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かかしに転生した俺の異世界英雄譚  作者: 緋色友架
第3章 死火山踏破編
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第46話 触らぬ神に祟りなし


 なんだありゃ?


 それを見た時の、率直な感想がそれだった。奇も衒いもなく、心底本当に、たったそれだけしか感想が思い浮かんでこなかった。

 疑問符は尽きなかったが。

 なにせ、大分距離が開いている陥没部の縁から見るだけでも、その物体の異様さは分かるのだ。格子状の檻に囲まれた、正方形の灰色。明らかに自然物ではないが、だからといって人工物と呼ぶには奇妙だ。


 ふよふよと、火口の底で浮いているそれは。

 ……俺がまだ向こうの世界で生きていた頃に、動画サイトで流行っていたゲームのギミックを思い出す。あれも確かあんな風に、檻に囲まれていたっけか。


 ……なにか、嫌な予感がする。

 ここに来るまで思い描いていたシナリオが、全て塗り潰されるような……。


「へぇ~ぇ。山の頂上って、こうなってるのね!」


 と。

 一人はしゃいでいるのは、生まれてこの方森から出たことのなかったポルトだ。

 恐らくはこんな巨大な岩の塊を見たのも初めてだろうし、昨日だって内心わくわくしていたのかもしれない。それに…………真ん中の奇妙な物体を除けば、確かに頂上からの景色は圧巻で、悠然で、いつもより近い空は俺たちの心を震わせるには充分過ぎた。


「すっごくいい景色! それに、なんだか空気が美味しい気がするわ! 清々しいっていうか、純粋っていうか……混じりっ気がない空気ね! あたしたちピクシーには、こういう場所の方が合ってるんじゃないかな?」


「……こんな草一本生えてない場所で、どうやってあなたたち暮らしていくつもりよ」


「あ、そっか。残念……」


「そんなことより…………なにかしらね。あれ」


「あれって?」


「あそこ。中央部に浮かんでる、あの箱よ」


「ん~?」


 手を双眼鏡みたいな形にして、遠くを覗き込むポルト。やがて、ハサンの言っている物体を見つけたのか、俄かに首を傾げ出した。


「あ、本当だ。なんかある。なんだろね、あれ」


「私に訊かれても分からないわよ。どうする? アルレッキーノ。偵察に行ってきましょうか?」


「いや…………上手くは言えねぇが、近づくのは危険な気がする。様子見なら俺がやってみるさ――――『黄泉王の巨腕(ラグナロク)』」


 名前を唱えると、俺の前方に巨大な岩の拳が出現した。

 魔力を慎重に送り、『黄泉王の巨腕(ラグナロク)』を少しずつ、灰色の物体へ近づけていく。拳を開き、人差し指だけを立てた状態にして、格子状の檻に肉薄する。


 ちっ…………やっぱ、離れたところになるとコントロールが上手くいかないな。どうしても動きがぎこちなくなる。

 それでも、あれに近づくのは本能が拒否していた。

 理由は上手く言えないけど、どうしても嫌な予感が拭えない。


 つん、と指先を細かく操作して、灰色の物体をつついてみる。

 …………反応はない。

 念のため、二度三度と、今度は少し力を入れてつついてみた。しかし、それでも反応はない。僅かにその場から動きはするものの、すぐにふわふわと元の位置に戻ってしまう。

 まるで、その場に括りつけられた風船みたいだ。


「なーんだ。なんにもないじゃん」


 呑気に言いながら、ポルトはパタパタと羽ばたいて、あの物体の方へと飛んでいってしまった。


「お、おいポルト! 迂闊に近づくんじゃねぇよ! なにが起こるか分からねぇんだぞ⁉」


「だーかーら、なんにも起こんなかったんじゃん。確かめたのはアルレッキーノでしょー?」


 ぐぬ。

 でも確かに、俺の魔術で刺激してみて、なにも起こらなかったのは事実だ。

 ……用心し過ぎたか?

 一瞬過ったゲームの記憶が、要らぬ心配を俺に促してでもいたのだろうか。


 俺が思い悩んでいる間に、ポルトは既に灰色の物体に近づいていた。つんつんと、自分の指で格子の隙間からそれを突っついてみても、やはり、反応はない。

 感触が面白いのか、ポルトはつつくのを止める気配がない。それどころか思い切り振りかぶってパンチしてみたり、挙句の果てには蹴りまで入れている始末だ。

 それでも、灰色の箱はなんら反応を示さない。


「…………ポルトがあれだけやってるのに、なんにも起こらないわね」


「あぁ。……俺の思い過ごしかな?」


 まぁなんにせよ、杞憂に終わるならそれが一番だ。

 もし俺が思った通りだったら――――こんな呑気に話してなんかいられないからな。

 俺も臨戦態勢を整え、この山全部を武器にするくらいの覚悟で臨まなきゃいけなくなる。


「えっひひひひひひひ! これ面白いよ! ぶにぶにしてて、いっくらでも戻ってくるの! 固まりかけの蜜みたい!」


「……楽しむのも結構だがな、ポルト。あんまり刺激し過ぎんなよ? なにも起こらないっていったって、得体の知れない物体なのは違いないんだから」


「大丈夫だって! アルレッキーノは心配性だなぁ、そんなに心配ばっかしてると、あたしのパパみたいに禿げちゃうよ――――って、アルレッキーノが禿げる訳ないか! かかしだもんねー! えっひひひひひひひひ!」


 ツボに入ったのか、ポルトは腹を抱えて笑っていた。

 まったく、余計なお世話だ。あの野郎、俺がかかしなのを思いっ切りネタにしてきやがって……。


「……ダメ」


 と。

 背中から、小さな声が聞こえた。

 震えるような、怯えるような声だ。常に天真爛漫、無邪気で明るい彼女から聞くこと自体珍しい、暗い声。

 俺に負ぶわれたままのノエルが、かたかたと身体を震わせながら、言った。


「ダメ…………あれは、ダメだよ……!」


「……ノエル? ダメって、どういう意味――」


「あ! そうだ! この色、落書きするのに丁度いいじゃーんっ!」


 微かなノエルの声を掻き消すように、ポルトが大声を上げた。

 人差し指をまるで指揮棒のように振るい、くるくるとその場で回っている。灰色の物体で遊ぶのが、随分とお気に召したようだ。……しかし落書きって、筆記用具なんか持ってきてる素振りはなかったが。


「えひひひひ! いつもは夜の闇相手に落書きしてたからねぇ。昼間っから落書きに勤しめるのは役得だわ! 灯せ――――『ヘスダーレン』っ!」


 唱えても、変化はいまいち分からない。太陽が燦々と照らしている時間だし、元々ポルトの身体は光を発しているので、本当に魔術を発動しているのか疑わしいくらいに変化がないのだ。

 しかし、灰色の物体の前で指を振るうと、流麗な文字らしき記号が、光によって刻まれていく。


「えひひひひ! どう⁉ 昔っから考えてたの! あたしのサインよ! すっごいでしょーっ!」


「いや…………小さくて読めねぇよ」


 ここからそこまで、何十メートル距離があると思ってんだ。

 しかも、灰色の物体も小さければ、ポルトの書いた文字も小さいものだから、視力が平均値な俺には判読は難しい。

 まぁどの道、俺、この世界の文字読めないんだけど。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――ドクン


「……? アルレッキーノ、なにか言ったー?」


「ん? いや、俺は特になにも――」


 ――――――――――――――――――――――――――――ドクン――――ドクン


「……いや、やっぱ聞こえるよ? 変な音が」


「あぁ、俺にも聞こえた。どこから聞こえてんだ? ハサン、お前には――」


 ――――――――――――――――――――――ドクン――――ドクン――――ドクン


「……私にも、はっきり聞こえるわ。それに、どんどん大きくなってる。これは……鼓動?」


「音の発生源を特定しないことには、はっきりとは――」


「…………げて」


「え?」


 ――――――――――――――ドクン――――ドクン――――ドクン――――ドクン


 段々と近づいてくる、足音のような鼓動。

 それに合わせて、俺の無い心臓も早鐘を打っているかのようだった。頭の回転が、異常に速くなる。咄嗟に俺は、声もなく『根堅洲國王の怪腕(ヨモツイクサ)』を発動させていた。


 ――――――――ドクン――――ドクン――――ドクン――――ドクン――――ドクン


 背中のノエルが、なんと言っているのか、分かったから。

 震える声で、怯えた声で、それでも。

 ノエルは仲間を案じて、その言葉を口にしていたから。


「逃げて――――ポルトぉっ‼」


「へ?」


 ドクン――――ドクン――――ドクン――――ドクン――――ドクン――――ドクン


 鼓動が。

 波打ち、蠢くような鼓動が。

 灰色の物体から発せられる鼓動が――――一層大きくなる。


「な、なに言ってんのさ、ノエル――」


 ――――――――――――――――――ドクン――――――――――――――――――!


 瞬間。

 ひときわ大きな鼓動と共に、格子で囲まれた灰色の物体がぶくぶくと泡立ち――――急激に膨らんだ。

 格子からはみ出んばかりに、一気に膨張する。

 ぐじゅう、と嫌な音を立てて。

 格子の隙間から、灰色の物体が漏れ出してくる。

 漏出したそれらは禍々しい形へと一気に膨らんでいき――――やがて、それは魔物となった。

 昨日ですっかり顔馴染みになった、ハルピュイアとナイトゴーントに。

 奴らは、灰色の物体の近くにいるポルトを認めると、そのひん曲がった爪を伸ばしてきた。


「ひ――――っ!」


 咄嗟に、身を屈ませるポルト。

 俺は『大地の蠢動(グランドムーブメント)』と『根堅洲國王の怪腕(ヨモツイクサ)』を同時に動かし、瞬時にポルトの下まで向かった。

 その準備は、とっくにできていたから。


「潰せっ!『根堅洲國王の怪腕(ヨモツイクサ)』っ!」


 ぐしゃぁっ!

 生まれたてのハルピュイアとナイトゴーントは、瞬く間に握り潰され、魔力の粒へと還元される。


 クソっ、嫌な予感が大当たりか!

 この灰色の物体は、やはりただの箱なんかじゃなかった。

 火口が魔物の巣になっているんじゃない。他の場所に巣があるのでもない。

 この箱こそが――――魔物を次々に生み出していたのだ!


 ――――――――――――――――――ドクン――――――――――――――――――!


 再び、灰色の箱が大きく鼓動を鳴らす。

 その瞬間、格子の中身が大きく膨らみ、弾けた部分が欠片となって飛んでいく。

 格子の外へ飛び出した灰色の物体は、各々に膨らみ、形を作っていく。


「チッ……おいおいマジかよ……!」


 気が付けば俺たちは、数十体の魔物たちに包囲されていた。

 その全てが目をぎらつかせ、明らかに俺たちのことを狙っている。

 まるで、巣を守ろうと躍起になっているカラスみたいだ――――そんなことを思っていた切那。


「GISYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」


「GUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!」


「GYAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!」


 ハルピュイアは、ナイトゴーントは、シャンタクは。

 三者三様の叫び声を上げて――――一斉に俺たちめがけて襲い掛かってきた!


 火口で待ち受けていたのは、魔物を生み出す謎の物体……⁉

 次回更新は明日22時頃! お楽しみに!


 少しでも面白いと思っていただけたら、ブクマや評価、ご感想などお願いします!

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