第24話 正しくないかかしの使い方
「あ、あなたの魔力を使うって、そんなの、どうやって――」
「リュアの槍を覚えてるか? 山賊の、ナイフでもいい! あの要領だ!」
ノエルを脇に下ろし、傍らに立たせたハサンに、俺は言った。
ずっと、考えてはいたことなのだ。
俺自身はかかしだが、膨大な魔力を持ち、また魔術を使うこともできる。だが、あくまで俺はかかしなのだ。物なのだ。なら、リュアが槍を利用して魔術の精度を上げていたように、山賊がナイフを利用して魔術を使っていたように、俺自身を利用して、他人の魔術の精度を上げられはしないか、と。
ハサンは決してバカじゃない。寧ろ賢い部類だ。
一瞬で俺の意を汲んだらしく、目を大きく見開いてみせた。
「つまり……あなたを武器に見立てて、魔力を巡らせて、魔術を使えっていうの? …………で、でもそんなの、やっぱり無理よ! 私の魔術じゃ――」
「だが、俺の魔術でも簡単には倒せねぇ! 頼む! ノエルを守るためにも――――力を貸してくれ! ハサン!」
「っ…………!」
眉間に皺を寄せ、思案するような顔を見せるハサン。
だが、熟考するような時間は残されていない。
こうしている間も、エントはじわじわと距離を詰めてきていた。どすっ、どすっと地面を根で突き刺す音が、見る見る近づいてくる。
俺が『黄泉王の巨腕』で吹き飛ばしたところで、焼け石に水だ。こいつらはすぐに元の位置まで戻ってくる。
それどころか、徐々に進撃してくる。
遂に――――エントの根が、ハサンめがけて伸びてきた!
「っ! ハサンっ!」
「~~~~~~えぇいっ! 分かったわよ! やればいいんでしょ、やればぁっ‼」
そう言うと、ハサンは俺の胴体を掴み、力任せに持ち上げた。
俺の体重は丸太二本分+α。女子でも決して持ち上げられない重さじゃない。
触れた瞬間から、いつもノエルが抱きついてくるのとは違う、感触を得ていた。
なにかが流れ込んでくる――――これは、ハサンの魔力か。
全身を、ハサンの魔力が包み込んでいく。
そんな俺を、ハサンは――――思いっ切り前方へ振りかぶった。
「来るなぁっ! こっち来るな、あっち行けぇえええええええええええええええええええっ!」
がむしゃらに振り抜いたそのタイミングで、ふっ、と魔力が俺から離れていくのを感じた。
そして――――目の前まで迫っていたエントの身体が、真っ二つになっているのを、時が止まったような視界で目撃した。
「え?」「へ?」「うわぁ……!」
根から先端まで、真っ二つに切られたエントは、そのまま力なく斃れ――――やがて、魔力へと分解され、光の塵となって消えていった。
今のが、ハサンの魔術?
おいおいちょっと待てよ、どこが弱いって? どこがダメだって?
めっちゃくちゃ強いじゃねぇか!
「お、おいハサン! すごいぞお前! 謙遜する必要なんてどこにもねぇって!」
「す、すごいのはあなたよ! なにこの魔力量……全然、底が見えない……!」
「っ、次来るぞ! ハサンっ!」
「は、はいっ!」
素早く反応したハサンだったが、しかし、エントの猛攻の方が速かった。
仲間を倒されて激昂したのか、エントたちは一斉に根を伸ばしてきたのだ。気づいた時には既に、目の前はエントの根で埋め尽くされていた。
今からハサンに、俺を振り回す時間はない!
くそっ! こうなったら一か八か!
「ハサンっ! ありったけの魔力を俺に注げぇっ‼」
「や、やってるわよもぉおおおおっ‼」
全身に漲るハサンの魔力を感じながら、俺は念じた。
イメージは、風を纏うように、それだけで浮力たり得る竜巻でも纏うかのように。
全身から風を吹き出し、空中さえ自在に闊歩する姿をイメージする!
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおお――――『風神の蠢動』!」
「えっ? き、きゃぁあああああああっ⁉」
「ふわぁっ⁉」
瞬間、下の方から夥しい数の刺突音が聞こえた。
そう、下の方から。
俺とハサンと、そしてノエルは今――――空を、飛んでいた。
俺の身体に纏わせた風によって、俺たちは、空での移動手段を得たのだ!
「う、嘘……! こんなの、でたらめ過ぎよ! 信じらんない!」
「嘘でもなんでも、現にできちまってんだ! 活かさない手はねぇだろうよ! なぁ、ハサン! ノエル!」
「す、すっごーい! 今度は空飛んじゃったよ! ハサン、ハサンもアルもすごいすごーいっ!」
「……ほんっとこの娘は、人の気も知らないでぇっ‼」
中空で、エントたちと目が合う。
俺たちとエントは、その瞬間、確かに睨み合った。俺はハサンとノエルを背に負い、彼女たちを守ると姿勢で宣言していた。
一方のエントたちは、本能を剥き出しにして、枝を振るってきた。
俺は、両腕の端から鎌のように伸びる風の刃で、それに応じる。
生き残るのは、どちらか一方だと、この瞬間、場にいる全員が理解した。
森の魔物vsアルレッキーノ&ハサン。果たして勝者は――?
次回更新は23時頃! お楽しみに!




