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かかしに転生した俺の異世界英雄譚  作者: 緋色友架
第3章 死火山踏破編
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第38話 頼りない道案内


 もう、何時間森の中を彷徨っているだろうか…………。


「こ、この目印を…………ど、どっちだっけ? 右だったか、左だったか…………う~ん……」


 どんなに目を凝らしても目印なんか見当たらない場所で、ポルトが頭を抱えて悩んでいる。

 その後ろで、ノエルを背負った俺とハサンが、ポルトに疑わしげな目線を向けていた。ポルトの道案内に従って今まで歩いてきたが、もうかなりの時間が経っている。ほとんど陽の入らない森の中だと時間経過が分かりづらいが、さすがに夕陽が差してくれば、もう夜が近いことくらい分かる。


 単純にそれだけの距離があるのか、はたまたポルトが迷っているのか。


 なんにしても、こうも背の高い樹木だらけの森を延々何時間も歩きっ放しというのは、身体というより精神にクる。ノエルなど、疲れ切って寝てしまっているくらいだ。それでも、俺にしがみつく手を離さないのはさすがだが。


「……ポルト」


「ち、違うよ⁉ 今度は違う道に案内しようなんてしてないから! い、今、今ちょっと思い出すから待ってて!」


「…………」


「そ、そんな目で見ないでよハサン! アルレッキーノからもなんか言ってやってよ!」


「いやぁ…………単純にお前、ちゃんと道を覚えているのか?」


「お、覚えてるもん! あたしを誰だと思ってるの⁉ あのバジリスクを倒した最強無敵のピクシー、ポルトちゃんだよっ⁉」


「それと道を覚えるのとは関係ないから。……食料の備蓄が増えていくのは、いいことだけどね」


「だなぁ。逆に言えば、森を延々歩かされて収穫はその程度なんだが」


「お、思い出すからその、ぷ、プレッシャーかけんのやめて……」


 げんなりとしてしまったポルトだが、彼女に諦めるという選択肢はない。なにしろ、ポルトしかエイセンから森を抜けるルートを聞かせてもらえてないのだ。森から抜け出すには、ポルトの記憶力に身を委ねるしかない。


 道中、キノコや木の実を大量に拾えたのが、唯一の僥倖だ。内側にポケットの多いハサンの外套に収納してもらっているが、今度人里による機会ができたら、俺もなにか、ショルダーバッグみたいなものを貰えるといいかもな。

 RPGなんかだとどんなに大量の荷物もリュック一つで収まるが、現実じゃなかなか難しいしな。俺なら荷物が増えても特に苦ではないし。


「――――っ、思い出したぁっ! ここは右! 右だとあたしの第六感が告げている!」


「……エイセンから教えてもらった道はどうした」


「だ、大丈夫だって! きっと森から抜けるルートと会ってるって! うん、あたしが言うんだから間違いない!」


 お前が言うから不安でしかないんだが……。

 とはいえ、他に手がかりもない。俺たちは再び、森の中を進んでいくのだった。






 そこからさらに小一時間、森の中を彷徨った挙句。

 俺たちはようやく、やっとの思いで、森から抜け出すことができた。

 森を脱出した俺たちの前に立ちはだかっていたのは――――巨大な山だった。


「…………は、ぁ? なんで、いきなりこんな……⁉」


 ハサンが驚きの声を上げる。

 無理もあるまい。俺たちはたった今、森を抜けたばかりだ。すぐ後ろには緑が鬱蒼と生い茂っている。

 なのに、その山には緑色の部分などどこにもなく、ひたすらにゴツゴツとした岩が続くばかりの岩山だったのだ。

 森と隣接しているにしては、あまりに不自然な光景。

 その理由と思しきものは、遥か上空を飛んでいた。


「っ、あれ見て! なんかいっぱいいるよ!」


 ポルトが指差す先。

 夕陽に照らされて濃い影を伸ばすそれらは、ここから見えるだけでも分かるほどに巨大ななにかだった。少なくとも、鳥の類じゃない。そんな綺麗な形状はしていない。もっと禍々しい翼を持ち、奇妙な胴体を揺らし、耳が痛くなるような鳴き声を上げて空を飛んでいる。

 しかし、遠過ぎてその全体像を掴むことができない。


「……? あれ、なに? 遠くてよく分かんないよ」


「だよな……。なぁハサン、ポルト。お前らには、あれがなにか見えるのか?」


 背中の蓑からひょっこり顔を覗かせたノエルにも、どうやら遠過ぎて見えないらしい。俺の視力は体感だが生前と同じくらい(つまり一・〇。日本人のド平均だ)なので、そこまで遠くのものは見えない。

 山賊として目が鍛えられたハサンや、魔物であるポルトには、しかしその姿がくっきりと見えているらしく、二人は小刻みに震えていた。


「? ハサン? ポルト?」


「……あの狸親爺、なんてルートを教えてくれてんのよ……! A級の魔物の巣窟じゃない……!」


「あいつら、そんなに危険な魔物なのか?」


「えぇ。ここから見えるだけでも、人を攫って食らう人面鳥・ハルピュイア、夜に力を増すナイトゴーント、馬の頭に蝙蝠の羽を持つ合成獣・シャンタクがいるわ。どれもこれも、分別なく人を襲う獰猛な魔物よ。特にハルピュイアは、群れになるとあのバジリスクを狩るとさえ言われているわ」


「マジかよ。そりゃやべぇな」


「う、うぅぅ……あ、あたしが寝物語に聞いてた魔物たちばっかりだ。おっそろしい魔物で、ピクシーなんかすぐにすり潰されちまうって…………え、エイセンのクソジジイ、やっぱりあたしのことを始末するつもりでこんな道を……!」


「いや、そもそもこの道、エイセンに案内された場所なのかどうかさえ怪しいけどな?」


 あんなに迷いまくってたし。

 罷り間違ってこんな辺鄙な道に出てしまったとしても、不思議ではあるまい。


「……でも、どうするの? アルレッキーノ。なんならもう一度、森に戻るという手もあるわ。上空を飛んでいる魔物の危険度を考えれば、その方がより利口かも――」


「んー、でもそれじゃあもう一回、抜けられる当てのない森の中を彷徨う羽目になるしなぁ……。まぁ、行ってみるか。この山道を」


「え、えぇっ⁉」


「……正気? 私、あの魔物たちの危険性については説明したつもりよ?」


「正気さ。もしかしたらこの道が、エイセンの教えてくれたルートかもしれないだろ? エイセンの奴、この先の道はもっと厳しくなる的なことも言ってたしな。それに、向かう先が山だっていうなら、俺のホームグラウンドだ」


 俺の魔術は、足元から地中に魔力を送り、大地を丸ごと操るものだ。

 特に、魔術の練習をしていたのも山だったし、なんなら山そのものを操ることだって、その気になればできちまう。相手の魔物がどれだけ物騒か知らないが、A級ってことは少なくとも、単体ではバジリスク以下だってことだろう?

 だったらそんな魔物、恐れるに足らない。

 俺とノエルの邪魔をしてくるなら――――遠慮容赦なく、叩き潰すまでだ。


「まぁ、物は試しさ。行ってみようぜ、ハサン。ポルト。安心しろ、どんな魔物が襲ってきたって、俺がお前らのことを守ってやるからよ」


「…………かかしのくせに、本当、頼りになるわよ」


「よ、よろしくねアルレッキーノ! い、いいいいいざとなったら、あたしも戦えるんだから!」


「えへへ。それじゃ、れっつごー!」


 ノエルの気の抜けたような号令で。

 俺たちは陽も傾きかけた夕刻、名も知れぬ岩山へと挑んでいった。


 森の次に進むのは、まさかの禿山?

 次回更新は明日22時頃! お楽しみに!

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