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かかしに転生した俺の異世界英雄譚  作者: 緋色友架
第1章 山賊討伐編
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第19話 熟考と決断


「? 意味が伝わらなかったかしら? 要は、あなたたちの仲間に入れて、と言っているのだけど?」


 ハサンは小首を傾げつつ、きつい目つきを柔らかく緩ませながらそう言った。

 内容的には、繰り返した、と言ってもいい。


「い、いや、意味は分かるんだが」


「じゃあ、なに? きょとんとした顔……いえ、顔は変わってないのよね。なんていうか、きょとんとした雰囲気しちゃって」


「……正直言うと、理由を図りかねてる」


 言葉通り、俺は正直にハサンに告げた。

 先程からハサンの言葉の端々には、高い教養が感じられる。少なくとも、山賊のそれとして想定されるより、よっぽど頭は良さそうだ。

 それに、物騒な脅迫をしてはいるが、ハサンから敵意は感じられない。

 ならこちらも、腹を割って話すのが一番だろう。


「理由?」


「お前が、俺とノエルと一緒に旅がしたいっていう、その理由だよ。別にそんなことしなくったって…………今回がそうだったように、俺とノエルの旅は、安全が保障されたものじゃない。ノエルの……あの娘の家族を探すための、当てもない旅だ。そんなのに加わりたいっていう、お前の真意が、正直俺には分からない」


「……私だって、別に旅がしたい訳じゃないわ。できることなら安全なところに…………できれば『聖都』なんかに腰を据えて、毎日安穏と暮らしたいわよ」


「『聖都』?」


「……知らないならいいわ。とにかく、私は旅がしたいんじゃないの。けど、この状況下じゃ、そうせざるを得ないのよ」


「? そりゃ、どういう――」


「……私は、実の親に売られたのよ。だから、山賊をやってた」


「……!」


 ハサンの言葉に、俺は思わず凍りつく。

 だが、この世界じゃそんなことが珍しくないのを、同時に俺は知っている。ビゾーロ=パンタローネという前例を、俺は忘れた訳じゃない。人身売買という、明らかな『間違い』が、この世界では蔓延っているのだ。

 ハサンも、元はそんな人身売買の、被害者だったのか。

 そういえばさっきも、山賊稼業を『やらされていた』と言っていたっけ。


「……なら、ますます分かんねぇよ。嫌だった山賊稼業から、今回の件で足を洗える訳だろう? だったら、どっかの村にでも――ステュクス村にでも――住んでみればいいじゃねぇか。その方が、ほら、この村ならリュアもいるし、安全だと思うぜ?」


「…………」


「……な、なんだよ。そんな冷たい目で見て」


「アルレッキーノ。あなた、もしかして平和な村にいたのかしら? あ、治安って意味じゃなくて、頭の方の話よ」


「……自分で言うのもなんだが、そこそこ地獄みたいなところにいたぞ」


 とは言っても、その頃は物言わぬただのかかしだったしなぁ。

 人間同士の生活の機微については、確かに疎い。元が人間なのにも拘らず、だ。


「まったく…………少し考えれば、すぐに分かることじゃない。ステュクス村に住む? 冗談じゃないわ。あの村の連中には、既に私の顔は『山賊の一味』として知られてるわ。知れ渡ってるわ。たとえあなたがフォローしてくれたとしても、受け入れてくれるなんて保証はないわ。寧ろ、あなたたちがいなくなったら、喜んで村八分よ。子供たちを攫って、食糧全部を要求した上、その内三人を殺した山賊のお仲間よ? あなただったら、平然と接することができる?」


「…………そりゃ、難しいか。すまん、配慮の足りん発言だった」


「本当よ。それに……私のこの顔じゃ、どんな村に行こうと訝しがられるわ。まともな生活なんて、こんな傷物にされた時点で不可能なのよ」


「…………」


「私は言った通り、魔術については山賊のクズ共よりも弱いわ。一人で生きていけるほど強くなんかないし…………あなたに見捨てられたら、早晩魔物の餌になって、人生終了ね」


「……そんなこと、分かんねぇじゃねぇか。お前のことを受け入れてくれる村だって――」


「ないわ」


 俺が言い終わるより早く、ハサンはそう断言した。

 まるで、過去にそれを断念したことがあるかのように、力強く。


「山賊は……どんなことをされたとしても、いなくちゃいけない場所だったの。逆に言えば、そこにいていいって、認めてもらえた居場所だったのよ。こんな顔になってでも…………山賊では、いていいって、認めてもらえてた……そんな場所、他にあると思う?」


「…………」


 それは、虐待を受けて育った子供の思考に似ていた。

 虐待をされること、それ自体を自分の存在理由にしてしまう、分かりやすい本末転倒。しかし、それをしなければ生き続けられなかったというジレンマ。恐らく、家族から売られた際にも一悶着あったのだろう。でなければ、考え方がこんなにも捻じ曲がることもないだろう。


「もちろん、あなたが隠したいと思うなら、今回の一件については墓場まで持っていくわ。あなたは山賊を『退治し』『撃退した』。それで生涯通すことにする。それが真実だとしたって、私にはなにも困ることはないしね。山賊から解放してくれたことに、一応感謝をしているのは本当なのよ? 迷惑しているのも本当だけど」


「……俺が、お前から居場所を奪ったからか?」


「分かってるなら、話は早いわ」


 音もなく、ハサンが俺の元まで近づいてくる。

 魔力は、感じない。魔術を使っている訳ではなさそうだ。裸足であったとしても、こんな山道を足音一つ立てないで歩くなんて、並の芸当ではない。この技術もまた、山賊に『いていい』状況を作るために、体得したものなのだろうか。

 そう考えると、胸の辺りが締め付けられるように切なくなる。

 ハサンは俺の胸の辺りに空いた穴に指を突きつけ、強い口調で言った。


「アルレッキーノ。あなたは、私が所属するのを許可された場所を一つ、潰してみせたのよ? だったら、その責任を取るのが、あなたの役目じゃないの?」


 俺が犯した罪によって。俺の犯した『悪』によって。

 窮地に立たされた、女の子がいる。

 それを見過ごすのは――――果たして、俺にとって是か非か。


「…………分ぁったよ」


 答えは――――考えるまでもなかった。

 困っている少女がいる。それを見過ごすのは、俺の中じゃ『普通』にあり得ない。

 ステュクス村の子供たちを解放する条件でもあるのだし、断るという選択肢は存在していない。


「俺はかかしのアルレッキーノ。ノエルって娘の家族を探すために旅をしている。なんでかかしが動いて喋って、魔術まで使えんのかは、俺も分からん。そういうものだと納得してくれ」


「私はハサン。山賊上がりだし、情報収集と気配を消すのは得意よ。一応、風の魔術は使えるわ。弱いけど…………今後とも、よろしくしてくれるとありがたいわ」


「……子供たちは、返してもらうぞ。構わないな?」


「一向に。私、子供って苦手なのよ。あ、でも――」


「でも?」


 その瞬間。

 きゅるるるる~、という可愛らしい悲鳴が、ハサンの腹から響き渡った。


「…………夜中で構わないから、少しだけ、食糧を貰えるかしら。ほぼ飲まず食わずでもう一週間近くになるから……さすがに、なにか食べないと死ぬわ」


 子供たちを取り戻し、仲間も増えたアルレッキーノ!

 次回更新は明日の22時頃! 第1章最終回です!

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