表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かかしに転生した俺の異世界英雄譚  作者: 緋色友架
第1章 山賊討伐編
15/67

第15話 とある少女の視点

【注意】

 今回はタイトル通り、アルレッキーノではなく『とある少女』の視点での物語になります。


 世界は、残酷だ。


 そんな簡単なこと、私みたいなバカにだってすぐに分かる。逆に、こんな簡単なことを知らずに生きている奴らがいること自体が、信じられない。吐き気がする、


 寧ろ、私みたいな『持たざる者』の方が、世界の本質に迫れるんじゃないかって、勘違いしそうになる。


 この世界に蔓延るのは、奪い合いと格差だ。

 この世界を支配するのは、嘘と理不尽だ。


 そうでないと説く者がいるなら、じゃあ世界はなにでできているのか、じっくり時間をかけて問い詰めたい。そうすればすぐに気づくだろう。自分の平和ボケした理論に、私みたいな『例外』は含まれていないことに。


 夜は、好きだ。特にこんな、死神さえも寝静まるような静かな夜が。


 テキトーに見つけた洞窟の中。薬を嗅がされて眠っている子供たちが、出荷される野菜のように並んでいる。月明りは殊の外明るくて、一人一人の顔がよく見える。


 何度も何度も、私たちの邪魔をしてくれたリュア=ステンノとかいう奴の顔も。

 数日前、魔術を扱うかかしと共にステュクス村に訪れた、色白の少女も。


「……ごめんなさいね。私だって、やりたくてやった訳じゃ、ないんだから」


 どうせ聞こえていないだろうに、そんな言葉が口を衝いて出てくる。

 あぁもう、本当にバカバカしい。


 山賊の長は、私によく言う。情なんか捨てろ。自分のことだけを考えろ。俺に尽くすことだけに専念しろ、と。


 最後の一つは最高に余計だけど、前半二つは事生きる上においては、まったく正しいような気がしてならない。

 子供だから可哀想だとか、人のものだから奪ってはダメだとか、情や道徳に縛られていては山賊稼業は成り立たない。私は何度言われてもその辺の割り切りができなくて、何度も何度も折檻された。


 ぐぅうううう、と野犬みたいな低い唸り声が腹の中から聞こえてくる。


 ぐらぁ、と視界が揺れる。頭を地面に強か打ち付けて、私は自分が平衡感覚すら保てないほどに空腹なのだと、改めて気づいた。


 もう、まともな食糧を食わなくなってから、一週間は経っただろう。

 葉っぱや樹の根、虫で腹を誤魔化すのも、もう限界だ。


 私でさえこうなのだ。他の山賊の、血気盛んな面子たちはさらにこの上をいくだろう。そうでなければ、村中の子供を全員誘拐するなんて、そんな突拍子のない策を思いつくはずもない。


 こんな迂遠なことをするくらいなら、食糧をさっさと奪ってくればいいものを。


 報復を恐れるのは、自身の行為に後ろめたさがあるからだ。道徳を踏み躙り、不道徳を笑うのが私たち山賊の仕事。奪い取るなら骨の髄まで。


 …………村人全員を殺せばよかったんじゃ、と、思ってしまう私自身が死ぬほど呪わしい。


 流石の山賊たちも、そんな度胸はなかったか。それとも単に、殺す手間を惜しんだか。

 私たちにとって、殺しは最終手段だ。威しで済むなら、それが一番いい。好き好んで人を殺す奴なんか、狂人か、或いはそれよりもっと性質の悪いなにかだ。

 或いは、食糧の保存場所が分からなかったのかもしれない。村全体に薬は散布したから、みんな眠っていただろうし。


 あぁ、考えがまとまらない。


 というか、考えること自体、意味なんかないんじゃないか。

 せっかくの静かな夜なのに――――私は、洞窟で人質の見張り番。

 無邪気な寝顔を晒すリュア=ステンノの、豊満な胸がぷるんっ、と揺れるのが見えた。

 ……よせばよかったのに、自分のと比較してしまう。なくはない、なくはないけれど、男を誑かすには圧倒的に足りないサイズ感。山賊の奴らにも、散々それはバカにされている。


「……私より、あんたの方が、いい慰み者になりそうね…………そしたら、私はお払い箱かしら」


 まぁ、どうでもいいけれど。

 きゅるるると、腹の根がうるさい。空腹が度を越してくると、頭の裏側がチクチクと痛むのだ。まるで針で刺されているように。

 あぁ――――おなか、空いたなぁ。

 ひもじくて苦しくて、餓死という現実が、すぐそこまで来て口を開けている。

 …………いっそ、それでもいいか。

 なんて、思った。

 瞬間。


「…………?」


 地響きだ。

 洞窟全体が震動し――――いや、地面そのものだ。

 私たちの立つ大地そのものが、まるで胎動しているかのように揺れていた。

 不規則で、おどろおどろしいほどに強い地鳴り。


 私は――――ふと、思い出していた。


 地面に寝転び、死を覚悟しながら。

 そういえば、と思い出す。


「あのかかしも…………地面を、操る魔術、使えたっけね……」


 少女は一人、夜になにを思う――――。

 次回更新は30分後! お楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ