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かかしに転生した俺の異世界英雄譚  作者: 緋色友架
第4章 死の森編
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第54話 頼りない道案内Part2


 結局、ニッケル村の魔物討伐を祝う宴は、三日ほど続いてしまった。


 なにしろ太陽光の一切差し込まない、各々の体内時計だけが頼りの村なのだ。一体いつ夜が明けたのか、いつ朝が終わったのか、誰も確認に行かないものだから、ずるずるだらだらと祝宴は続いた。村人も俺たちも、好き勝手な時間に寝て、好き勝手な時間に起きてはまた宴に酔っていた。


 で、三日目の朝になって、ようやく食糧が底をついて、宴はお開きとなったのだった。


 ……はっきり言って、この村この先大丈夫か? と不安になる体たらくではあったけど。


 きっと、それだけ嬉しかったのだろう。


 ニッケル村はもう、夜な夜な訪れる魔物の襲来に怯えることはない。

 一年に五人もの、尊い命を犠牲にする必要だってない。

 恐怖という束縛から解放され、有頂天になる気持ちは、分からないでもない。


 実際、俺も祭り上げられて嬉しかったのは否定できないしな。

 口では『気にするな』『当たり前のことをしたまでだ』と言ってはいても、やはり内心はうきうきしていた。もっと有り体に言ってしまえば、気持ちがよかった。

 だから、宴が三日間ぶっ通しで行われていることを知りつつも、それを言い出せないでいた。

 こんな時間が、いつまでも続けばいいのに、なんて思ってたりしていた。

 しかし、そうも言ってられない。俺には、ノエルの家族を探すという目的がある。

 このニッケル村がそうだったように、この世界じゃいつ魔物に襲われても不思議ではない。ノエルの家族にしたって、それは同じことなのだ。善は急げというし、旅路を急ぐに越したことはなかった。場所の当てだってないのだから、なおさらだ。


「ふはぁ…………おなかいっぱいだよぉ。しあわせぇ」


大地の蠢動(グランドムーブメント)』を発動させ、森の入口まで向かう道中。


 腹をぱんぱんに膨らませ、幸せそうに顔を蕩けさせているノエルが、俺の背中で呟いた。


 俺の脇に立つハサンも、食事はたっぷり堪能したらしく、いつもは気にしない癖に、今日に限って外套で腹を隠している。乙女心というやつだろうか。俺は健康的でいいと思うんだがねぇ。


 彼女の肩の上には、これまた分かりやすく腹を膨らませたポルトが横たわっている。ってか凄いな、まるで臨月の妊婦だ。一体どれだけ食えばここまで腹が膨らむんだか。


 こんな体たらくの俺たち一行だが、それでもニッケル村から出発する際は凄まじいものだった。村人総出で見送りに来て、何百メートル離れてもなお聞こえる『ありがとう』の連呼だ。今でも耳を澄ませば聞こえるかもしれない。


 ――――さて、次なる俺たちの目的地だが。


「ポルト。お前そんな状態で大丈夫か?」


「んー……? 大丈夫って、なにがー……?」


「なにがって…………これからもう一度エイセンに会って、今度こそ、ちゃんとした森の抜け方を教えてもらわなきゃならねぇんだぞ?」


「っ! え、エイセンに⁉ また会うの⁉」


 寝惚けてやがるのか、こいつは。

 三日前、あの得体の知れない魔物を倒した後に決めたじゃないか。俺とハサンの魔術じゃ、どうあってもあの崖を無事には越えられない。ポルトの道案内も相当怪しいものだったし、もう一度エイセンに正しい道を訊きに行こうと。

 祝宴ではしゃぎ過ぎた所為か、すっかり忘れていたらしい。

 便利な脳味噌だよ、まったく。


「む、無理だって! だってあたしは、エイセンから森に入ることを禁じられているし…………そ、それにほら! ハサンだって言ってたじゃん! 森に入ったら、すぐエイセンに察知されて、エントたちが襲ってくるって! そんな森に――」


「あぁ、それだけど……別に、私とアルレッキーノの魔術で、エント程度なら相手できるのよね。よくよく考えたら」


「んなっ⁉」


「だから問題なのは、エイセンの下まで、果たして辿り着けるか、っていう問題なのよね」


 ハサンが肩を落とし、溜息を吐く。

 まぁ、そうだよな。それは確かに問題だ。


「そんなことより、もっと色々問題あるよ! エイセンに会った時、あたしはどれだけ叱られるか……!」


「だからそのエイセンに会うまでが難問なんでしょ。ポルト、あなた、四日前に自分がどんな道を歩いてきたか、覚えているの?」


「…………あー」


 急に呆けた声を出したポルトは、にまぁ、と唇を吊り上げた。

 笑いを堪えているつもりなのだろうか。寧ろ笑いを誘うその表情は、まるでピエロだ。尤も、招くのは失笑なのだが。


「あっちゃー。そういえばそうだなー。あたしってばおバカさんだから、四日も前のことなんか覚えちゃいないなー。況してやあんな入り組んだ森の順路なんて、遥か記憶の彼方だなー。いやー残念残念。これはエイセンに会うのなんか諦める他ないなー」


「…………あなた、叱られずに済みそうで喜んでない?」


「まっさかー。そーんなことある訳ないじゃーん」


「あっそ。……でも、どうするの? アルレッキーノ。さすがに私も、なんの目印もないあの森でどう歩いたかなんて、覚えていないわよ?」


「あぁ、その点についちゃ心配要らねぇよ。俺が探すから」


「探す?」


「あぁ。森全体に魔力を行き渡らせて、エイセンの魔力を探せばいい」


 いつだったか、ノエルが山賊に攫われた時に使った手法だ。

 あの『惑いの森』がどれほどの面積かは知らないが、ポルトは、エイセンが森全域に魔力を行き渡らせていると言っていた。一魔物の魔力量でできるなら、底なしの魔力を持つ俺ができない道理はあるまい。


「そ、そっかー…………で、でもなー、そんな上手くいくものかなー……?」


 俄かに、ポルトが焦り出す。

 本人は隠しているつもりだろうが、身体は嘘を吐けない。額には脂汗がびっしりと流れているし、瞳孔も開きまくっている。……きっとこいつは、死ぬまで嘘を吐けないだろう。分かりやす過ぎる。


「なんだよ、ポルト。お前、俺の力が信じられないっていうのか? 自慢する訳じゃないが、俺は魔術と魔力量に関しちゃ、ちょいと自信があるんだぜ?」


「そ、それは知ってるけど……」


「まぁ、仕方ないわな。大人しく叱られる心構えでも作っとけよ」


「…………う、うわーっ! やっぱり嫌だーっ! あたし、この世で一番嫌いなのは怒られることなんだよ! 頼むから、ねぇ、他の道を探してみようよ! アルレッキーノならできるって! ね? ね? ね? お願いだからぁっ‼」


「残念だが、俺もそこまで万能じゃねぇよ」


 恨むんなら、自分のお粗末な記憶力を恨むんだな。

 その後もぎゃあぎゃあ騒ぎまくるポルトを無視して――――俺達は、森の入口へと向かっていくのだった。







「…………もう、好きにして……」


 ほどなくして、俺たちは四日前と同じ、森の入口まで辿り着いた。

 いや、正確には出口、なのかな? より正確を期すなら、禿山と森の境目というべきか。

 相変わらず森の方は鬱蒼と樹々が茂っており、昼間だというのに薄暗い。これはまた、ポルトの光魔術に頼らざるを得ないかな?


「好きに、好きにすればいいじゃない! こんな木っ端妖精の命なんて、好きにすればいいわもう! 煮るなり焼くなり、お好きになさって!」


「アルー。木の実ちょっと食べていい?」


「朝にあれだけ食っただろうが……。せめて昼時までは我慢しろ、ノエル」


 ノエルが、俺の肩(?)から下げられたショルダーポーチに手を伸ばしてくる。

 これは村長の孫娘が、祝宴の三日間の内に作ってくれた手製の品だ。家畜の皮を鞣したものを使っており、非常に丈夫にできている。木の実やきのこを大量に入れても、壊れる心配はない。いやぁ、こういうのが欲しかったんだよな。いつまでもハサンに荷物係を任せっ切りにする訳にはいかないし――


「無視するなーっ!」


 と。

 絡むと面倒そうだから放置していたポルトが、とうとう自分から絡みに来た。


「気にしなよ! 気にかけようよ! 大事な仲間がこんなに沈んで、自棄になってんだよっ⁉ そこは気にしてあげるのが優しさってやつでしょうよ! なんで無視して話が進んでんのさ⁉」


「いやぁ、だって…………面倒だったし」


「はっきり言われたーっ⁉ 面倒だってはっきりと、面と向かって言われたーっ‼」


 よほどショックだったのか、ポルトはハサンの肩に乗ったまま泣き出してしまった。

 うわぁ……やっぱ面倒臭かった。

 仕方ねーじゃん。他に行く道の当てなんてないんだし。俺だってこんな陰鬱な森に戻るのは不本意だが、現状、他に手掛かりがないのだから致し方ない。


「よしよしだよー、ポルト。ほら、木の実あげるから泣き止んでー」


「優しくしないでぇっ! 今、今優しくされたら、好きになっちゃうからぁっ!」


 なにやらコントじみたやり取りまで始まってしまった。

 というかノエル。いつの間に俺のポーチから木の実を掠め取った。怒らないから正直に言いなさい。


「……幼児二人は放っておくとして、アルレッキーノ」


「分ぁってるよ。もう探し始めてる」


 俺まで茶番劇のキャストに数えられちゃ世話がない。

 鋭い目で睨みつけてくるハサンに、俺はぶっきらぼうにそう返した。彼女はそれ以上、追究しようとはしない。軽口を叩くこともせず、肩に乗るポルトからも目を逸らしている。


 ……もう少し打ち解けてくれないものかねぇ、ハサンも。


 まぁ、仲間になった経緯が経緯だからなぁ。過去のこともあるし、なかなか俺らに心を開いてくれないのも分かるっちゃ分かるんだが…………もう結構一緒にいるのだし、いつまでも打ち解けられないのもなんだか物悲しい。


 そういう空気を読まない奴も、俺の背中にゃいるんだが。


 ――――で、エイセンの捜索だが、正直に言えば難航していた。


 なにせ、森中にエイセンの魔力が広がっているのだ。酷く微弱なものではあるが、本体が紛れてしまっている可能性も捨て切れない。近場の魔力からいちいち検分して回っているので、結構な集中力を要する作業だ。

 こんなんじゃ、見つかるのはいつになることやら。

 ここまで来た時だって、大分歩いたしな。こりゃ最悪、禿山で一泊するのも覚悟で捜索しなければ――――と。


 そんなことを思い始めていた、その時だった。


「…………おい、ポルト」


「なにさー…………この哀れな女に、一体なんの用があるってのさー……」


「そういうのいいから。…………お前、俺たちをエイセンのとこからここまで案内するのに、何時間かかった?」


「へ? んー、お昼頃から夕方にかけてだから…………うん、結構かかったね」


「最高に頭の悪いご回答をどうも。ついでに言うとだな、ポルト」


「うん?」


 ポルトは不思議そうに首を傾げている。

 あぁ、俺も不思議で仕方ないよ。

 なんで……なんであの時は、あんなに時間がかかったのか、不思議で仕方ない。


「エイセンの奴、ここから歩いて数分の場所にいるぞ」


「…………、えぇっ⁉」


 うん、最高のリアクションをどうも。


 驚愕の事実、発覚(笑)!? 次回、ポルトは一体どうなってしまうのか?

 次回更新は来週22時頃! お楽しみに!

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