで誤魔化してきた、そのツケを今払うだけだ。


「……早く行こう――」


 再び脚に風を纏い、空へ浮かぼうとする。

 その、瞬間。

 何者かががしゃがしゃと音を立て、私めがけて突進してきた。


「――っ⁉」


 我ながら肉付きの薄い身体は、容易く吹き飛び、簡単に壁際にまで追い詰められる。

 鎧のような、ゴツゴツとした手が私の首を絞める。

 一体誰が――――何者なの? こんな森の中で。


「っ、ど、っけぇっ‼」


 怪我をしていない方の脚を振るい、それを思い切り蹴りつける。

 がちゃぁんっ、と皿が割れたような金属音が響く。全体重を乗せた蹴りは、辛うじてそれを後ろへ下がらせることに成功したようだ。

 再び地面に足をつけ、痛みを口の奥で噛み殺す。

 一体なにが、自分を襲ってきているのか。

 僅かな月明かりに照らされたそれは――――首のない、鎧騎士だった。


「人間の…………死体?」


 自分で口にして、その言葉にはっとする。


 聞いたことがある。人間の死体に取り憑き、自在に操る魔物がいるのだと。

 一定の形を持たないそれらは、取り憑く人間によって名前を変える。ただの人間の死体に取り憑けばタキシム、鎧騎士に取り憑けばデュラハンと。そしてデュラハンは、生前の知識を身体から得、弓矢や剣を操ると。


 よく見れば、蹴り飛ばしたデュラハンの足下に、弓矢らしきものが転がっている。

 私を狙撃したのも、こいつの仕業か。

 聞いた話では、タキシムやデュラハンが人間を襲うことに、理由はないそうだ。ただそれがそうであるように、本能の一環として人間を襲うのだとか。


 目の前のこいつにとって、私は本能に組み込まれた一つの因子に過ぎない。

 ただ目の前にいるから、殺すだけ――――そんな、動物の餌のような存在。


 …………気に食わなかった。


 否、気に食わないと言えば、この世の全てが気に食わない。私を売り飛ばした家族も、私を犯し尽くした山賊も、私を助けなかったこの世の全部も、同じように。

 餌場に飼料を撒かれたから、なにも疑わずに餌を喰らう豚と同じように私を殺そうとしてくるこいつも――――気に食わなかった。


 私の命なんて、屠殺される豚の餌と同じって訳?

 そう思うと、無性に腹立たしかった。

 一矢報いてやりたくなった。


「……いいわよ、やってやろうじゃない」


 がちゃん、がちゃんと音がする。

 ……どうやら、デュラハンはこの一体だけじゃないらしい。竪穴から伸びる横穴、その向こうに大量のデュラハンとタキシムの姿が見えた。


 だからといって、逃げに転じられるほど、私の矜持は低くなかった。

 寧ろ余計に、気に食わなかった。

 要は天邪鬼なんだろう、私の場合。

 生きたくもないくせに、死にたくもないから。

 死を目前にすると、無性に生きたがってしまう。


「……私は、ハサン。『慰み者のハサン』」


 ナイフを抜き、そこに風を纏わせる。

 私を殺したがっているなら、精一杯反抗してやる。

 私を殺したがっているなら、生一杯抵抗してやる。

 誰が、お前たちなんかに殺されるものか。

 死ぬことまで、お前らなんかに邪魔されたくはない!


「私の死に、あなたたち程度じゃ力不足よ。反対に、殺し返してあげるわ」


 ハサンの反抗が始まる……?

 次回の更新は1週間後の22時頃を予定しています。どうぞお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ