008.
俺たちは東京駅へ無事到着した。
正確に言えば『新東京駅』というのが正しいようだ。
東京駅はドーム化計画に合わせて『新東京駅』と改名し、旧新宿エリアに新たに駅が建設された。
ドームはこの新東京駅を中心にして、東は千代田区まで、西は杉並区の一区画まで、南は港区まで、そして北は練馬区と北区の一部区画までをスッポリ覆うように建設されている。
区画名もドーム内は改められ、ドーム北区、続けて西区、東区、南区と呼ばれるようになり昔の地名は「旧なになに区」などと今では呼ばれているんだとか。
まぁ、東京で生まれた訳でも育った訳でもないから、あまり関係のない話しである。
そんなドームに関する記事を手元のスマートフォンで読みながら、ごった返す人混みをかき分け改札を目指した。
所々でドームのAR技術を用いた様々な立体映像が空間上に表示されており、だんだん物理的に存在するのかしないのか、見分けがつかなくなってくる。
駅の中は広大で、歩けども歩けども出口が見えてこないし、周囲の人も何かと忙しそうで、道を尋ねたくてもなかなか声がかけずらかった。
そんな時、目の前ににこやかに立っている駅員らしき女性を見つけた。
「すいません!僕たち駅の外に出たいんですけど、あ、最短ルートでね!」
雄二はその女性になにげなく尋ねる。
「かしこまりました、では・・・」
ややしゃべり方が機械的なその女性は、まるでプロジェクターのスクリーンでも引っ張り下ろすような仕草で上から下へと手を動かす。
すると本当にスクリーンのように、駅全体の地図がスーッと空間投影された。
そして俺たちの位置や、目的地も映像上にマッピングされ出口までのルートが表示された。
俺も雄二も朱美も興味津々に目の前に映し出される映像の地図を見入っていた。
「では私が案内いたしますね」
「え?案内?」
俺達はポカンとした表情で駅員さんを見つめる。
ルートを教えてくれたどころか、出口まで案内してくれるなんて、駅員さんが優しすぎる。
地元の駅員も是非見習ってほしいぐらいだ。
その駅員さんに連れられ俺たちは出口を目指した。
そして、しばらく人混みを歩いた頃。
「あれ・・・え?・・・え!?」
急に朱美が困惑気味にキョロキョロし始める。
「どうしたでござるか?」
ペンタローも朱美の動きに合わせるようにキョロキョロ辺りを見回す。
「あ・・・アレ・・・」
「ん?」
俺もつられて朱美が指した方向を眺める。
「!?」
思わず声を失った。
朱美の指さす方向を見ると、なんと今案内している駅員さんと姿形が全く同じ人が、別の客を案内していたのだ。
「ま、まさか・・・」
「へへへ、お姉さん今おいくつですか?」
そんな事も知らずに雄二は駅員のお姉さんにデレデレと話しかけていた、というかベタすぎだろその絡み方は・・・。
「ゆ・・・雄二・・・あの、その人さ」
雄二が全然気づかないようなので、朱美が恐る恐る雄二に真実を伝えようとする。
「ん??」
間の抜けた表情で俺たちの方へ振り替える雄二。
「到着いたしました、この先が出口になります、それではまた!」
朱美が伝えようとしたタイミングで丁度目的の出口まで到着し、駅員のお姉さんは別れの挨拶を言いながら手を振った。
「ありがとう!また帰る時に会えたらいっすね!」
雄二もにこやかに手を振る。
そして、お姉さんはスーッとその場で姿を消した。
スーッとね。
「アハハ!ハハハハ・・・・」
「ハ!?」
にこやかな笑顔で手を振る雄二だったが一瞬で笑顔が消え、青ざめた表情になった。
「お、お化け!?」
「いや・・・映像だよ」
雄二の一人突っ込みを聞いて、つい真面目に返してしまった・・・。
そう駅員もまた駅構内を案内してくれる立体映像であり、おそらく案内用のAIプログラムだったのだろう。
「アハハ残念だったね雄二~?ほら、あっちにもこっちにもまだお姉さんがいっぱいいるよ~?」
朱美がにやけた顔をして雄二をからかった。
「くそぉ・・・どおりで優しいと思ったぁ」
雄二は肩を落とし残念そうに歩き始めた。
なんだか気の毒な気もするな。
「どんまいシュル・・・」
そんな雄二の横でストレットは呆れた顔で言った。
駅の外に出ると俺は空を見上げた。
・・・いや空じゃなく天井といった方が正しいか。
噂通り青空の映像が天井のスクリーン全面に映し出されていた。
思った以上に違和感は無く、むしろ一番違和感というか不思議な気持ちになったのは真夏の真昼間であるのに、まるで春のような秋のような気候である事だった。
涼しいというか少し肌寒くも感じたりするときもある。
これも噂に聞いていたドーム内のスパコンにより管理されている人工気候ってやつだ。
外では俺達と同じようにファミリアを連れて歩く人たちもたくさんいた。
「すごいでござるなー、こんなに仲間がいるとは、さすが東京でござるな」
ペンタローは腕組みしながら、駅の外で辺りを見回していた。
レリオンもペンタローと一緒に周辺を歩いていた。
「あれ?沙鳥いないね?」
どうもレリオンは沙鳥を探していたらしい。
そういえば遅れること言ってなかったっけ。
「あぁ、ごめん言い忘れてたな、沙鳥は少し遅れるらしいから、てきとうに暇つぶしててくれってさ」
「えぇーつまんないなー」
レリオンはつまらなそうに道の端にある石段座った。
「じゃー沙鳥ちゃんが来るまで何しよっか?あ、ショッピングとか!」
朱美が目を輝かせながら立ち並ぶビルを眺め言った。
確かに辺りを見回せばショッピングモールが立ち並んでおり、女の子なら当然の反応かもしれない。
たださすがにそこまで沙鳥も遅くなるつもりはないだろう。
一応、さきほど改札を出る前に沙鳥には着いたことを伝えているので、待っても30分てとこだろうか?
「そんなに遅くはならないと思うから、少し時間が潰せるとこでいいんじゃないか・・・例えば」
あたりをキョロキョロと見回していると近くにゲームセンターがあった。
「ゲーセンとか?」
そういってそのゲームセンターの方を指さした。
「お!いいねー!つかあれゲーセンかよ、デカすぎだろ!」
「さすがこっちのゲームセンターだね、大っきい!」
二人とも感心しながらゲームセンターの方を眺めていた。
感心するのはいいけど、その発言はなんか田舎者臭いからやめようか・・・、つか田舎のゲーセンだって大きいとこは大きいぞ?
俺たちは駅前にある大きなゲームセンターに行くことに決めた。