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かかしに転生した俺の異世界英雄譚  作者: 緋色友架
第3章 死火山踏破編
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第44話 魔物は何処より来たる


「あなたたちといると突拍子のないことばかり起きるけど…………今回のは中でも最上級だわ……」


 炎が赤く照らす囲炉裏端。

 ハサンはこの数時間でげっそり頬がこけたようになっており、明らかに顔色が悪くなっていた。半分しか見えなくても、ありありと分かるほどに。

 せっかく焼き上がったきのこや、色取り取りの木の実にも、手を伸ばさないでいる。


「おいおい、なに葬式の前みたいな顔してんだよ。早くきのこ食っちまわないと、焼け過ぎて炭になるぞ?」


「そだよー? もったいないよー。ほら、ハサン。あーん」


「……あれだけの大風呂敷広げておいて、どうしてあなたたちはそう呑気なのよ……」


 呑気? ノエルはともかく、俺が?

 いやいや、内心割と焦ってますぜ? なにせノエルのぶち上げた提案が、俺の予想を遥かに超えるものだったからな。

 想定外過ぎて逆に落ち着いているくらいだ。


「ポルトを見てみなさいよ…………絶望に打ちひしがれて、なんだか可哀想なことになってるわ」


「んー? ポルト、どうしたの? 木の実おいしいよ?」


「……どうしたのじゃないよぉ! もぉまったくさぁっ‼」


 部屋の隅っこで屍のように倒れていたポルトが急に起き上がり、大声を張り上げる。

 ちなみに、場所はもう村長の家じゃない。村長の勧めで、数ヶ月前に生贄に捧げられた少女が住んでいたあばら家を貸してもらってる。日常的に掃除が行われていたのか、数ヶ月放っておかれたとは思えないほど綺麗な家だ。あばら家はあばら家だが。


「ノエルっ‼ どうしてあんなこと言ったのさっ⁉」


「? あんなことって?」


「この山の魔物全部倒すなんて――――そんなの、絶対に無理に決まってるじゃないっ! 一体何百体いると思ってるのさっ⁉」


「んー、分かんないけど」


「けどってなにさ、けどってっ! 昼間っからアルレッキーノがあれだけ倒してんのに、まだまだいるんだよっ⁉ きっと村長さんが言ってた火口付近には、もう何千体ものシャンタクやナイトゴーントやハルピュイアがいるんだぁ…………あたしの旅は、この岩だらけのゴツゴツした山で終わるのね……ふふふ、短い旅だったわぁ……」


「大丈夫だよ」


「なにがっ⁉ なにが大丈夫なのさっ⁉」


「アルなら、大丈夫。やってくれるよ。ね? アル」


「あー、はいはい。やってやんよー任しときなー」


「アルレッキーノぉっ‼ ノエルを甘やかさないでよっ⁉ なんか言ってやってよ少しはさぁっ⁉」


「うるせぇなぁ。どの道、村長の前で大見得切っちまったんだから、やらない訳にいかないだろ。それに、魔物を倒し切れなかったら、また村長の孫娘が生贄になっちまう。そんなのは、到底容認できねぇ」


「うぬぬ……た、確かに、掟で命を奪われるっていうのは、可哀想だけど……」


「んなことよりハサン。ちと訊きたいことがあるんだが、構わないか?」


「…………えぇ、いいわ。なんでも訊いてちょうだいな」


 がっくりと肩を落とすと、ハサンはノエルが差し出していた焼ききのこを手に取り、相変わらず口元を見せないように食べた。

 流石、俺とノエルと一緒に旅しているって面じゃ、一日の長があるか。納得というか、あきらめが早いことで。


「人生最後の食事に……人生最後の会話になるかもしれないしね。少しでも有意義なものにしたいわ」


「そうさせねぇために俺がいるんだよ。…………まず、あんまり関係ないかもしれないんだが、『聖都』って、なんだ?」


「……あなた、そんなことも知らないで今まで生きてきたの?」


「だから言ったろ。元々別の世界で生きてて、こっちの世界に来てから一〇年はただのかかしやってたんだよ」


「……『聖都』っていうのは、この世界で唯一、魔物に襲われない都市のことよ」


 魔物に襲われない都市?

 なんだそりゃ。都市というからには、それなりに人口がいる筈だろう? 魔物からすれば、獲物の宝庫な訳だ。なのに襲われないとは、どういうことだ?


「詳しくは、私も分からないわ。けれど、噂では魔術を極めたっていう、『財宝王』と呼ばれる人物が治めている都市だと聞くわ。彼の力で、『聖都』は魔物から守られているんだって」


「へぇ……そんな奴がいるのか。しかし、都市一つだけとはせこいことをするな。全世界を魔物から守ってやればいいのに。どうしてそうしないんだろうな」


「私にそこまで訊かれても分かんないわよ。で、それだけ?」


「んな訳ねぇだろ。今のはただの疑問解消タイムだ。本題はここからだよ」


「本題?」


「どうやって、この山一帯の魔物を駆逐するか、だ」


 かかしの変わらない表情じゃ分からないだろうが、俺は意地悪く笑った。

 ここからは、所謂作戦タイムって奴だ。


「どうやってって……そもそもできると思ってるの?」


「単体じゃ、俺の相手にはならねぇ。それは、今日の半日だけでよく分かっただろう?」


「……確かに、ハルピュイアもナイトゴーントもシャンタクも、アルレッキーノ、あなたなら倒せないってことはないのよね」


 ただ、問題は数よ。


 ハサンは頭を抱え、憂鬱そうに溜息を吐いた。

 そう、数。それが正しく問題だし――――疑問なのだ。


「この村を覆うドーム上での戦闘では、ざっと数えた限り、五〇体程度の魔物を相手にしてたわ。それでも突破できたのは、あなたが操っていたのが大地ではなく、鉄だったことも大きな要因だったと思うの。いつもより攻撃力は増していたでしょう? 操作性はともかく」


「そんな多かったのか? ってか、何気に数えてたんだな」


「山賊時代の癖でね。…………で、いつも通り大地を操って攻撃するのだとしたら、一斉に相手できるのは、精々三〇体が限度っていうのが、私の見立てよ。自分でもよく言ってるけど、あなたの魔術最大の欠点は、そのダイナミックさに伴う鈍重さだからね」


「んじゃ、ポルトの言ってるみたいに、火口付近を根城にして大量の魔物がいた場合は、『大地の蠢動(グランドムーブメント)』で退避しながら潰していく感じになるか。消耗戦だなぁ。向こうは数の、こっちは距離のな」


「…………なにか含みのある言い方ね」


「含みを持たせたからな」


「……現状が違う可能性があるってこと?」


「ああ」


 俺は力強く頷いた。

 村長から貰った魔物の情報は、魔物が夜行性であることと、火口付近を根城にしていること。

 しかし、この村は鉄のドームで覆われ、空さえ拝むことは許されない。当然、魔物の姿だって、大多数の村人は見たことがないだろう。

 情報が間違っている可能性は、充分にある。

 そう考えられる根拠だって、ちゃんとある。


「ポルト。俺がこの山に入ってから倒した魔物の数、覚えてるか?」


「あたしは一〇より大きい数は数えらんないんですー。はぁ…………今から森に戻るっていったら、エイセン様、受け入れてくれるかなぁ……」


「物理的にも明るいのだけが取り柄のお前までお通夜モードになってんじゃねぇよ」


「なっ⁉ なにその言い草っ⁉ あたしには、この光魔術が――」


「はいはい分かった分かった。で、ハサン。覚えてるか?」


「……正確には数えてないけど、恐らく、一〇〇体前後ね」


「おかしいと思わないか?」


「…………確かに」


「? アルレッキーノもハサンも、なんの話してるの?」


「……倒した魔物の数が、いくらなんでも多過ぎるのよ。山を登っている時と、ドームの上で戦った時、合計してもう一五〇体以上は倒してる……」


「? それのなにがおかしいの?」


「……ポルト。お前にとってこの山、住みやすい場所だと思うか?」


 さっきから首を捻りまくっているポルトに、試しに聞いてみる。

 するとすぐに、待っていた答えが返ってきた。


「全っ然! たとえ魔物がいなくったってお断りだね! だってこんな禿山、草木一本生えてないし、魔力の補給が――――って、え?」


「そう、そうなんだよ」


 草木一本生えていない、ゴツゴツとした岩肌ばかりが目立つ禿山。

 そんな餌になるもののない環境下で、魔力を常に『食べる』ことによって補給している魔物が、生存できる訳がないのだ。

 なのに、この数は異常だ。明らかにおかしい。


「ってことは…………どうなんの?」


「考えられるのは、本拠地はこの山ではない、という可能性ね」


「だな。正直、それが一番ありがたい」


 ハサンが言ってくれた可能性は、俺たちにとって一縷の望みだ。

 要は、ハルピュイアたちはこの山を根城にしているのではなく、餌場の一つとしている可能性だ。それなら、本拠地からやって来る魔物を少しずつ潰していって、最終的に根城をぶち壊せれば、ミッション完了となる。

 この可能性がビンゴだった場合にありがたいのは、魔物側に消耗戦を一方的に強いることができる点だ。

 俺の魔力は、自分で言うのもなんだが底なしだし、あとはハサンとポルト、ノエルの体力に気を付けていれば万全だろう。


「お話、終わった?」


 と。

 ぼんやりとした声で、ノエルが割って入ってきた。

 彼女の前に積まれていた筈の木の実は残らず消え失せ、火の傍でパチパチと焼かれていたきのこも、綺麗に消えている。……まさか、食ったのか? 全部? 俺たちが話している間に?

 結構な量があった筈だぞ?


「あーっ‼ の、ノエル! あんたどんだけ食うのさ⁉ あたし、まだ木の実一個しか食べてないよっ⁉」


「私もまだきのこ一個しか…………はぁ。明日の朝、村人に分けてもらうしかないわね。一応勇者様ご一行って扱いだし、少しは恵んでくれるでしょう」


「えへへ……ごめんね?」


「うぅ……最後の晩餐がぁ……」


 すっかり意気消沈してしまったポルトは、そのまま床に這い蹲ると、死んだように動かなくなった。

 ノエルもその横に寝転がり、すぐに寝息を立て始める。

 まったく、食ったら寝てと、本能に忠実なお子様だ。


「……私も寝るわ。明日は……頼むわよ。アルレッキーノ」


「任せとけ。お前らを守るのも、俺の役目だからな」


 ガス灯が常に灯るこの村は、いつも明るく、時間の感覚が狂いそうだ。

 静かに、実感の湧かない夜は更けていく――――俺も壁に寄りかかったまま、眠るように意識を沈めていった。


 深まる夜と魔物の謎……。

 次話更新は1時間後! お楽しみに!

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