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かかしに転生した俺の異世界英雄譚  作者: 緋色友架
第2章 森の賢者編
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第30話 自信家の嘘


 さすがに妙だと、お人好しと言われた俺でも勘付いてきた。


 時間はさらに経ち、既に太陽は沈み切っている。月明りも届かない暗闇の中、頼りになるのはポルトの『ヘスダーレン』だけだった。

 そんな状況で突き進む最中でも、俺は魔力を脚から張り巡らし、辺りの様子を探っていた。

 不意に強大な魔物が襲い来た場合、俺の土属性の魔術じゃどうしても出し負けしてしまう。俺の魔術は大地そのものを操る分、速度面では他の魔術に一歩劣ってしまうのだ。

 ノエルは寝ているし、ハサンは疲労困憊。そしてポルトは戦闘において当てにならない。

 故に、まともに戦闘ができる俺が、周囲の警戒に当たっていたのだが――――やはり、妙だ。


「ねぇ、ポルト」


 同じような違和感を覚えていたのだろう、ハサンがポルトを呼び止めた。

 ポルトは、ビクッ、と背を震わせ、恐る恐るこちらへと振り向く。


「な、なにかな? あたしに、なにか用?」


「あなた、本当はどこに向かっているの? さっきから、バジリスクの気配なんて全くしないんだけど」


 そう、そうなのだ。

 行けども進めども、バジリスクどころか魔物の気配一つしない。魔力を用いた探知でも、それは同じことだった。


「き、気の所為じゃないかな? あたしは真っ直ぐ、そう、真っ直ぐバジリスクの巣に向かってる筈だし……」


「ポルト。私はね、自慢じゃないけど弱いのよ。あなたほどじゃないかもしれないけど、でも、圧倒的に弱い。一人じゃ生きられないほどにね。だから、強いアルレッキーノと行動を共にしているの」


「…………」


「そんな弱い私が、強い奴の気配に敏感じゃない筈ないじゃない。少しでも近づけば、即座に勘付く自信があるわ。ポルト、あなた…………バジリスクの巣になんか、向かっていないんじゃない?」


「…………」


「答えなさい。私たちを罠に嵌めようなんて考えているなら、この場で――」


「ま、待って! わ、罠なんかじゃないよ! それは本当!」


「『それは』ってことは、やっぱり、バジリスクの巣になんか、向かっていなかったのね」


「っ…………わ、わざとじゃ、ないんだよ……」


 しゅん、とその場で項垂れてしまうポルト。

 彼女の纏う光も、その表情とシンクロするように小さくなっていく。


「……と、とにかくついてきてよ。説明は、ちゃんとするからさ」


「信用できないわね。ポルト、あなた一体なにを企んで――」


「まぁまぁ。いいじゃねぇか、ハサン」


 外套の内側をごそごそと探るハサンを、俺は止めるように腕で小突いた。

 山賊の名残であるナイフでも取り出そうとしていたのだろう。物騒なことだ。そんなことは考えなくていい。


「っ、アルレッキーノ! あなた、なに考えてるの? こいつは、私たちを騙してたのよ⁉」


「まだそう決まった訳じゃないだろ。それに、俺にはポルトがなにか企んでるようには見えねぇな」


「なによそれ。なにか根拠でもある訳?」


「エイセンは、俺がダークドラゴンを倒したって話に、しっかりと食いついてきていた。つまり、バジリスクを倒してほしい、っていうのは本当だと思うんだよ。それを邪魔する理由が、ポルトにはないだろ?」


「っ……そんなの、私たちが知らないなにかがあるだけじゃ――」


「…………むにゃぁ」


 と。

 俺たちの声に反応したのか、今まで背中で寝ていたノエルが、のっそりと目を覚ました。

 それにしてもよく眠っていたな。足場が悪かったから、結構ぴょんぴょんと飛び跳ねまくっていたんだが。


「うにゅぅ…………アル、どうしたの? ハサンと、けんか……?」


「喧嘩とかじゃねぇよ。……そうだ、なぁノエル。ポルトがな、俺たちをバジリスクじゃなく、違う方へ案内してたんだよ」


「? そうなの?」


「そうなんだ。で、ハサンはなにか企んでるんじゃないかって疑ってるんだが…………ノエルはどう思う? ポルトは、俺たちを陥れるために、わざと違う方へ案内したと思うか?」


「んー…………」


 じーっと、ポルトの方を見つめるノエル。

 起き抜け一番に難しい話を聴いたからか、不機嫌そうな顰め面だ。ごしごしと目をこすりながら、しかし、ノエルははっきりと言い切った。


「ううん、違うと思うよ。ポルト、嘘を吐くような目じゃないもん」


「あぁ、そうだよな」


「ちょ、まさかアルレッキーノ、それだけであのピクシーを信用する訳⁉」


 ノエルの断言に、怒声を上げて異を唱えてくるハサン。

 まぁ、そりゃそうなるよな。だが俺だって、テキトーな気持ちでノエルに訊いた訳じゃない。


「子供ってのは嘘に敏感だしな。ノエルが嘘を吐いていないって言うなら、きっとそうなんだろうよ」


「……あなたがノエルを信用してるっていうのは分かったわ。でも、だからって――」


「それに、仮に罠だったとしても、俺がどうとでもしてやるよ。それでいいだろ?」


「っ…………それも、そうね」


 俺の実力を直で目の当たりにしているからか、ハサンは大人しく矛を収めてくれた。

 よかった。これ以上拗れたら、どう収集をつければいいか分からなかったしな。人と争うというか、言い合うのは苦手だ。


「っていう訳だ。ポルト、俺たちはお前を信用してる。だから、どこへ連れて行くつもりだったのか、正直に話してもらえるか?」


「…………あたしたちの……ピクシーの棲み処に」


「そうか。……取り敢えず、そこまで連れて行ってもらえるか? 詳しい話はそこで、腰を据えてじっくりやろうぜ」


「うん…………」


 すっかり萎れてしまったポルトは、ゆっくりと向き直ると、ふらふらと頼りなく飛んでいく。

 そこに、さっきまでの自信満々な姿は、欠片も残ってはいなかった。






 そこからさらに一〇分ほど歩いただろうか。

 俺たちは、小さな洞窟に到着していた。いや、洞窟というか、洞穴か。奥行きは人が一人寝転べるくらいしかなく、高さは俺が壁に寄りかかれるギリギリだ。


 その岩肌には無数の小さな穴が開いていて、中からこちらを覗くような目が見えている。


 ポルト曰く、ここがピクシーたちの棲み処らしい。それじゃあ、こちらを覗き見ているのは、ポルトの仲間のピクシーたちか。


「ここで待ってて。すぐ戻るから」


 そう言うと、ポルトは昼間俺たちに見せてくれた『ドッペルゲンゲル』という魔術を応用し、枯葉を火種に火を起こしてくれた。

 焚火を囲むように待っていると、ポルトは両手いっぱいになにかを抱えて帰ってきた。


「はいこれ、食べて。あたしたちがいつも食べてる、野苺とかの木の実。あと、これは花から取った蜜ね。飲み物代わりにどうぞ」


「わぁ、かわいい! それに、木の実も美味しそう! ありがとう、ポルト!」


 無邪気に礼を言うノエルに、ポルトは恐縮気味だ。

 無理もあるまい。バジリスクの巣に案内すると言っていたのに、いざ辿り着いたのはピクシーたちの巣穴だ。結果的に騙したことになるのだし、ポルトも内心穏やかではあるまい。


「…………そろそろ、説明してもらえるかしら?」


 まぁ、もっと穏やかじゃない奴はこっちにいるんだがな。

 ハサンは受け取った花の蜜をいつの間にか飲み終えたらしく、空になった葉っぱ製のコップが置いてある。ハサンは鋭くポルトを睨みつけ、詰問するような姿勢を崩さない。


「私たちはバジリスクの巣に案内すると言われていたの。食糧はありがたいけど、でも、嘘を吐いたことには変わりないわよね? あなた、一体どういうつもりなの?」


「……あ、あたしだって、バジリスクは倒したいさ! 本当だよ!」


 弾けたように、ポルトは大きな声を出した。


「魔術だっていっぱい練習したし、あたしは強くなった! けど…………いざ、本当にバジリスクを退治するんだってなったら、怖くなっちゃって……気づいたら、家の方に足が向いちゃってたんだよ……」


「……要するに、ビビったって訳?」


「び、ビビってなんか…………うぅぅ……」


「なんだよ。ポルトお前、俺たちがバジリスクを退治できるって、信じてくれなかったのか?」


「だ、だって! 相手はあのバジリスクだよ⁉ 誰が来たって勝てる筈ない…………あ、あたしまで巻き込まれて死ぬのは、嫌だったんだ!」


「呆れた……随分な大口叩いてた割に、小心者なのね」


「う、うるさいうるさい! あたしは、あたしはすごかったんだ! 魔術を使える、唯一のピクシーだったんだ! それなのに…………」


 ポルトは大粒の涙をぼろぼろ流しながら言うと、それきり押し黙ってしまった。

 …………まぁ、そりゃ信用はできないよな。いきなり現れたかかしと人間が、バジリスクっていう強大な魔物を倒すって言っても。

 そこは、俺も酷なことをしちまったかな。


「でもポルト、いいのか? エイセンからの指示、破っちまったことになるぞ?」


「っ……そうだよ、それもヤバいんだよ……! このことがバレたら、あたしはエイセン様に怒られちゃう。いや、バジリスクを放置したってなったら、この群れにだって戻れなくなっちゃうかもしれない! エイセン様はこの森の長老なんだ! それくらい偉いんだよ! あぁ…………あたしのバカバカバカ! なんでこんなことしちまったんだろう……!」


「……なるほどなぁ」


 さて、今の状況を整理してみるか。


 まず、俺とノエル、ハサンの状況。エイセンからバジリスク退治を頼まれて、それを達成すればこの森から抜けられるルートを教えてもらえる。


 そして、ポルトの状況はというと…………エイセンからの指示を破り、俺たちをバジリスクの下ではなく、自分の家まで案内してしまったと。このままだと最悪、群れから追放の憂き目に遭うかもしれない。


 それを挽回する手段はといえば……。


「やっぱ、バジリスクを退治する他ないんだろうなぁ」


「む、無理だよそんなの! あんな強い魔物、倒せる訳がない!」


「倒せるさ」


 俺は、そう断言する。

 相手がもし本当に、俺が知っているバジリスクなら――――勝機はある。


「な、なんで、なんでそんな言い切れるのさ! 相手はバジリスクだよ⁉ この世界で、最強の一角を担うとまで言われる魔物だ! それをなんで……⁉」


「俺はな、この娘の――――ノエルの家族を探すために旅をしてるんだ。その旅の障害になる奴は、どんな奴でもぶちのめすって、決めてるんだ」


「……で、でも――」


「安心しろ、お前の力も必要になる。……取り敢えず、今夜は泊まらせてもらうぜ。一日中歩きっ放しだったからな。うちのお嬢様二人がすっかりお疲れだ」


「…………本当に、バジリスクを倒せるのかい?」


「本当さ、約束する」


 指切りは、まぁできないんだけどな。

 バジリスク退治は、ともあれ、明日の朝まで持ち越しとなったのだった。


 アルレッキーノの描く、勝利へのシナリオとは……⁉

 次回更新は明日22時頃! 次話はなんとお色気回(予定)! お楽しみに!

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