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かかしに転生した俺の異世界英雄譚  作者: 緋色友架
第1章 山賊討伐編
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第10話 弘法だって筆くらい選ぶ


「っ! なんだ、この音は?」


「この音は……侵入者の鐘! ったくあいつら、また性懲りもなく!」


「あ、りゅ、リュア!」


 俺とノエルが止める間もなく、リュアは一気に立ち上がると、そのまま扉をがむしゃらに開けて外へと飛び出した。

 武器であろう、筒状の槍は布団の方へ置きっ放しで。

 ……侵入者、かぁ。もしかしてそれが、リュアの言う『厄介事』なのか?


「ノエル。ちょっくら寄り道していいか?」


「うん。リュアの作ってくれたスープ、すっごく美味しいの。だから、なにかわたしも、お返ししたいな」


「んじゃ、そこの槍を頼むぜ」


 枕元に置いてある槍を目線で示し、俺もリュアの後に続こうとする。

 リュアは魔術を行使する時、常にあの槍に炎を灯していた。この世界における『魔術』の実態がいまいち分からない以上、魔術を使うに際してなにか道具が必要な可能性もある。どちらにしたところで、武器を持っていて損はあるまい。


「あ」


「ん? どうした、ノエル」


「あ、う、え、えと……」


 煮え切らない返答に、俺はノエルの方を見た。

 赤いボタンの視界に入ってきたのは――





「まったく! まぁたあんたらかい⁉ 何度来られたって、なんにも変わんないだけど⁉」


 外に出ると、唐突にリュアの怒声が響いてきた。

 見ればリュアと、なにやら黒尽くめの集団が睨み合いをしている。黒尽くめは、全身を真っ黒な布で隠してはいるのだが、黒が濃過ぎて逆に夜の闇からは浮いてしまっている。見たところ人数は六、七人といったところだ。

 友好的、な間柄じゃあないよなぁ、これは。


「ん? おぉ、アルにノエル。いいよいいよ、下がってて。余所者のあんたらの手ぇかかずらせることじゃないから」


「そういう訳にもいかねぇだろ、もう関わっちまってんだし」


「……驚いた、あんたいい奴だねぇ。かかしなのに。あたい、そういう奴は結構好きだよ。骨のないあいつらとは違うからさ」


「誰が骨がないだこらぁっ!」


 黒尽くめの一人、正面に立つ小太りの男が低い声を響かせた。

 男の手には、無骨なナイフが握られている。よく見れば、顔を隠した集団はそれぞれに得物を手にしており、俺たちなんかより遥かに堂々と、村を侵略しに来ましたってスタイルが整っていた。


「リュア、あいつらなんなんだ?」


「ただのしがない山賊だよ。食糧がないから、なにか飯を寄越せっていうんだ。そんな奴らにくれてやる飯はないだろう? こちとら日々の生活さえ苦しいっていうのにさ」


「へぇ、山賊、ねぇ…………」


 聞いて、俺は少し意外だという感想を持った。

 いつ魔物に襲われるやもしれないのが、この世界の基本だろう? しかし、山賊というからには山を根城にしている訳で…………人里までやってこない、山に潜んでいる魔物の方が、絶対的に数は多そうなんだが。

 まぁ、魔物っていう共通の脅威があるからって、人類全てが一枚岩になるって訳でもないのかな。ビゾーロは少なくとも、自分の金のことしか考えていなかったっぽいし。

 こんな世界で、金を稼いで一体なにをしようとしてたんだか。


「ぐっ……あのかかしって…………っえぇいこのバカ野郎っ‼」


 と。

 不意に、黒尽くめの一人が同じ山賊の一人に殴りかかった。

 口元を隠した、少女と思しき褐色の肌をした山賊は、その衝撃で地面に打ち据えられる。それでも飽き足らないのか、男は今度は腹などに蹴りを入れていく。


「ぐっ、げぇっ」


「てめぇっ! てめぇが、あの女はよく分かんねぇかかしと戦闘になって、気絶しちまったから、今なら大丈夫だとか、そう言ったんだろうがっ! だから俺たちはここまで来たんだぞっ⁉ わざわざ! てめぇなんぞの報告を当てにしてだ! どう落とし前つけてくれんだ⁉ おぉっ⁉」


 どすっ、どすっ、と刺さるように爪先が少女の腹にめり込む。その度に、少女の布で隠れた口から吐くような嗚咽が聞こえた。


 こいつら、なにをやっているんだ……?


 単に仲間割れ? いや、だからといって他の男たちに比べて、明らかにガタイの小さな女の子を、ここまで甚振るか? 常識的に考えて。


「お、おい! やめろお前らっ! その娘、仲間なんじゃないのかっ⁉」


 咄嗟に俺は、そんなことを叫んでいた。

 相手は村を襲いに来たっていう山賊なのに――――いや、そんなことは関係ない。

 どんな立場でも、どんな境遇でもどんな関係でも、人が人を傷つけていい道理はない!

 たとえそれが、立場的には敵に当たるとしてもだ!


「あぁ? てめぇ、なに言ってやがる」


「お前こそなにしてんだよっ! そいつは、その女の子は仲間だろう⁉」


「うるっせぇな! 綺麗事ほざくんじゃねぇ! 虫唾が走るぜ!」


 言うと、男たちは手に持っていた刃物たちを突き出し、それぞれ天に掲げるように構えた。

 ぐ、と男たちの手に力が込められる。



「切り裂けっ!『デスエッジ』っ!」



 叫びが上がった瞬間、ひゅうぅぅぅんっ、と風を切るような音が聞こえた。

 見れば、男たちの得物の周りに、目で見えるほどに膨大な風が纏われていた。特に、正面の首魁と思しき小太りの男は、ナイフの刀身から風を伸ばし、まるで太刀のように扱っている。

 さっきのリュアの魔術は炎。俺のは多分、地面を操る魔術。

 そして山賊たちは――――風を操る魔術か。


「こっちだって面子があるんだ。何度もてめぇみたいな小娘にやられる訳にはいかねぇんだよっ! てめぇら、やっちまうぞ! ここまで来て、なにも収穫なしなんてバカみたいな事態に転んで堪るかっ‼」


「はんっ! いいよ、かかってきな! 返り討ちに――――って、あ、あれ?」


 威勢のよい口上の後、なにかを振り回すような動作を取って、リュアはようやく。

 自分の手に、いつもの槍が握られていないことに気づいた。


「っ! し、しまった槍! 持ってくんの忘れた!」


「はぁ? っははははは! 聞いたかよあの女! いつもの槍忘れたんだってよ! っはは、今のお前なら怖くねぇっ! てめぇらっ、一斉にかかるぞっ! ハサンっ! てめぇもさっさと起きろこの愚図がっ‼」


 リュアが槍を忘れたことがそんなに嬉しいのか、一気に浮かれた顔になる山賊一行。

 そんな彼らとリュアに、いい報せと悪い報せがあるんだよなぁ。


「あ、アル! ノエル! あ、あたいの槍……」


「安心しろ。一応持ってきといた」


「これ、だよね……?」


 恐る恐る、俺の蓑の中から出てきたノエルが、リュアに槍を渡す。

 ついさっき、眠っていた布団の脇に置かれていた、俺相手にも使っていた、その槍を。


「へっへへー。これさえあれば百人力っ! さぁっ、あんたら覚悟し、な……?」


 リュアが髪を逆立て、槍に魔力を纏わせる。

 きっと多分、いつも通りの動作。しかし、その動作にさえ耐え切れず――――ばきぃっ、と木の槍は音を立てて砕けた。

 三等分するように、両端が折れかけ、ぷらーんとぶら下がっている。


「な、なんじゃこりゃ――――――――――――――――――――――――っ⁉」


 そう、これが悪い報せ。

 どうやら槍は俺との戦闘で耐え切れず、壊れてしまったようなのだ。

 最初にひびが入っているのに気づいたのは、持ってこようとそれに触れたノエルだった。ワンチャン大丈夫な可能性に賭けてみたのだが…………やっぱダメだったか。そもそも木と炎って時点で、大分相性は悪そうだったしなぁ。


「ひゃっはーっ! 持ってきた武器まで使えないとか、マジでざまぁだわ! 今日こそ甚振り殺してやんぜ! リュア=ステンノぉっ‼」


「きゃ、きゃ――――――――――――――――――――――――――――――――っ!」


 リュアは、甲高い悲鳴を上げながら。


 向かってきた山賊の懐に潜り込み――――顔面に、思い切りグーパンを決めていた。


「…………はふぇ?」


「いや、愛用の槍が壊れちゃったのはショックだけど…………あたい、槍がなければ戦えない、なんて、一言も言っていないでしょう?」



 武器がなければ戦えないと、いつから錯覚していた?(キリッ

 次回更新も30分後! お楽しみに!

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