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かかしに転生した俺の異世界英雄譚  作者: 緋色友架
第1章 山賊討伐編
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第13話 名前の意味


 用心棒であるリュアと戦ったり、山賊と戦ったり、よく考えればその前にダークドラゴンが襲ってきたりと、なにかと内容の濃い一日が終わったところで――――翌日。


 俺は、リュアの家の裏にある山の一角に来ていた。

 ノエルに履かせてもらった靴で、しっかりと地面を踏みしめる。

 そこから注射のように、自分の中にある魔力を地面に染み込ませるようなイメージを作り出す。

 あとは、ひたすらに念じるだけだ。


 動け。


 動け。


 動け、動け、動け。


 動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け――――――――――



「う、おぉっ⁉」


 動いた。

 地面が、念じただけで動いたのだ!


 俺の踏んでいる一点が、他の地面を掻き分けるようにして動いた。まるでサーフボードにでも乗っているような感覚。動けと念じれば念じるほどに、地面は速度を増して動いていった。

 次いで、伸びろ、と念じてみる。

 すると、地面は細長く隆起し、螺旋を描くようにして俺を高度数メートルの位置まで簡単に連れて行ってくれた。


「お、おぉ……これはすげぇな……!」


「うわぁっ! すごいの! アルが螺旋階段の上にいるの! 王子様みたい!」


「え? お、おわぁっ⁉」


 急に下から聞こえた声に気を取られた瞬間――――集中が途切れた。

 こじゃれた回廊のように細く隆起していた地面は一気に崩れ、俺は地上数メートルの高さから落下する。どたぁっ、と派手な音が鳴ったが、身体を見てみる限り、どこも壊れたりはしていないようだ。ホッと胸を撫で下ろす。

 なにせかかしの身体だ。痛覚なんてものがないから、どこか壊れても気づけない恐怖がある。


「あー、びっくりした…………」


「あ、アル⁉ 大丈夫⁉」


「おー、平気平気。ってかノエル、来てたのか?」


 慌てて駆け寄ってきたノエルに、思わず問いかける。

 ズタ袋を被ったようだった服装は一変しており、こじゃれたワンピース姿になっている。真っ赤な色のセンス的に、リュアの子供時代の服を貰ったのだろう。花をあしらった模様が、可憐なノエルの雰囲気にぴったりだった。

 しかし…………魔術の練習と一口に言っても、俺の魔術は大地そのものに干渉する。制御が利かない内は、広範囲を不意に巻き込んでしまう可能性がある魔術だ。そんな俺の傍にいたのでは、危険が増すばかりだと、リュアに預けてきたのだが……。


「ご、ごめんなさい! わたしが、その、急に声かけちゃったから……」


「いいって、気にすんな。寧ろその程度で集中切らすようじゃ、まだまだってことなんだろ。いいぜ、こういう修行パートは割と好きな方だ」


「しゅぎょうぱーと?」


「あー、いやなんでもない。こっちの話だ」


 こっちっていうか、あっちの世界の話だな。

 少年漫画で修業シーンって、省略され気味だよなぁ。あれがないと、俺はどうしても主人公が急に強くなったところに納得しがたいものを感じるんだが…………俺だけなのかな? こんな屁理屈みたいな不満を持つ奴は。


「おー、やってんねぇ」


 と。

 山道をひょいひょいと、慣れた足取りで登ってきたのは、木の槍を携えたリュアだった。


「おいリュア。修行の間はノエルのことを見といてくれって、そう頼んだじゃないか。俺がヘマして、魔術に巻き込んじちまったらどうするつもりだったんだよ」


「あたいだって止めたんだよ? けれど、『アルのがんばってるところ、見に行くのー!』って聞かなくってさぁ」


「だ、だって…………アル、わたしのために頑張ってくれてるんだし……」


「その気持ちは嬉しいんだがな……」


 さすさすと、ノエルが俺の身体を撫でている。

 別に痛みもなにも感じないんだし、今も撫でられている感触を、俺は感じられない。だから、そんなに気を遣ってくれなくてもいいんだけどなぁ。

 それよりもまず自分の身を案じてくれ。


「まぁ仕方ないね。女の子の我儘ってのは、こりゃ梃子でも動かないわ。アルレッキーノ。絶対にノエルを巻き込まないように、魔術の練習頑張ってねー」


「いきなり難易度高いな! ……まぁ、今のは上手くいったみたいだけど」


「お? そうなの? 丁度今見逃してたからさぁ。練習の成果、この師匠に一丁見せてみんしゃい!」


「いつ師匠になったんだよお前は……」


「へ? 色々教えたげたじゃん。コツとか」


「師匠の名はそんな安かねぇだろ」


 心底惚けたような面をしたリュアに一通り突っ込むと――――俺は再度、集中する。

 自分の、かかしの身体の中心に、魔力が集まっていくようにイメージする。それが真っ直ぐに脚の部分を通り、地面へと浸透していくのだ。そして、魔力が染み込んだ地面は、俺の手足のように動かせる、そんなイメージを崩さない。

 まるで泳ぐように、蠢くように、地面そのものを動かす移動術!


「『大地の蠢動(グランドムーブメント)』!」


 瞬間、足元の地面が僅かに隆起した。

 俺の乗っている地面だけが、まるで波のように高くなり、そのまますいすいと周囲を移動していったのだ。まるで、地中を泳ぐ魚の上に乗っているような感覚。ノエルやリュアの周りをぐるぐると回ると、さらにさっきして見せたように、大地をしゅるしゅると螺旋状に隆起させていく。


 ビシッ、と螺旋の上で決めポーズ。

 それを地上で見ていたノエルは、楽しそうにパチパチと拍手している。師匠を名乗るリュアはと言えば、にやり、と八重歯を見せて笑っていた。


「へぇ、上手くいったみたいじゃん。初めてほんのちょっとでこの精度とは、驚いたよ。ノエルを巻き込むだなんて、とんだ杞憂だったね。あんた、魔力のコントロールはめちゃくちゃ上手いよ、アルレッキーノ」


「そうか? そういってもらえると嬉しいぜ、師匠。お前に教えてもらったコツも、なかなかいい感じだ」


「あ、あぁ…………あの、ちょっと恥ずかしい感じのね?」


「恥ずかしいとはなんだ。スタイリッシュでカッコいいだろうが」


「う、うん。そういうことにしとくよ……」


 なんだか煮え切らない態度のリュアの前に、俺は地面を沈めて立ってみる。

 すると、背後からノエルがぎゅうっ、と抱きついてきた。


「アル、アル、アルっ! 今の! 今のすごいの! わたしも、わたしも一緒にやれる? くるくるって、びゅーんって! すっごく楽しそうだったの‼」


「……遊ぶための魔術じゃねぇんだけどなぁ」


「ダメ、なの……?」


「……しゃぁねぇなぁ。一回だけだぞ?」


「わーい! アル、大好きなの! 元から大好きだけど!」


「へいへいよっと――――『大地の蠢動(グランドムーブメント)』!」


 唱えると、三度地面は小さく隆起し、そのまま自在に動き出した。

 左右でも上下でも、自由自在、思うが儘だ。サーフィンに乗っているかのような高揚感。それは、背中にしがみついているノエルも同じようで、絶叫マシンに乗ったような、悲鳴か歓声か区別し難い奇矯な声を上げている。


 ――――俺が最初に必要性を強く感じたのは、攻撃でも防御でもなく、移動するための魔術だった。


 俺はかかしだ。なんの因果か、こんな姿で生まれ変わったものは仕方ないにしても、この姿で最も不足しているのは機動力だ。ぴょんぴょんと、跳ねて移動するだけではどうしても速度が足りない。

 実際、昨日は飛び跳ねてリュアのことをすんでのところで守れたが。

 あの時、同時にノエルを狙われていたらと考えると――――ゾッとする。当時の俺の機動力だったら、確実に処理し切れなかっただろう。

 そういう経緯で生まれたのが、自分の足元の地面を操作し、波乗りのように高速で移動する魔術――――『大地の蠢動(グランドムーブメント)』だ。


 ちなみに、魔術に名前を付けることを推奨してきたのは、他ならぬ、若干俺のネーミングセンスに引いているリュアだった。

 リュア曰く、それが『コツ』なのだそうだ。今朝、朝食の席でリュアは俺にこう話してくれた。


「魔術ってのは、要はどれだけ強くイメージし、それを魔力に反映できるかって話だからね。一つの型、技にそれぞれ名前を付けて、イメージを固定しちゃうといいんだよ。それを反復練習することで、安定して魔術を繰り出すことができる。あたいの『プロスエッダ』なんかは、その代表例だね」


 理屈としては単純だが、効果は絶大だ。

 技のイメージを固定化し、どんな状況でもその魔術を繰り出せるようになるのは、ノエルを守る上で欠かせない動作だ。移動、防御、攻撃、回避。どれを選択するにしても、機動の大半を魔術に頼らざるを得ない俺の身体ではなおさらだ。

大地の蠢動(グランドムーブメント)』は、まだ始まりに過ぎない。

 ここからさらに派生技や、攻撃、防御のための技も形にしていかなくてはならない。道は長いが、『大地の蠢動(グランドムーブメント)』の会得で、先行きは見えてきた感じがする。

 昨日、リュアの魔術を見せつけられた直後とは、まるで違う。

 目標とイメージ、そしてやる気が漲ってくる。


 と、そこでふと、疑問が浮かんだ。

 ほんのちょっとした、なんとなくの疑問だ。


「なぁ、ノエル」


 一通り高速移動を楽しんだ末、腹を抱えて笑っていたノエルに、俺は問いかける。

 こいつ、きっと俺が元いた世界に生まれていたら、さぞかしジェットコースター好きになっていただろう。これからもたまにはこういう遊びをやってやろうか、と思案していると、やがてノエルは、少し苦しそうにしながら応じてきた。いや、笑い過ぎだろ。


「な、なに、かな……アル……?」


「いや大丈夫かよお前。……いや、ちょっとしたことなんだけどな」


「?」


「俺の名前。なんで俺を、『アルレッキーノ』って名付けてくれたのかなって…………名前の話題になったんでな。ふと、気になった」


 俺は、生前の名前を憶えていない。

 かかしになってからは、名を与えられていない。

 だから、名前にこだわりなんてなかったのだが、目の前の少女がつけてくれた『アルレッキーノ』というのが、リュアという第三者を置いても通じるような、完全なる『俺の名前』になっている。

 その意味が、気になった。

 どうしてノエルは、俺に『アルレッキーノ』と名付けたのか。

 そこにどんな意味を、願いを込めてくれたのか――――気になったのだ。


「んーっとね…………前、おかーさんが絵本を読んでくれたの。お調子者のピエロさんが、町のみんなを笑顔にするお話。そのピエロさんの名前が、『アルレッキーノ』っていったの」


「ピエロ……」


「わたし、自分からあのおじさんについていったけど…………やっぱり、寂しかったから。だから、あの絵本に出てきた、明るくてすぐ調子に乗っちゃうような、そんなピエロさんみたいな人に傍にいてほしかったの。だから…………かかしのアルに、『アルレッキーノ』って……あのピエロさんと、同じ名前を付けたの。…………いや、だった?」


「そんなことはないさ。素敵な由来だ。ありがとうな」


 名前に込められた意味を知って――――俺は知った。


 俺だけじゃなかったんだって。


 あんな地獄みたいな環境で、生きる支えを欲していたのは、俺だけじゃなかった。

 俺がノエルの、この笑顔に救われていたように。

 ノエルもまた、俺に救いを求めていたのだろう。

 俺はあの頃、それに応えられていたか?

 これから先は――――その願いに恥じぬよう、応え続けると誓おう。


 魔術の修行に対するモチベーションに、また一つ、決して消えない理由ができた。


 本日の更新はここまで!

 次回の更新は明日(日付的には今日?)の夜10時頃を予定しています。お楽しみに!

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