第15話 とある少女の視点
【注意】
今回はタイトル通り、アルレッキーノではなく『とある少女』の視点での物語になります。
世界は、残酷だ。
そんな簡単なこと、私みたいなバカにだってすぐに分かる。逆に、こんな簡単なことを知らずに生きている奴らがいること自体が、信じられない。吐き気がする、
寧ろ、私みたいな『持たざる者』の方が、世界の本質に迫れるんじゃないかって、勘違いしそうになる。
この世界に蔓延るのは、奪い合いと格差だ。
この世界を支配するのは、嘘と理不尽だ。
そうでないと説く者がいるなら、じゃあ世界はなにでできているのか、じっくり時間をかけて問い詰めたい。そうすればすぐに気づくだろう。自分の平和ボケした理論に、私みたいな『例外』は含まれていないことに。
夜は、好きだ。特にこんな、死神さえも寝静まるような静かな夜が。
テキトーに見つけた洞窟の中。薬を嗅がされて眠っている子供たちが、出荷される野菜のように並んでいる。月明りは殊の外明るくて、一人一人の顔がよく見える。
何度も何度も、私たちの邪魔をしてくれたリュア=ステンノとかいう奴の顔も。
数日前、魔術を扱うかかしと共にステュクス村に訪れた、色白の少女も。
「……ごめんなさいね。私だって、やりたくてやった訳じゃ、ないんだから」
どうせ聞こえていないだろうに、そんな言葉が口を衝いて出てくる。
あぁもう、本当にバカバカしい。
山賊の長は、私によく言う。情なんか捨てろ。自分のことだけを考えろ。俺に尽くすことだけに専念しろ、と。
最後の一つは最高に余計だけど、前半二つは事生きる上においては、まったく正しいような気がしてならない。
子供だから可哀想だとか、人のものだから奪ってはダメだとか、情や道徳に縛られていては山賊稼業は成り立たない。私は何度言われてもその辺の割り切りができなくて、何度も何度も折檻された。
ぐぅうううう、と野犬みたいな低い唸り声が腹の中から聞こえてくる。
ぐらぁ、と視界が揺れる。頭を地面に強か打ち付けて、私は自分が平衡感覚すら保てないほどに空腹なのだと、改めて気づいた。
もう、まともな食糧を食わなくなってから、一週間は経っただろう。
葉っぱや樹の根、虫で腹を誤魔化すのも、もう限界だ。
私でさえこうなのだ。他の山賊の、血気盛んな面子たちはさらにこの上をいくだろう。そうでなければ、村中の子供を全員誘拐するなんて、そんな突拍子のない策を思いつくはずもない。
こんな迂遠なことをするくらいなら、食糧をさっさと奪ってくればいいものを。
報復を恐れるのは、自身の行為に後ろめたさがあるからだ。道徳を踏み躙り、不道徳を笑うのが私たち山賊の仕事。奪い取るなら骨の髄まで。
…………村人全員を殺せばよかったんじゃ、と、思ってしまう私自身が死ぬほど呪わしい。
流石の山賊たちも、そんな度胸はなかったか。それとも単に、殺す手間を惜しんだか。
私たちにとって、殺しは最終手段だ。威しで済むなら、それが一番いい。好き好んで人を殺す奴なんか、狂人か、或いはそれよりもっと性質の悪いなにかだ。
或いは、食糧の保存場所が分からなかったのかもしれない。村全体に薬は散布したから、みんな眠っていただろうし。
あぁ、考えがまとまらない。
というか、考えること自体、意味なんかないんじゃないか。
せっかくの静かな夜なのに――――私は、洞窟で人質の見張り番。
無邪気な寝顔を晒すリュア=ステンノの、豊満な胸がぷるんっ、と揺れるのが見えた。
……よせばよかったのに、自分のと比較してしまう。なくはない、なくはないけれど、男を誑かすには圧倒的に足りないサイズ感。山賊の奴らにも、散々それはバカにされている。
「……私より、あんたの方が、いい慰み者になりそうね…………そしたら、私はお払い箱かしら」
まぁ、どうでもいいけれど。
きゅるるると、腹の根がうるさい。空腹が度を越してくると、頭の裏側がチクチクと痛むのだ。まるで針で刺されているように。
あぁ――――おなか、空いたなぁ。
ひもじくて苦しくて、餓死という現実が、すぐそこまで来て口を開けている。
…………いっそ、それでもいいか。
なんて、思った。
瞬間。
「…………?」
地響きだ。
洞窟全体が震動し――――いや、地面そのものだ。
私たちの立つ大地そのものが、まるで胎動しているかのように揺れていた。
不規則で、おどろおどろしいほどに強い地鳴り。
私は――――ふと、思い出していた。
地面に寝転び、死を覚悟しながら。
そういえば、と思い出す。
「あのかかしも…………地面を、操る魔術、使えたっけね……」
少女は一人、夜になにを思う――――。
次回更新は30分後! お楽しみに!




