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かかしに転生した俺の異世界英雄譚  作者: 緋色友架
第4章 死の森編
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第57話 束の間の休息


「ふぅ…………こんなものでいいかな?」


「あ、アルレッキーノ……まだ、『ヘスダーレン』、続けなきゃダメ……?」


「おいおい、もう少し踏ん張ってくれよ。洞穴ができたら、お前には火起こしって重要な役目があるんだから」


「ひぇええ…………あ、あたし、もう魔力すっからかんだよぉ……」


「アル、ポルト、がんばってー!」


「ノエル、大声出さないの。アルレッキーノ、あとどれくらいかかりそう?」


「もうほぼほぼ完成だよ。そっちも、薪になりそうなものは集めてきてくれたか?」


「抜かりはないわ。山賊時代は散々火起こし役を任されていたしね」


 俺たちが話しているのは、巨大な岩盤の前。

 そこに俺が魔術で少しずつ、音を立てないように穴を掘っていく。ちまちまとした、地味な作業だ。もう一時間ほどは続けているだろうか。日はすっかり暮れ果てて、元より視界の悪いこの森は、既に真っ暗闇に覆われてしまっている。


 傍らには、作業の進捗状況を照らす照明係のポルトが。

 背中には相変わらず、ノエルが呑気に負ぶわれている。

 今し方、足音を完璧に失くして戻ってきたハサンは、葉っぱや小枝など、焚火をするのに不可欠な材料を揃えてきてくれた。


 野営の準備は、徐々に整っていく。


 ハサンが手際よく材料を並べていき、そこにポルトの光魔術を照射し続ける。すると、熱エネルギーがいつしか煙を上げ、やがて火が起きる。


 作業開始から一時間ちょい。ようやく俺たちは、今日の寝床に腰を落ち着けることができた。

 まぁ、俺は相変わらず立ちっ放しなのだが。


「あれから魔物に襲われることもなかったし、思ったよりは楽な道中だったな。それもハサン、お前が気配を消す方法を教えてくれたお陰だぜ」


「うん、ちょっとあの魔物、アル一人じゃ難しそうだったもんね。かたそうだったし。ハサン、えらいえらいー」


「……子供扱いはやめてくれるかしら? そんなことより、さっさと食事を済ませてしまいましょ。薪のついでに、きのこや木の実も拾ってきたわ」


 ノエルに頭を撫でられても無反応に、黒い外套からごそごそと、大量の食糧を取り出すハサン。


 俺だったら、ノエルにあんなことしてもらったらそれだけでどんな魔物でも駆逐し尽くしてやるほどハッスルするんだがな。まったく、ドライな奴だ。


 木の実はそのまま、きのこは木の枝に刺して火で炙って食べる。


 人間時代の味覚が恋しく思うこともあるが、今の腹が減らないかかしの身体も便利は便利だ。集める食糧が一人分、節約できるんだしな。なんで動いているのかはよく分からんが、とにかく飲まず食わずでも生きていけているのだから、良しとすべきだろう。


「……アル、食べる?」


 と。

 ノエルが不安げな瞳で、俺に木の実を差し出してくる。

 かかしの俺が、物を食わないのは承知だろうに。…………ひょっとして、気を遣ってくれているのか?


 ……本当、いちいち柔いところをついてくるなぁ、この娘は。


「大丈夫だぜ、ノエル。お前こそ、腹減ってるだろ? しっかり食いな。明日も、この陰気な森を歩かなきゃいけないんだからな」


「……ん、分かったの」


「よし。んで、道程の方はどうなりそうだ? ハサン」


 口元を布で隠しつつ、器用に柔らかい木の実を口に運んでいるハサンに声をかける。

 ハサンは表情一つ変えず、クールに答えてきた。


「今のところ、進度は半分弱といったところね。順調に行けば、明日の夕刻頃にはこの森を抜けられるわ。その先がどうなっているかまでは、あの狸親爺、教えてくれなかったけれど」


「道もちゃんと覚えてくれてるんだよな? なら安心だ。いやぁ、どっかの誰かさんは道を派手に間違えてくれやがったからなぁ」


「ヘーソーナンダーダレダローネー」


「現実から目ぇ逸らすなよポルト。お前もこれを機会に、少しは道を覚える練習をしたらどうだ?」


「あ、あたしにそう言う、ズノーロードー? は向かないと思うんだよね! だからこれからもハサンをばっちり頼るから! そこんとこよろしくね!」


「開き直んなよ……」


 まったく……まぁポルトのお陰で村一つ救われた訳だから、そう責めるのも違うとは思うのだが。


 ふと、ハサンの方へ目をやると。

 彼女は珍しく、耳を微かに赤くしていた。


 いや、焚火の近くだから、そう見えただけか? 本人は素知らぬ振りで、火が通ったきのこを、口元の布の中へ押し込んでいっている。


 ……気の所為かな?


 気配を殺すというのは、存外気を遣うのだ。俺もすっかりばててしまった。複数で一気に襲ってこなかったら、一匹ずつ襲ってきてくれたなら、素直にぶっ倒せてすっきりできたというのに。

 かかしの俺でさえ疲れているのだから、人間のハサンやノエルは相当以上だろう。

 今日はもう、早めに寝かせた方がいいな。


「はぁ……取り敢えず、見張りは俺がやっとくから、三人は夜の内にしっかり寝といてくれ。昼間の疲れを、しっかり取っとかねぇとな」


「……寝ずの番って訳? 私も夜の番くらい――」


「ハサン、お前は人間だろ? 俺はかかしだ。寝食を必要としない俺が、お前らのカバーをするのが一番合理的だろ?」


「……でも、それじゃ私……」


「いいから、気にしないでゆっくり寝な。経験上、疲れ過ぎちまってるとなかなか寝付けないかもだがな」


「…………本当に、いいの?」


「いいんだよ。ほら、飯食ったら火だけ残して、とっとと寝ちまえ」


 全身が重いような倦怠感はあるものの、不思議と眠気はない。

 疲れが一周回ってハイになっているのか、それともかかしの身体というのはそういうものなのか。いまいち分からないけれど、視界さえ確保できてりゃそれで充分だ。

 魔物が万一襲ってきたら、俺が魔術でぶっ倒してやる。

 仲間たちを守るのは、俺の義務だ。


 そんな気持ちで番を始めてから、数十分後。


「……ねぇねぇ、ハサン」


 ひそひそと、隠しているつもりであろう小さな声が聞こえてきた。

 背後から聞こえるそれが、ノエルのものであるのはすぐに分かった。まだ寝ていないのか? 食事はとうに終わったというのに…………いや、やっぱり疲れ過ぎて寝付けないのかもしれない。


「なによ。私、もう寝るように言われているのだけど」


 応えるハサンの声に、しかし眠気なんて一ミリも混ざっていない。

 やはり、ハサンも相当神経を使っていたんだな。逆に目が冴えてしまったであろう二人は、俺に聞こえないようにしているつもりなのか、ひそひそ話を始めた。


「うーんとね? なんか、眠いんだけど、眠くないの。困っちゃったの」


「そう。奇遇ね。私も、寝なければならないのに、誰かさんが話しかけてきたお陰で眠れなくて困ってるわ」


「ちょっとお話ししようよ。アルに聞かれると怒られちゃうから、小さな声で、ね?」


「……理解できなかったかしら? 私、もう寝なきゃいけないって言ってるのだけど」


「お願い、ちょっとだけ。ちょっとお話ししたら、わたしもちゃんと寝るから。ね?」


「…………」


「それに、ハサンとはあんまりお話しもできてなかったし、いろいろおしゃべりしたいの」


「…………本当に、ちょっとだけよ?」


「うん、約束ね」


 えへへ、とノエルが笑う。

 ……言われてみれば、ノエルとハサンが二人で会話しているのって、見たことないな。そこそこの日数一緒にいる筈なのに。

 まぁ元々、ハサンはノエルを食糧目当てで攫った前科がある訳だし、気を遣っていたのかもな。


「で、なにを話すっていうのよ。私とあなたの間に、共通の話題なんて――」


「えっとね……じゃあ、家族の話。わたしね、家族を探すために旅をしているでしょ? だから、その家族がどんな家族なのか、ハサンにも知っておいてほしいの」


「……家族?」


 ぴくっ、と。

 空気が冷えるような、奇妙な感覚が全身を走った。

 なんだろう、凄く不味いような。

 もし俺が普通の人間だったら、冷や汗を禁じえないであろう悪寒が。

 だが、ノエルはそんな空気を微塵も読まずに、話を進めていく。

 きっと、開けてはならないパンドラの箱を、躊躇なく開けてしまうかの如く。


「わたしの家族はね、とっても素敵なんだよ。世界で一番の家族だと思うの」


 嬉しそうに語り出す、ノエルの前で。

 ハサンが微かに身を起こしたのを、俺の耳は、聞き逃さなかった。


 ほのぼの……の筈なのに、どこか不穏な雰囲気……?

 次回更新は来週の22時頃を予定しています。お楽しみに!

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