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かかしに転生した俺の異世界英雄譚  作者: 緋色友架
第3章 死火山踏破編
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第49話 災厄の誕生


 鋭い爪跡が、岩肌に刻まれる。


 灰色の箱を掠めるような、ナイトゴーントの一撃。無残に抉れた地面が痛々しく爪の跡を見せつけてくる。


 そこには、そこにはさっき。

 ポルトが……あいつが、いた筈だ。

 だって、だってあの方角から、『ドッペルゲンゲル』の火球がぶつけられたのだから。

 だから――――


「っ、……ポルト――」



「アルレッキーノぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ‼」



 びたーんっ!


 すごい勢いで、見えないなにかが顔にぶつかってきた。それはぶんぶんと身体を揺さぶり、俺の(ボタン)に引っ付いて離れない。

 このサイズ感、それに動きと声は――


「ポルトっ⁉ お前、無事だったのかっ⁉」


「無事なもんかぁっ! ここ、今度こそ、死ぬかと思ったよぉもぉ怖かったんだからぁっ!」


「あ、暴れんなお前っ! っていうか、姿消したままだから見えねぇんだよっ!」


「あ、そ、そっか。えっと…………ふんっ、解除!」


 なにやら踏ん張ったような顰め面が、突然目の前に現れる。

 すげぇな、今の魔術。発動中は、ポルトの姿は本当に全く見えなかった。局面によっては、大分使えるんじゃないか?

 まぁ少なくとも、今はその局面じゃない。


「ご、ごめんよアルレッキーノ。まさか、こんなことになるなんて思わなかったんだ…………ごめんなさい……」


「謝って済むなら楽なんだがな……。とにかく、お前は今後、下手なことしないでくれよ? 尻拭いは全部俺たちがする羽目になるんだからな。…………さて」


 軽く釘は刺して――――現状を冷静な目で見る。


 ポルトが不用意に箱を刺激した所為か、魔物の量は爆発的に増えていた。さっきまで潰していた魔物の脱落分を、補って余りある数だ。空どころか、俺たちが見ている景色そのものが、魔物の群れに覆われてしまっていた。


 またこの数の魔物を相手にするのか……!


 まぁいい。体力勝負ならこっちに分がある。魔力もまだまだ尽きそうにないし、来るならいくらでも来やがれってんだ。全員まとめて潰してやる!

 相手が量で来るなら、こっちは精神力の勝負だ!


 俺の集中力が切れたら――――その一瞬が、負けに直結する。


 油断しない。深く呼吸をしたように身体を落ち着け、自分の中の安定した魔力の流れを感じる。

 さぁ、来いよ魔物共!

 向かってくる勇者からぶっ潰してやるよ!


 ――――と、意気込んで待っているのだが。



「…………? 来な、い?」



 魔物たちは、俺たちを襲おうとはしなかった。

 それどころか、俺たちに背を向け、なにかを仰ぎ見ている。それは油断でもなんでもなく、ただ花の蜜に吸い寄せられる蝶のように自然な行為だった。


 魔物たちが見ているのは、宙に浮かんでいるあの箱だ。


 中身の灰色は、もうぱんっぱんに膨らみ切っている。少しでもつつけば、格子の隙間から欠片たちがこぼれ落ちるだろう。しかし、心臓のように波打ちながらも、灰色は欠片をこぼすことなく、格子の中に収まっている。


 ドクン、ドクンという、地鳴りのような鼓動は、まだ続いている。


 なのに、魔物たちがそれを眺めているだけ、灰色の箱は蠢いているだけというのが、余計に不気味だった。


「…………どうする? アルレッキーノ。正直、私は今の状況がよく分からないわ」


「そんなの俺だって同じだよ。……取り敢えず、今の内に魔物の数を少しでも減らしておくか。いや、それとも俺とポルトの合同魔術で箱の方を攻撃するか――」


 思いあぐねていた、その時だった。




 ――――――――ドクンっ――――――――――――――――――――――――




 空が震えるような鼓動が、轟いた。

 同時に、魔物たちは声を上げ始める。ぎゃあぎゃあと喧しいそれは、まるで歓喜の叫びだ。或いは囃し立てるような、いやに煽情的な声。統率の取れた短い間隔での咆哮は、まるでなにかを促しているかのようだった。


 と同時に、箱の方にも異変が起きる。

 中の灰色の物体が、格子の大きさを無視して肥大化し始めたのだ。


 ぶくぶくと泡立ち、膨らんでいくそれは、最早格子の枠を越えていた。際限なく膨らんで生き、徐々に手が、脚が、胴体が、翼が形作られていく。


 ばきんっ、となにかが割れたような音が響いた。


 恐らくそれは、灰色の物体を封じ込めていた格子の割れる音だったのだろう。灰色の膨張に耐えられず、格子の檻は破壊され、残骸がパラパラと火口の中心部へと落ちていった。


 出来上がったのは、通常のものより何回りも大きい、巨大なナイトゴーントのような人型だ。


 目はない。鼻もない。あるのは口と、ぶくぶくと発疹だらけのような手脚だけ。

 それは、ゆっくりと周囲の魔物たちへと手を伸ばした。


 一番近くにいたシャンタクを鷲掴みにすると――――それは、シャンタクを頭から齧りつき、ぐしゃぐしゃと咀嚼し始めた。


「っ⁉」


「な、なんだぁっ⁉ あの変な物体が…………魔物を、食ってる⁉」


 それは、あっという間の出来事だった。

 唖然とする俺たちを尻目に、巨大な魔物めいたものになったそれは、次々と魔物たちを捕食していった。

 そして、醜い咀嚼音を響かせる度に、魔物らしきそれの身体に変化が起きていった。


 シャンタクを食えば、背中に無造作に翼が。

 ナイトゴーントを食えば、身体のそこかしこに巨大な口と牙が。

 ハルピュイアを食えば、全身に鉤爪や嘴が。


 子供がテキトーにシールを貼っつけていくように、でたらめに身体のパーツが増えていく。その姿は最早、なにかに例えることさえ不可能だ。


 無数の翼。

 無数の顎。

 無数の牙。

 無数の爪。

 無数の嘴。

 無数の腕。

 無数の脚。

 無数の眼。

 無数の口。

 全身の至るところに、あらゆる部位を備えた、でたらめな魔物。


 そいつはほんの十数秒で、火口に存在していた魔物たちを全て食い尽くしてしまった。すっかり見晴らしのよくなった山の頂上に、しかし、山と同じくらいのガタイがありそうな魔物が一体、佇んでいる。


 ……あのスポーンブロック、魔物を生み出すだけじゃなかったのか?

 呆然とする俺たちの下へ、ずんっ、と足音を鳴らして、魔物めいたそれが近づいてくる。


「――――っ、ハサン、ポルトっ! ひとまずここは逃げ――」


 指示しようとした、その瞬間。

 どこかも分からない肩から生えた無数の腕が、火口へと振り降ろされた。

 拳一発の威力で――――山の半分ほどが割れ落ち、俺たちは空中に投げ出された。

 触覚のない筈の身体に、絶望的な浮遊感が纏わりついてきた。


「っ、アルっ!」


「しまっ――」


 咄嗟に叫ぼうとし、手を伸ばそうとする。

 だけど、かかしの俺には伸ばす腕なんかなく――――為す術もなく俺とノエルは、眼下の岩肌めがけて落下していった。


 アルレッキーノとノエル、危うし――――⁉

 次回更新は明日22時頃! お楽しみに!

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