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かかしに転生した俺の異世界英雄譚  作者: 緋色友架
第3章 死火山踏破編
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第47話 ブラックボックス


「う、うわぁっ⁉ あ、アルレッキーノぉっ!」


「っ、そこから動くんじゃねぇぞ! ポルト!」


 足元へ一気に魔力を注入する!

 流石にこの数を『根堅洲國王の怪腕(ヨモツイクサ)』で処理するのは無理がある。だが、わざわざこちらが伸ばした腕めがけて向かって来てくれているなら、好都合だ!

 まとめて一網打尽にしてやる!


「――――『冥府女王の夏祭りヘルズウェイブフェスティバル』っ!」


 伸ばしていた『根堅洲國王の怪腕(ヨモツイクサ)』に、無数の岩製の棘を生やす。

 その両腕を、思い切り周囲に向けてぶん回す!

 棘に触れた魔物は、熱い外皮を容易く貫かれ、悲鳴を上げながら魔力へと還っていく。まるでミキサーだ。愚直に吶喊してくるような奴らには、効果覿面だった。

 魔物たちは、瞬く間にその数を減らしていく。

 よしっ、いいぞ、この調子なら――


「っ! アル、真上っ!」


「っ⁉」


 背中のノエルが鋭く叫ぶ。

 咄嗟に上へ視線をやると――――牙を剥き出しにして向かってくる、一体のハルピュイアが目に入った。

 しまった、直上は『冥府女王の夏祭りヘルズウェイブフェスティバル』の攻撃範囲外!

 まずい! 速くなにか魔術を――


「伏せなさいっ! アルレッキーノっ!」


 突然聞こえてきた声に、俺は反射的に従った。

 身体をわずかに前へ倒し、姿勢を低くする。微かに聞こえる、つむじ風のような音。

 迫りくるハルピュイア。その喉元が、鋭く裂けた。


「『シックルス』――――このまま、落とさせてもらうわよっ!」


冥府女王の夏祭りヘルズウェイブフェスティバル』の隙間を掻い潜り。

 ハルピュイア相手に特攻を仕掛けてきたのは――――ハサンだった。


 彼女の持つナイフには、先端から風の刃が伸びていた。似た魔術を、俺は見たことがある。ステュクス村を襲ってきた山賊の一人が、ナイフから風の刃を伸ばしていた。

 ハサンが『シックルス』と名付けたそれも、同系統の魔術か。


 常に渦を巻いている風の刃は、高速回転するチェーンソーのようなものだ。ハルピュイアの脆い首元は一気に裂けていき、瞬時に頭部と胴体が永久の別れを告げた。

 元がハルピュイアだった魔力の粒が降る中、ハサンは。

 脚に小さな竜巻を纏わりつかせ、その場に悠然と浮かんでいた。


「ハサンっ! お前、どうやってここまで――」


「何度もあなたと一緒に魔術を使ってきたからね。身体が、魔力の扱い方を覚えてくれたわ」


 ゆっくりと高度を下げながら、ハサンは得意げな顔を見せてくる。

 それは、俺との合わせ技である『風神の蠢動(ウィンドムーブメント)』によく似ていた。あれだけ、自分は魔術が下手だと言っていたハサンが、自ら魔術を行使している――――その心境の変化だけでも驚きだ。だというのに、まさか俺との合同魔術まで一人で再現しちまうとは。


「取り敢えず、『ウィンドムーブメント』って名前をつけさせてもらったわ。魔術には名前を付け、型に嵌めて覚えると扱いやすい――――そうなんでしょう?」


「あ、あぁ。しかしすげぇな、まさかハサンが一人で飛べちまうとは…………なんにせよ、助かったぜ。ありがとうな」


「そんなことより――――この箱が、魔物の元凶ってことでいいの?」


「あぁ。間違いない」


 足元にふよふよと浮かぶ、灰色の物体を見る。

 今は大人しくなっているが、さっきポルトがちょっかいを出した時の反応は見ての通りだ。瞬時に大量の魔物を生み出し、ポルトを排除しようとしてきた。


 火口に魔物の巣なんかない。他の場所にも魔物の巣窟なんてない。

 ここにあったのは、際限なく魔物を生み出す、この得体の知れない物体一つだ。


 バジリスクやナイトゴーント、シャンタクといい、どうにも俺の知っているような化物が多い世界だとは思っていたが…………まさかスポーンブロックまであるとはな。

 一体どうなってんだ? この世界は。


「この箱を破壊すれば、もう魔物は生まれないわよね。だったら、さっさと壊すだけよ」


 言うと、ハサンは脚周りに展開した竜巻を高速で回転させ、強大な風を発生させた。

 彼女の軽い身体は、竜巻によって巻き上げられ、瞬時に高高度まで上昇する。豆粒ほどの大きさになるまで上昇したハサンは、ナイフを構えて、一気に急降下してきた。

 重力の力まで借りた、高速での攻撃。

 鋭く尖った風の刃が、灰色の物体に突き刺さる!


「ぁああああああああああああああああああああああああああああ――――『シックルス』っ!」


 ガキィイイイイイイイイイイイイイイイイインっ!


 けたたましい衝突音が鳴り響く。風の刃は、間違いなく灰色の物体にクリーンヒットした。

 だが、格子状の檻は勿論、灰色の物体にも傷一つない。

 あのレベルの攻撃で無傷とは……相当硬いのは、間違いない。


「くっ、この――」


 それでも、無理矢理ナイフをねじ込もうとすると――――ドクンっ、とまた鼓動の音が聞こえた。

 灰色の物体が小さく千切れ、ハサンの背後へと飛散する。その欠片たちは瞬く間に膨らんで生き、鋭い爪を携えた二体のナイトゴーントに変わった。

 ハサンも気づいたようだが、回避するにも一瞬遅い。

 ナイトゴーントは黒光りする爪で、ハサンの身体を引き裂きに――


「――――『根堅洲國王の怪腕(ヨモツイクサ)』っ!」


 ――かかる寸前で、俺の作った岩製の巨腕によって握り潰される。

 俺の仲間に、手は出させない。

 誰かが傷つけば、ノエルが悲しむ。そんなこと、俺が許すか。


「あ、ありがとうアルレッキーノ。ごめんなさい、油断していたわ」


「気にすんな。さっきのお返しだ。しかしこいつ…………どうやら防衛機能みたいなものがあるみたいだな。攻撃を仕掛けると、自分を守るために新たな魔物を生み出す、か――」


 だったら。

 防衛機能も機能しないほどに、圧倒的な攻撃力で潰すだけだ!


「撃ち上げろっ!『黄泉王の巨腕(ラグナロク)』っ!」


 灰色の物体の真下から、巨大な岩の拳で打ち上げる!

 綺麗にアッパーカットは決まり、灰色の物体はかなりの高度まで吹き飛ばされた。ドクンっ、と鼓動の音は聞こえるが、今更気にしていられるか。この一撃で、決めてやる!


「叩き潰せっ!『根堅洲國王の怪腕(ヨモツイクサ)』っ!」


 箱の両側めがけて、二本の巨腕を伸ばす。

 そのまま灰色の物体を拳で挟み込むようにして――――両側面から叩くっ!

 どうだっ⁉ さすがにこの一撃なら、無傷なんてことは――


「…………嘘、だろ……⁉」


 手応えは、確かにあった。

根堅洲國王の怪腕(ヨモツイクサ)』は完璧にヒットした筈だ。魔力によって感じられる感触が、俺にありありとそう告げている。

 それでも、まだ足りないというのか?

 箱には、やはり傷一つついていない。それどころか、伝わってくる鼓動の振動は一層強くなっていく。

 これは、ヤバい予感がする!


「っ、一旦離れるぞっ! 距離を取らないとやべぇっ‼」


「っ、あの攻撃で壊れないなんて…………ともあれ、距離を取るのには同感っ! 行くわよ、ポルトっ!」


「え? あ、う、うん!」


 俺たちは急いでその場を離れ、火口の縁の部分まで後退した。


 ――――俺は、手加減なんかしなかった。


 攻撃方向を一八〇度変えていたら、山そのものを崩壊させかねない勢いでの攻撃。それを、あの箱は凌いだのだ。なんの傷を負うこともなく。

 ったく、泣けてくるぜ。

 おまけに、完膚なきまでに耐えられてしまったことで――――より最悪なシチュエーションを招いちまった。

 ボロボロと崩れていく岩製の拳。支えを失って落ちていく灰色の物体から聞こえる鼓動は、一層大きさを増していた。


 まるで、中身の灰色そのものが心臓のようだ。


 ぶくぶくと、大きく膨れ上がっていく灰色。

 みちみちと格子状の檻に締め上げられ、ぷつぷつと切り取られ、欠片が飛ばされていく。その欠片たちが全て、禍々しい魔物へと姿を変えていった。

 空を埋め尽くすほどの、魔物の群れ。

 クソっ、想定していたよりずっと数が多い!


「悪い、俺のミスだ……! まさかあそこまで増えるとは……!」


「どれだけ増えようと、あなたにとって雑魚には変わりないでしょう? なら、問題はないわ。それより重要なのは、どうやってあの箱を破壊するかでしょう?」


「……あぁ。しかし、俺の魔術で壊れないとなると……どうすれば――」


「…………もしかすると、相性の問題なのかも」


「相性?」


「えぇ」


 話をしている間にも、魔物の数はどんどん増えていく。

 膨大な数の魔物たちは、俺たちを敵と見定めたのか、或いはただ空腹を満たすためなのか、一斉に俺たちめがけて飛来してきた。

『ウィンドムーブメント』を解除し、地面に降り立ったハサンは、しかし、解説を止めようとはしない。

 考え込むように顎に手を当て、そのまま話を続けてきた。


「リュア=ステンノに聞いてなかった? 魔術の六属性には、それぞれ強弱の関係があるのよ」


 どんどん増えていく魔物たち! そんな中、ハサンが思いついたのは……⁉

 次回更新は明日22時頃! お楽しみに!

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