表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かかしに転生した俺の異世界英雄譚  作者: 緋色友架
第3章 死火山踏破編
51/67

第51話 万物を貫く槍


 山の頂上は、無残な姿を晒していた。

 半分ほどに面積を減らし、真ん中から痛々しく抉れている。岩が落ちていったのが、ニッケル村と逆方向でよかった。こんな巨大な岩が落ちてきたら、例え鉄のドームでも耐え切れなかっただろう。

 やっとのことで辿り着いたそこで、ハサンは体力を使い果たしたのか、力なく倒れた。


「ハサンっ! 大丈夫っ⁉」


「……平気、よ。少し休めば、大丈夫…………それより、アルレッキーノ。ポルト」


「あぁ、分かってるよ。お前が休んでいる間に終わらせてやる。ポルト、作戦は理解できてるな?」


「わ、分かったけど……でも、本当にできるの? あたしに、そんなことが――」


「お前じゃなきゃできないんだよ。――――さて、まずは奴の足止めだな」



「「「「「「「「「「GUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!」」」」」」」」」」



 眼下で魔物が吼えている。

神体発火現象(ドッペルゲンゲル)』を全て喰らい尽くしたのだろう。身体中からぶすぶすと煙を吐きながらも、魔物が倒れるような気配はない。やっぱ、あの程度の魔術じゃ足止めにしかならないか。


 奴を倒すには、もっと強力な魔術が必要になる。

 それを用意するには――――もう少し、時間が必要だ。


「これでも喰らってなぁっ!『根國女王の戯れ(ヒャッキヤコウ)』ぉっ!」


 足元の岩が次々に変貌し、巨大な腕となって魔物へと迫っていく。

 魔物はそれを、無数の眼球で素早く察知すると、避けることもせず、大きく口を開いて噛み砕いてきた。


 やっぱりか。


 あの魔物、『奴隷解放戦閃(エンドスレイブ)』や『神体発火現象(ドッペルゲンゲル)』に対しても、まったく同じアプローチを取ってきた。


 すなわち、魔術を喰らうこと。


 なら、俺の魔術に対してもそうするだろう。岩に込められた俺の魔力を喰らうために、岩ごと俺の魔術を喰うだろう。それは、予想できていた。


 けど、俺の魔術は今までの二つとは違う。

 さっきの二つの魔術は一回喰えば終わりだったが、俺の魔術は岩をどれほど喰おうと、この山全てがなくなるまで終わることはない!

 勿論、大量に食わせることが目的じゃない。

 距離を取ったまま、奴の脚を止めることこそが肝要だった。


「よしっ、第一段階は成功だ! ポルト、準備を!」


「で、でもあたし、ヤとかヤリとか言われたって、よく分かんないよ! どんなものなのか、見たこともないし……」


「じゃあ、エントだ! エントの枝や、根をイメージしてみろ! なるべく鋭い奴をだ!」


「わ、分かったよ!」


 俺の腕に触れながら、ポルトは目を閉じて念じる。

 同じように、俺もイメージした。あの硬い外皮を一撃で貫くほどの、鋭い槍を。貫通するほどの破壊力を有した、無双の矢を。


 ――――やがて、それは出来上がる。


 眩く虹色に光り輝く、巨大な弓矢。

 俺の手の先端には、いつの間にかそれが出現していた。ポルトが翳した手の先で、矢は今か今かと発射の時を待っているかのように蠢いている。


 いける!

 これなら、いけるぞ!

 光属性の魔力で作り出した、この技なら!


「いくぞっ、ポルト!」


「う、うん! やってみるよ‼」


 二人で息を合わせ、声を合わせて。

 渾身の力を込めて、矢を射る! 撃ち抜く!


「「『神体発火炎槍(ドッペルゲンガー)』ぁっ!」」


 勢いよく射出された、虹色の矢は。

 岩の腕の間をすり抜け、灰色の魔物の外皮を見事に貫いた!



「「「「「「「「「「GUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO⁉」」」」」」」」」」



 予想だにしなかったであろう攻撃に、魔物が吼える。

 その身体の真ん中には、光の矢が煌々と突き刺さっている。

 しかし、『神体発火炎槍(ドッペルゲンガー)』に集中してしまった所為で、俺の『根國女王の戯れ(ヒャッキヤコウ)』は動きを止めてしまっていた。魔物はただの岩の塊と化した拳に興味を示さなくなり、一直線に俺たちめがけて飛んできた。

 恐らくは、俺たちを喰らうため。

 滅茶苦茶に生えた翼を羽ばたかせ、魔物はあっという間に頂上まで到達する。


 ――――ここまで全部、予想通りだ。


「今だポルト! 繋げっ!」


「と、飛んでけっ!『ヘスダーレン』っ‼」


 作戦は既に第二段階まで成功している。

 あとは、最後の仕上げだけだ。

 ポルトが指先から光を飛ばし、俺の腕と、魔物の胸に突き刺さった光の矢とを繋ぐ。


 ――――『ヘスダーレン』は、魔力を直接光に変換する魔術だ。


 ポルトの魔力によって、俺と光の矢が直接つながり、魔力の(ライン)が出来上がる。

 か細い光の線に、思い切り魔力を流し込む!


 瞬間、突き刺さったままの『神体発火炎槍(ドッペルゲンガー)』は、一層眩い光を放った。

 いくぜ、これで終わりだ!


「『神体発火炎槍(ドッペルゲンガー)』――――『羅精門(コール・オブ・デス)』っ!」


 俺の魔力を注がれた『神体発火炎槍(ドッペルゲンガー)』が、ぶくぶくと大きく膨れ上がる。


 瞬間、魔物の身体から無数の矢が突き出してきた。


 身体の内部から、幾重にも串刺しにされた魔物は。

 悶えることも、悲鳴を上げることもできないまま、固まっている。

 これが、俺とポルトの繰り出せる、最大の必殺技だ。


 頼む、これで終わってくれ――――



「「「「「「「「「「GU、OOOO…………⁉」」」」」」」」」」



 微かな呻き声を上げたかと思うと。

 無数の翼を、顎を、牙を、腕を、脚を持った魔物は――――その場で風船のように破裂した。

 前にバジリスクを倒した時よりもっと大量の、眩いほどの魔力の粒が降り注ぐ。その魔力の粒さえ灰色で――――魔物は、跡形もなく消えてしまっていた。

 あの格子状の檻の欠片さえ、もう残ってはいない。


 勝った、勝ったのか…………?

 俺たちの、勝ち……?


「お、終わったか…………!」


 達成感と、大量の魔力を失ったことによる虚脱感。

 俺は二つの感情の波に押し倒されるように――――ぐらぁ、と身体を傾けていた。


 謎の魔物、ついに撃破……⁉

 次回更新は来週の22時頃! お楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ